2022年8月28日(日)第6回「薬物依存症者と家族フォーラム」

薬物依存症は病気です。~家族が笑顔を取り戻すために~
「罰より前に寄り添う支援を」

 去る8月28日(日)に南公会堂で「横浜ひまわり家族会」の第6回フォーラムを開催いたしました。
国立精神神経医療研究センタ―・薬物依存研究部部長・薬物依存症センター長の松本 俊彦先生を講師にお招きしました。
 家族体験談は、ふたりの娘さんの依存症を正直に語ってくださいました。なんでも話せる家族会は自分にとってオアシスだと話されたのが印象的でした。
 当事者の体験談はユーキさんでした。興味本位で始めた薬物に怒りを忘れることができたと話されていました。今は人との関係が楽しいと感じられるようになり、仲間とともに正直に生きていきたいと思っているそうです。

 松本先生の基調講演は「なぜ いま我が国にも ハームリダクション・アプローチが必要なのか?」というテーマでした。いま我が国の薬物問題を解決するために本当に必要な対策は何なのかについて、「ハームリダクション・アプローチ」を軸にした講演となりました。
そもそも「ハームリダクション」とは、いかなるものか。「ハームリダクション」は公衆衛生政策の理念で、「感染症予防」「社会的機能維持」「過量摂取防止」「治療・支援からの阻害防止」の考えが基本になっています。海外ほどの薬物汚染が深刻で取り締まり困難になった国がやむなく採用している政策で日本には必要ない・治療目的ではなく減らすとする依存症治療・あるいは患者の意向に迎合した甘やかし治療などの誤解もあり、浸透していないのが現状です。
 法と刑罰によって本格的に薬物流通量や使用量の規制をしたのは60年ほど前ですが、それによって薬物の生産量は激増し健康被害は深刻化・密売組織が肥大化している現状があります。「ハームリダクション」を採用してHIV患者の減少・治療アクセス者が増加した国もあります。国民の違法薬物障害経験率が減少し、犯罪・社会的損失の減少も見られ、「ハームリダクション」が成功しているそうです。
 薬物事犯の再犯率は高く、刑罰に効果がないことはこれまでも言われてきていることです。
我が国の薬物依存症の中心は覚せい剤です。刑務所で長く収監されたり何度も収監されたりすると不当な差別を受け、社会生活が安定して送れない現実と向き合うことになります。
 近年では、捕まらない薬物が台頭しています。生きづらさを抱えつつ過剰適応するための市販薬乱用が10代女性に増えています。市販薬のインターネット販売の規制緩和など背景がありますが、トラウマやストレスを抱えていたり、自閉症スペクトラムに該当するなど生きづらさが関係したりしているということです。
 薬物依存者に対する精神保健・精神科医療体制にもこの20年ほどでかなりの変化があります。以前は病棟に鍵をかけたり、大量の向精神薬を処方したり、また薬物依存は病気だといいながら、再使用が発覚したら司法に投げるなどの対応をしていたとのことです。近年「薬物依存症は安心して人に依存することができない病気」であるという考えに変化してきています。そんな変化の中で「ハームリダクション」を念頭に置いた実践が始まりつつあるそうです。「個人の嗜好を否定せず、強みを信じる」
「動機付けの程度に合わせた関わり」「薬物使用を裁かず、適応的な面と不適応的な面があるとみなす」
「正しい方向へのスモールステップを評価する一方で、『変化しない』ことを責めない」など、個別の支援に応用していくことが大切で、患者が変わらないことも含めて向き合うことが必要であるとのことです。
 「アディクション」とは、長期的にみると「自殺の危険因子」ですが、短期的には「クスリ」があったことで生き延びることができた「自殺の保護因子」です。
 国の政策としての「ハームリダクション」には時間がかかりますが、今すぐに実現できる「ハームリダクション」があります。強制的身柄保護の中止・支援者の秘密義務・メディア報道の規制など「治療・相談の場面での守秘義務の保障」、また「ダメ、絶対」や「覚せい剤止めますか?人間やめますか?」といった「予防啓発のコンセプトを変える」というものです。
「アディクションはリカバリーの一部、リカバリーの始まり」。依存症患者のサバイバルをどう支援し、人とのコネクションをつくり回復を目指していきたいと締めくくられました。
 
 「Q&A」コーナーでは、松本先生や横浜ダルク・湘南ダルクの施設長、スタッフ、体験談の方、ファシリテーターとして国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所の片山氏が登壇しました。


