去る2月26日(日)にラポールシアターで「横浜ひまわり家族会・第8回オープンセミナー」薬物依存症は病気です。~家族が笑顔を取り戻すために~を開催いたしました。
基調講演に北里大学医学部精神科学助教授の朝倉崇文先生を講師にお招きしました。
当事者の体験談は、横浜ダルクのスタッフ、ソウさんでした。
「プログラムで自分の人生を振り返っても、仲間のようにトラウマがあったわけではなかった。ただ薬があった。一緒にクスリをやっていた友達は失敗すると薬を止めていったが自分にはそれができず、コントロールを失っていった。仕事もなにもかも破綻して失っていったが止められなかった。逮捕されて「クスリとの戦いが終わる。」と思ったがうまくはいかず、死ぬに死ねなくてあきらめていた。ダルクで「止めようとすることを止める。」と言われ、プログラムの中で仲間の支えを頼りに少しずつ正気を取り戻した。」そんな苦しい思いを話されました。「今、悪夢から解放されている。」と明るい表情で話されていました。
家族の体験談は、ジュンさんでした。息子さんのストーリー、家族のストーリー、薬物の問題が発覚してからどんな思いで今日までやってきたのか、ご夫婦の思いが詰まった体験談でした。家族会での出会いや回復などのお話もありました。
朝倉先生の基調講演は、「常識ではわからない依存症。わかることで回復できる。」~レッテルを貼られた人達との出会いで得た、依存症の本質~というテーマでのお話でした。
「依存症」あなたにとってのイメージはどんなものでしょうか。「だらしない人がなる。」「意志の弱い人。」「快楽に身を沈めた結果。」「悪い奴。」このような社会の偏見や差別により本人や家族にとっては恥ずべき問題となっているのが現状です。例えば著名人では、逮捕されてからも否定する場合が多かった時期がありました。しかし、近年は「依存症であること」を告白するようになってきました。アメリカでは先にカミングアウトをして栄光を手放し回復に向かおうとする人、さらには栄光を手にしたまま治療にあたり復帰する人も出てきています。日本でも2018年ころより依存症治療を告白する人が出てきました。
依存症の歴史としては、アメリカの禁酒法時代より前に社会問題として注目されており、規則や刑罰の強化をしてきました。それでもうまくいかず、飲む人は減らないことに反社会組織が目をつけ闇で売ることに。このころから病気としての認識も存在していました。道徳的・宗教的なアプローチも失敗しましたが自助グループの広がりで治療に成功するようになっていきます。心理学の発達も相まって一定の効果を上げていくようになりました。今現在は、断酒断薬ができない人でも生きられるようにという考え方も出てきています。ハームリダクション政策で問題を減らしていくという立場で治療にあたっていきます。社会的孤立や生活困窮・心理的安全性など背景の社会問題の支援をし、ライフスキル教育によって使わなくても生きていける、使わなければならない人を減らす政策に切り替えようという動きが出てきています。
何年か前から言われている「依存症の自己治療仮説」というものがあります。不快な感情を緩和・逃れるために薬物を使う行動をとるというもので、一時的であれ手軽に確実に様々な問題から逃れることができます。他人に助けを求めると裏切られることもありますが、クスリは必ず効果があります。そのように感じている人が薬物使用を止めるには安心できる場・居場所・充足感などが重要です。ライフスタイルを変えないまま薬物だけを止めようとする人は多いようですが、それだけでは問題を解決することは難しいです。
「ちゃんと生きたい気持ち」を持っている依存症者が、「ちゃんとできない現実。」にぶつかっても生きていけるように支援をしていくこと、問題解決において大切なことを認識できるように支援をすることが大切です。そのために、本人にとって「本当に困ること」「何とかなること」を区別することが必要になります。治療するには戦略を立てる必要があります。本人の意志の強さに頼るのは危険で無策の場合が多いようです。不安要素を分析し戦略を立て、その一つとして自助グループや病院が存在します。依存症になる人の特徴として「自分に自信がない。」「人を信じられない。」「本音を言えない。」「見捨てられる不安が強い。」「孤独で寂しい。」「自分を大切にできない。」などが挙げられます。支援者はまず本人の目の前にいる自分が彼らを受け入れること、それが彼らの最初の救いになります。
家族は起きている問題を整理し誰かに相談すること。自分も疲弊しているのでケアをすること。家族教室や自助グループに通い背中を見せること、情報を集めること、治療者になる必要はないこと、依存症の課題と自分の課題を分けて考えることを実践できるとよいでしょう。家族の自助グループの役割は、「分かち合い孤独を解消すること。」「希望を見出すこと。」「陥りやすい失敗を知り振り返ること。」「新しい生き方をすること。」「自分の課題と家族の課題を分けて取り組むこと。」などです。
平安の祈りのなかの、「変えられるものは変えていく勇気、変えられないものを受け入れる落ち着きを、そして二つを見分ける賢さを」これにつきるということでしょうか。
Q&Aはセッションは、朝倉先生、横浜ダルクの施設長山田氏、スタッフのソウ氏、一般社団法人HOPEの栗栖氏、家族会のジュン氏、ファシリテーターの片山氏で行われました。
会場から、「本人との距離の取り方」の質問には、事情によっても違うけれど、ダルクからは「困らせたいわけではない。支えとして家族に一緒にやってもらいたいこともあるが、親は親の生活を大切にし、危険のないようにしてほしい。」「過保護になりがちだが誰のための行動なのか、自分が安心したいから構いたいのか考える。正解はわからない。」などのお話がありました。朝倉先生からは「家族は問題を分けるのが難しい。できないなら離れるほうが良い。困るところを見せてもよい。それがきっかけで本人が変わることもある。家族は自分が死ぬまでに何とかしたいと思うが、急ぐ原因になるのでその考えを捨てるとよい。死んでから変わってもよいのではないか。人はいつか変わると信じること。」などのご意見でした。
最後に会場から当事者の手が挙がりました。言葉に詰まりながらもやっと心の叫びを発してくれた男性。「ドラッグに逃げた自分。自分にしかわからないことがある。人のせいにしたくないが、家族への不満、意見の食い違い、両親の【ものさし】に合わなかった。母の変化を感じ自分も言えるようになってきた。親の一歩と自分の一歩は違うが進んでいきたい気持ちがある。みんなが同じではないが少しずつ進んでいることを認めてほしい。」心の叫びともとれる大切な発言でした。朝倉先生からは、「時間をかけて世代間連鎖を切るように努力してほしい。」と言葉がかけられました。