講師:一般社団法人「カハナ」所長 高橋 仁氏と、NPO法人アパリ 理事 高橋 洋平弁護士
今回の研修会は、一般社団法人「カハナ」の所長 高橋 仁氏と、NPO法人アパリ理事の高橋 洋平弁護士のおふたかたをお招きして行われました。
まずは、「カハナ」の所長である高橋 仁氏の体験談でした。
仁氏は中学時代からシンナーを使い、15~16歳で覚せい剤を使い始めたそうです。幼少期から教育に厳しい家庭で、そのころの記憶といえばたたかれることが多く、「なぜ俺ばかり?」と思ってきたこと、謝れずにいたことを思い出すとのこと。父との関わりは薄くあまり話さない父がどういう人なのかわからなかったとも。何をしても「ダメ」と言われるばかりで、そのうち自分のことを話さなくなっていったそうです。自分がやった悪いことを認めず、親に怒られると、ばれないようにしていく。幼少期から身についたことは、大人になってもあまり変わらなかったそうです。中学時代は先輩とたばこやシンナーを使い、マイナスの情報もなかったため楽しく使っていたとのことです。高校は「とにかく卒業したほうがよい」と言われ通ったが、そこで「夜回り先生」の水谷修氏に出会ったそうです。水谷氏だけは寄り添ってくれましたが、1年生の途中で退学してシンナーを使う生活にはまり込んでいきます。シンナーを止めたのは、覚醒剤を使ったから。「シャブをやったらおしまいだ。」と思っていたけど、スパーンと抜ける感じがたまらなく、においもしないしばれないと思ったそうです。楽しむために使っていた覚せい剤がいつの間にか「生きるため」の物に変わっていき、止められなくなっていきます。「最後の一回」を何度も打っては後悔する日々。母にはダルクや病院・警察のなかからどこかに行くように迫られたりもしていました。そんな中、周りを黙らせたくて一か月の入院をしました。その時も自分ではなく「医者が何とかしてくれる」「退院したら欲求がなくなるんだろ?」と問題に向き合おうとはしなかったと。そんな時、メッセージ活動で出会った「ダルク」の印象が強烈だったといいます。「ハグ?」「宗教?」これは何なんだ。母に食って掛かっても言い合いにもならず、外堀が埋められていく感じがしたそうです。入院時に知り合った人が横浜ダルクにいたので相談に行ってみたらNAを勧められ、参加したものの自分のことを話すのに慣れておらず、一回のみの参加になりました。母が持ってきた現藤岡ダルクのパンフレットを見て入ることになりましたが、半年は慣れず飛び出しては薬物を使ってしまっていたとのこと。しかしだんだんと仲間の話が自然に自分の中に入るようになって考え方が変わっていったといいます。クリーン1年目が一番正直に生きていたように思うそうです。
母が自分の薬物問題で苦しんでいたことは、幼少期の恨みもあり、「ざまあみろ」と思う時期もあったけど、今になって母の気持ちがわかることもある。母は現在、自分自身の生き方のために家族会で勉強をしていると話されていました。21年間、薬物を止められているのは仲間がいて居場所があって寂しくないからだとのこと。
近藤氏が生前に作ってくれたいろいろなものが繋がって今があると感慨深く話されていました。
研修会の後半は、高橋弁護士のお話です。
「新しい弁護活動~更生と回復を目指して」というテーマでした。高橋弁護士は、弁護士になりたての頃奥田弁護士と出会い、薬物事犯に関わるようになりました。そしてダルクとのつながりが始まり、今はアパリの理事をされています。自分が弁護した人がダルクに入寮していると次に弁護した人もダルクにつなげやすいというメリットがあり、なにより回復していく姿を見ていけるのがやりがいに繋がっているといいます。ダルク後の関わりをつなげていけるネットワークが機能していくと、もっと生きやすい社会になるのではないかと考えているそうです。いろいろなダルクを見る機会が多い高橋弁護士ですが、回復の道のりの難しさは感じざるをえないとも。家族は薬物依存症の本人を何とかしようと必死になりますが、正解がなんなのかわからないときもあります。回復や治療の情報はインターネットでも収集できますが、それではやはり限界があります。相談先はあっても弁護士事務所には生きにくさがあります。だから依存症家族会に出向いて知ってもらうことを大切に考えて活動をされています。
違法薬物事犯での逮捕から、どう本人の人生を考えていくのかが弁護のカギとなると考えているそうです。
「私はやっていない」と主張する場合、その後の人生で社会人として生活できるのか。その時だけは確かに薬物を使用していないかもしれない、しかし本当はずっと使用している。無罪を勝ち取ることがリハビリを受けなくてよい理由になってしまい、チャンスを逃さないか。本人が新しい生き方を学び自立していけるのか。借金など抱えている問題を自分で解決できるようになるまで長期の人生プランを立てていくことが必要だとのこと。裁判では家族の役割も重要な位置づけにあります。前科がつくことを嫌がる家族が多いですが、本人が目指すべき姿を共に考えていけるようにしていくそうです。
出会いで人は変わっていけます。弁護士として本人の回復プランを立てていきますが、弁護士だけで何かを変えることは難しいですが、変えていくきっかけを作ることは可能だと、日々の弁護に尽力されています。最近はダルクの入寮を説得することはせず、「楽しそう。すごい。」と思ってもらえればよいと考え、ダルクの魅力を伝えていけるようにしているそうです。
薬物事件で逮捕されていなくても、本人が抱える法的問題を中心に回復支援をサポートしてくださいます。
まずは相談ですね。