会場やオンラインからの質問にそれぞれの立場から考えを伝えていただき、有意義なものとなりました。
当事者にかかわるスタンスとして、「つらかったね」という共感を基本に据え、できることを優先していく、気持ちを聴くことを大事にすることと話されていたことが印象的でした。家族としてのつらさももちろんありますが、落ち着きを取り戻して当事者の気持ちに耳を傾けられるようになると、事態は動いていくのだと思います。

 「30年前からダルクでは一度も排除されなかった。ハームリダクションを実現してほしい」
これが、今回の大きなメッセージではないでしょうか。

今回もコロナが終息しない中での開催となりましたが、300名(会場148名・ZOOM159名)を超える参加がありました。北海道から沖縄まで、横浜から全国の皆さんと問題の共有ができたのは大変よかったと思います。

2022年7月23日(土)家族研修会

講師:横浜保護観察所 統括保護観察 石川 美緒 氏

「保護観察における薬物事犯者への処遇について」と題した研修会を行いました。

まず更生保護の役割として、「社会において適切な処遇を行うことにより社会内で再犯を防いで支えていくというものがあります。刑事司法における再犯防止の要であり、収監中から出所後の生活の環境を整えること、生活環境の調整などが柱となります。社会復帰を促し、再犯防止につなげることが大きな目的となります。保護観察は、犯罪や非行を犯した人が更生するよう、実社会の中で指導監督や歩道援護等を行う仕組みです。定期的な面接等を通して生活状況の把握を行います。

 薬物事犯の状況としては、全体は減少傾向にはあるものの40歳代の覚醒剤取締法違反は増加傾向にあります。大麻においては10代の逮捕者もおり、平成26年を境に若い世代への広がりが見られます。
保護観察官及び保護司による指導として
①   面接による接触確保と行状の把握 
②   保護観察を行っていくうえでの約束事(遵守事項)を守るようにと働きかけること 
③   専門的処遇プログラムの実施
があります。専門的処遇プログラムは令和4年4月の少年法改正により、18歳以上の保護観察対象者にも実施可能になりました。

 保護観察を通じて得てほしいものは、悩みや課題を話し合うことのできる関係作りです。薬物事犯の人は一人で解決しようとする人が多く、友達や家族にうまく相談ができない傾向が強いです。新庄茶往査をするとネグレクトなどの虐待やいじめの経験があることが多いです。心に大きな傷を抱えています。困ったことを相談して解決するという体験の蓄積が今後の生活に必要なスキルになります。そして、大切に思われる経験。自尊感情が持てるようになること。感情が揺れ動いたときに踏みとどまる力の体得、つまり逃げずに解決する力をつけることです。問題の解決方法に関する知恵の習得も大切になります。必要な支援(治療や自助グループ等)に繋がり生きづらさがやわらぐことも大いにあります。

 薬物再乱用防止プログラムを収監中から受講し、社会に出てからも保護観察中に実施し、その後も何かの形で治療プログラムにつながることを目的に実施しています。プログラムは、自分の内面に気づき薬物使用の引き金になることや、孤独な状況を避けるなどを考えていきます。実現可能で自分に合った対処法を学んでいきます。
 地域の関係機関や団体と連携し、切れ目のない息の長い処遇ができることが理想です。薬物依存から脱するための体制を作っていくことが重要課題となっています。家族等への相談支援にも目を向けているところです。
 研修後は家族の質問にも真摯に答えてくださいました。

2022年4月23日(土)研修会

講師:群馬ダルク 施設長 福島 ショーン 氏・代表 平山 晶一 氏

「家族のプログラム」

 今回は会の初めに、日本ダルク代表の近藤恒夫氏の逝去に対し黙とうをしました。近藤さんが存在してくださったからこそ、ダルクがあり回復があったのだと心から感謝しています。ご冥福をお祈りいたします。

 今回は、群馬ダルクの福島ショーン氏と平山晶一氏をお招きして、「家族のプログラム」の研修会でした。お二人は、アメリカ・ハワイでの勉強会に参加し、日本全国を飛び回って家族の回復プログラムの紹介をしています。アメリカは日本に比べて薬物依存症になってしまう人がはるかに多いです。そして、薬物依存に関する知識もはるかに多いといいます。
 近藤氏との出会いは30年以上前で、その出会いがなければ今の自分はいないと話されます。今、生きていることが奇跡なのだと。近藤氏がいたからこそ、回復できることや回復の場があったと。
 ショーン氏はダルクに入寮してからも問題をよく起こし、刑務所にも入ったとのことです。ショーン氏の母は姿を消したといいます。そんな母と今は仲がよくなったといいます。
 平山氏は、16歳からクスリにはまったとのこと。特別でなければいけないという考えに支配され、居場所がなかったといいます。居場所を求めていたはずの場所で、クスリから抜けられず居場所を失っていったとのことでした。

