2022年2月27日(日)第7回「薬物依存症者と家族 オープンセミナー」

 

基調講演:神奈川県立精神医療センター副院長小林桜児先生

第7回となった横浜ひまわり家族会のオープンセミナーです。コロナウイルスまん延防止重点処置期間中でしたが、会場には100名ほどの参加がありました。Zoomでの参加は120名もあり、会場とオンライン参加者・講師の先生と繋ぎ、多くの方にメッセージを届けられたと思います。

 まずは家族からの体験談でした。Mさんは50代の息子さんの薬物問題に悩んで家族会に参加されました。刑務所から出所するときに、ダルクへの入寮か、病院に行くかの選択を息子さんに求めましたが、息子さんは「働きたい。」と…自分の考えにはなかった選択肢を息子さんが選んだことに困惑されましたが、母が敷いたレールではない人生を歩み始めた息子さんを応援するまでの過程を、心を込めて語られました。
 本人体験談は、ロンさんでした。何度かロンさんの体験談を聴いてきましたが、表情がとても穏やかになっている印象を持ちました。「不安」という言葉を知らない、そんな気持ちを誰かに言ってはいけないと思いながら生きてきたと話されていました。今、スタッフとしてダルクで生活しているが、スタッフでいることで自分が助けられているということに感謝したいとのことでした。
 もうお一方の本人体験談はK-GAPの近藤氏でした。発達障害を持っていて、学校での生活がとてもつらかったとのことでした。自分でも動いてしまう原因がわからなかったし、ぜんそくがあって夜も安心して眠れない生活、母からは生まなければよかったと言われ、居場所がなかったと話されていました。お話の最後に、「インナーチャイルドワーク」をしてくださいました。

 今回は、久しぶりに神奈川県精神医療センターの小林桜児先生の基調講演でした。
「依存症患者をどう理解し、治療につなげるか?―家族の対応について―」
従来は依存症の説明として、遺伝的要因と環境的要因が絡み合って依存症になると言われてきました。発達障害を持っていたり好奇心・興味本位ではじめたり、害に対する知識の欠如などによるものと認識されてきた部分が多かったのですが、果たしてそうなのか?社会的に地位のある議員や教員、果ては医師などおそらく知識が欠如しているなどとは縁遠い人たちにも依存症になる人はいます。社会的地位や名声をなげうっても止められない「依存症」とは、一体何なのかということを丁寧に説明されました。
小児期の逆境体験が心理的孤立を生み、依存症との接点を作りだす可能性に触れていました。薬物に頼ることで心理的孤立が改善され、それが習慣化していく、つまり報酬的効果が本人にとって大きくなります。
 依存症は本人にとって溺れかかったときの浮き輪のようなものであり、依存症の症状は自己調節機能障害=「感情の海」を上手に泳げないことだと言います。無理に浮き輪(薬物やアルコール)を取り上げても、別のもの(他の薬物やギャンブル)にしがみつくだけで解決にはならない、解決していくためには泳ぎ方を覚えていくしかないのだと。
 小林先生は、依存症を信頼障害という仮説に立って、分析を進めています。その立場から治療を考えると、まず依存症の重症度を下げる視点に立ち、人を頼れるようになって不信感を減らすなどの取り組みをしていくことが大切だとのことです。すぐにやめられなくても害を減らして行くことを目指し、受容や共感の体験を積んでいければよいと考え治療にあたっています。
 まずは家族間のコミュニケーションを改善していくこと、行動変容を強化していくこと、距離をとるなどを経て、家族自身の生活も守る必要があります。
 本人を治療につなげるには相当な労力が必要です。家族が先に相談に繋がり行動を変化させることで、突破口が見つかることもあります。本人の回復に振り回されずに家族自身が楽に生きる方法を模索していくことが重要ですと締めくくられました。

 小林 桜児先生の依存症に関するYouTube動画もアップされています。何かの折に観て心を軽くするのもよいのではないでしょうか。

Q&Aセッションでは、まだダルクにつながっていないご家族や保護司、ZOOM参加者からも質問を受けて活発な質疑応答ができ、時間が短いとのアンケート回答も頂きました。
ZOOM講演も4回目となり定着した感があります。神奈川県外から北海道・沖縄までで大変盛況となりました。
今後もニューノーマルのイベントとして、ZOOMオンラインを併用したオープンセミナーで、依存症家族以外の援助者・一般参加者へも啓発を図っていきたいと思います。