<依存症と家族の回復について>
講師:原宿カウンセリングセンター 臨床心理士 高橋 郁絵先生と国立精神神経医療センター 近藤 あゆみ先生。
ゲスト:湘南ダルク・ケア・センター 施設長 栗栖 次郎氏
今回の公開講座は、原宿カウンセリングセンターの臨床心理士・高橋 郁絵先生と国立精神神経医療センターの近藤あゆみ先生に起こしいただきました。
去年の公開講座のテーマ「楽になるってどんなこと?Part2」~家族と当事者を楽にするためにするちょっとしたコツ~のお話をしていただきました。
10年ほど前までは、依存症の問題が起こったときには「手を離しましょう。本人の問題は本人に。あなたが楽になりましょう。」という考え方で解決に結びつけていこうとするやり方が主流でした。その後いろいろな研究が進んでいく中で「かかわっていこう」という考え方に変わってきています。「知識を持ちましょう。本人とよいコミュニケーションを持ちましょう。相談を続けましょう。」などのかかわり方です。本人を助けることと、私たちの人生を大切にすることの両方をうまく工夫しながら両立しましょうというとらえ方に変化してきています。
一口に対応を変える、工夫する、などといっても巻き込まれて混乱している家族には、見えなくなっていることも多いのが現実です。
家族はなぜこんなにしんどくなるのか?まず無理をしていること。眠れなくなること、体が悲鳴を上げているのにそのしんどさを手放せないこと、依存症本人の回復の正解がわからないこと、ほかの家族との関係が壊れてしまうこと。そして一番の苦しみは、うまく育ててあげられなかった、解決してあげられなかったという自責の念でしょうか。
話し方のエクササイズも交え、コミュニケーションの変化についても学びがありました。たとえて言うなら童話「北風と太陽」のような対応の違いでしょうか。圧力をかけて脅してもかたくなになるばかりで、逆に依存症者本人が語れるように会話を進めていく方法などロールプレイをしながら学びました。「人が変われない理由は、変わらなければならない理由についての理解不足で、変わるための具体的な方法を知らないから」と考えて話すのか、または「変化を動機づける有効な方法は、本人に気がかりを自ら話すように促して、その気がかりと共有して確認していくこと」と考えて対応するのか?なかなか変わらないときの心理状態や、変わる用意がない時にいくら説得を試みても無駄になることなど丁寧なお話がありました。
「決めるのは本人。」一見回り道のようで、家族としては不安を感じずにはいられない対応ですが、実は待っている間に本人が自分のこととして考えることで自律性が生まれてきます。「自分の人生のことを自分で決める=自律性の尊重」最終的に決めるのは本人だということを家族である私たちが意識できるかどうかにより変化が起こってくると思います。関わりを通して本人の決断に影響を与えることは可能です。本人の言葉を確かめ、本人の強みや努力を認めて伝えていくことで回復に前向きな言葉が生まれてくるのではないでしょうか。
混乱に巻き込まれた家族が気を付けなければいけないのは、本人との境界線をはるかに超えてしまってさらに混乱していく状況になることです。どこに境界線を引くのかを考えること、またそれを超えて話したいときには同意を得ることなど相手を尊重する姿勢を身に着けていきたいものです。アドバイスをしたいときにも依存症者本人に許可を得ると少しはスムーズにいくかもしれません。本人が混乱して暴力があるときには、「逃げる」ことを最優先することも大切です。
「毎日は小さな選択の連続。ひとつの選択が一歩先を照らしてくれる。小さい選択を繰り返すことで道が作られる。」
恐れず、少しの勇気をもって一歩を踏み出せるようになりたいですね。
高橋先生、近藤先生、湘南ダルクの栗栖さんも加わって、参加者の質問に丁寧に答えてくださり、公開講座は終了となりました。