家族が薬物依存症当事者のために何ができるのか?
今日はそんな内容の研修会でした。

①本人が大きな病気になったときと同じように接してください。

依存症はWHOが認めたれっきとした病気です。治療・ケアを続ける必要があります。しかし周りの人がなかなか病気と認められないのはどうしてでしょうか?それは検査しても数値で現れるものではないからです。家族も否認して「うちの子に限って」と心にふたをしてしまいます。

②常に本人と自分の依存症・病気・回復の勉強をしてください。

家族会にたどり着いたときは、本人のことで頭がいっぱいです。自分のことを知り、自分の回復を考えることが大切です。困ったときだけ家族会に来て、困らなくなると家族会に足を運ばなくなります。家族会で常に勉強して、病気と闘う練習が大切です。

③本人に昔話・説教をしないでください。他者と比較しないでください。

「昔はかわいかった。」悪気なく言う言葉が、劣等感を持っている本人には、今の自分を認めてもらえないと感じます。
説教をしても仕方ない、昔には戻りません。説教は思い通りにしたいというコントロールになります。世間やふつうはなどと比較することは、片方のいいところともう片方の悪いところを比べています。傷つける言動が、クスリを使う理由になります。期待と理想を持った家族の思いには届かないと思っています。本人の「今」を認めることで、自尊心や自信があがり、そうなるとクスリは必要でなくなります。

④きっかけを与えないでください。

クスリを使うことは、本人がやることですが、何かのせいにしたいと思っています。説教や、本人の前で飲酒することは避けてください。常にリスクがあります。口論するくらいなら黙って離れたほうが良いです。
家族の一番の責任は、本人を自立させることです。大人に育てることです。

⑤本人が同居しているなら、自分の時間を作ってあげてください。

問題があるにしろ、コントロールしないようにしましょう。ルールがあってもよいですが、監視をすると息が詰まります。親が弱っていると巻き込みやすくなります。親が元気なら巻き込めません。共依存の治療が大切です。

⑥昔のことがあったから今があります。過去に戻るのではなく、今からの人生を作りましょう。

「昔に戻ったみたいでうれしい。」などと喜ばないようにしてください。本人にとってはクスリを使い前でも昔は苦しかったのです。家族は手のひらにのった子どもに戻ってほしいだけです。戻ったらもっと状況は悪くなります。
共依存は代々学んでいく病気です。依存症の問題が起こらなければ普通の家族です。

⑦本人の遊ぶ時間、自分の遊ぶ時間を持つ。

共依存とは、自分を犠牲にして相手をコントロールしたいという悪循環に入り込みます。親が元気になること、親が自分を大切にすることで本人の回復につながっていきます。笑っているほうが本人も絡みにくいと感じます。家族会は自分たちの勉強の場です。家族会に出ることで本人への影響もあります。

⑧イネイブリングしないでください。

「イネイブリング」とは、本人のクスリを使う手伝いをすることです。やめてほしいと思っているのに、本人のためによかれと思ってしたことが、クスリを使う環境を作っています。家族が困っていることを伝えてください。黙っていると本人には都合がよくなります。親がいなくなっても生きていけるように、責任を持たせることが大切です。親は罪悪感を抱えてしまいますが、小さいことから始めてください。

⑨本人に責任を持たせることが本人の変わるチャンスになります。

家族も過去に生きず、前を向いてください。本人を苦しませたくないと家族は思ってしまいますが、本来、責任を取ることは苦しいことです。

⑩クリーンがあってもきちんと境界線を作りましょう。

しかし、罰としての境界線は作らないでください。問題が遠のくと境界線はぼやけます。大変な時は境界線が引けますが、家族はアッという間にもとに戻ります。自分だけで判断しないようにしましょう。お互い納得できない境界線は罰と感じます。

⑪経済的なサポートをしない。

治療に当たるもの以外は、お金のやり取りはしないでいましょう。

⑫本人の病気の恐ろしさを忘れないでください。

最悪だった時のことを記憶に残しておきましょう。おびえる必要はありませんが、あそこに戻らないように家族会に継続して参加してください。

家族が直接できることはありませんが、間接的に回復に向かうようにはできます。

いつものように軽快なお話で、大切な12項目を聴かせていただきました。あの時点には戻りたくないと、苦しんできた家族なら誰しも思うことですね。仲間とともに、語り合いながら回復の道を進んでいきたいと切に願った研修会でした。

2022年2月27日(日)第7回「薬物依存症者と家族 オープンセミナー」

 

基調講演:神奈川県立精神医療センター副院長小林桜児先生

第7回となった横浜ひまわり家族会のオープンセミナーです。コロナウイルスまん延防止重点処置期間中でしたが、会場には100名ほどの参加がありました。Zoomでの参加は120名もあり、会場とオンライン参加者・講師の先生と繋ぎ、多くの方にメッセージを届けられたと思います。

 まずは家族からの体験談でした。Mさんは50代の息子さんの薬物問題に悩んで家族会に参加されました。刑務所から出所するときに、ダルクへの入寮か、病院に行くかの選択を息子さんに求めましたが、息子さんは「働きたい。」と…自分の考えにはなかった選択肢を息子さんが選んだことに困惑されましたが、母が敷いたレールではない人生を歩み始めた息子さんを応援するまでの過程を、心を込めて語られました。
 本人体験談は、ロンさんでした。何度かロンさんの体験談を聴いてきましたが、表情がとても穏やかになっている印象を持ちました。「不安」という言葉を知らない、そんな気持ちを誰かに言ってはいけないと思いながら生きてきたと話されていました。今、スタッフとしてダルクで生活しているが、スタッフでいることで自分が助けられているということに感謝したいとのことでした。
 もうお一方の本人体験談はK-GAPの近藤氏でした。発達障害を持っていて、学校での生活がとてもつらかったとのことでした。自分でも動いてしまう原因がわからなかったし、ぜんそくがあって夜も安心して眠れない生活、母からは生まなければよかったと言われ、居場所がなかったと話されていました。お話の最後に、「インナーチャイルドワーク」をしてくださいました。

 今回は、久しぶりに神奈川県精神医療センターの小林桜児先生の基調講演でした。
「依存症患者をどう理解し、治療につなげるか?―家族の対応について―」
従来は依存症の説明として、遺伝的要因と環境的要因が絡み合って依存症になると言われてきました。発達障害を持っていたり好奇心・興味本位ではじめたり、害に対する知識の欠如などによるものと認識されてきた部分が多かったのですが、果たしてそうなのか?社会的に地位のある議員や教員、果ては医師などおそらく知識が欠如しているなどとは縁遠い人たちにも依存症になる人はいます。社会的地位や名声をなげうっても止められない「依存症」とは、一体何なのかということを丁寧に説明されました。
小児期の逆境体験が心理的孤立を生み、依存症との接点を作りだす可能性に触れていました。薬物に頼ることで心理的孤立が改善され、それが習慣化していく、つまり報酬的効果が本人にとって大きくなります。
 依存症は本人にとって溺れかかったときの浮き輪のようなものであり、依存症の症状は自己調節機能障害=「感情の海」を上手に泳げないことだと言います。無理に浮き輪(薬物やアルコール)を取り上げても、別のもの(他の薬物やギャンブル)にしがみつくだけで解決にはならない、解決していくためには泳ぎ方を覚えていくしかないのだと。
 小林先生は、依存症を信頼障害という仮説に立って、分析を進めています。その立場から治療を考えると、まず依存症の重症度を下げる視点に立ち、人を頼れるようになって不信感を減らすなどの取り組みをしていくことが大切だとのことです。すぐにやめられなくても害を減らして行くことを目指し、受容や共感の体験を積んでいければよいと考え治療にあたっています。
 まずは家族間のコミュニケーションを改善していくこと、行動変容を強化していくこと、距離をとるなどを経て、家族自身の生活も守る必要があります。
 本人を治療につなげるには相当な労力が必要です。家族が先に相談に繋がり行動を変化させることで、突破口が見つかることもあります。本人の回復に振り回されずに家族自身が楽に生きる方法を模索していくことが重要ですと締めくくられました。

 小林 桜児先生の依存症に関するYouTube動画もアップされています。何かの折に観て心を軽くするのもよいのではないでしょうか。

Q&Aセッションでは、まだダルクにつながっていないご家族や保護司、ZOOM参加者からも質問を受けて活発な質疑応答ができ、時間が短いとのアンケート回答も頂きました。
ZOOM講演も4回目となり定着した感があります。神奈川県外から北海道・沖縄までで大変盛況となりました。
今後もニューノーマルのイベントとして、ZOOMオンラインを併用したオープンセミナーで、依存症家族以外の援助者・一般参加者へも啓発を図っていきたいと思います。