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3月25日(土)横浜ひまわり家族会 家族研修会

講師:一般社団法人 相模原ダルク 理事長 田中 秀泰 氏

 今回の研修会は、相模原ダルクから施設長の田中氏とスタッフの渡邉氏をお招きして行われました。

 田中氏が薬物のことで困っていた15年前は今ほど多くの相談機関がなく、ダルクも6か所以上行ったが回復がうまくいかなかったといいます。現在はインターネットで検索すると依存症関連の書物は100冊以上あがってくるし、回復施設も多く存在しています。この状況は普通ではなく、社会が病んでいるのだと。
近藤氏が作ったダルクは一定期間の規則があり、回復していける人はそれを肯定でき前に進んでいけるけれど、疑問に思ってしまうとプログラムにのっていけないこともあります。
田中氏は横浜ダルクに行ったけれどもその時は合わず、別のところを転々とする状況になります。本人にとってその施設が合う・合わないは当然あることで、「いい」「わるい」は自分の考えに過ぎないことに後から気づくこともあります。転々とせざるをえなかった自身の経験が「いいダルクを創りたい」という思いになり、相模原ダルクを10年前に立ち上げました。田中氏の「いいダルク」への思いは、相模原ダルクのシステムに反映されています。「卒業のあるダルク」を掲げ、プログラムを立てています。入所したころは慣れることに重点を置き、そのあとは役割を負って人のサポートをするなど、社会性を育てることにも視点を置き、ダルク後を見据えてシステムを構築しています。ダルクは「クスリ」を止めるだけのものではなく社会に出るためのステップにしたいという思いがあります。
 薬物事犯防止の役割も3段階に分けて組まれています。第1次予防は一般の人向けの啓発活動。第2次予防は、依存症になる手前の人を対象に相談事業を行っています。本人の背景を探りながら本人に合った方法を見つけていくことに力を注ぎます。第3次予防は入寮事業です。完全入寮で回復を目指します。
 依存症の場合、本人だけが病気ではなく、取り巻く家族も病んでいます。それには家族自身も気づくことが難しいことが多いです。本人と家族や周りの社会を分けて考え治療していくことが重要になります。
 「人が変わるのには時間がかかる」ダルクを出たらスリップしてしまい、ほかのダルクに行くことを繰り返すのはよくあることで、田中氏も同じように繰り返しダルクを出たり入ったりしていました。沖縄の回復施設で出会ったポール氏の「12のステップ」に心を奪われ半年で学びました。ポール氏のステップに取り組むことと卒業のあるダルクを創りたいという思いを実現していきます。
 相模原ダルクでは、長期の離脱症状を克服することを重要視しています。これを知らずに勘違いをすると間違った治療に繋がってしまいます。わかっている人と繋がって回復を進めていくことが大切です。
 また、回復の文化についても話されました。相模原ダルクでは卒業式を行っています。仲間が考える卒業とは何か?元の世界に戻ることではなく、依存症の中で観に着けた文化を徹底的に見直し、そのすべてが変わったかを点検するそうです。クリーンタイムだけが卒業の基準ではないことを明言されていました。
 依存症に巻き込まれて苦しんだ家族はどうすればよいのか。親として自責の念に苦しむ人は多いです。しかし、火事を目の前にして、火事の原因を考える人はいないように、まずは薬物を止めることに力を注ぎます。原因探しはそのあとです。家族と協力していくことの意味は大きく、「家族の治療を受けてほしいという思いがプレッシャーになって治療を開始した。」「関わりの深い家族は行動に影響を与えることができる。」「プログラムでは家族をきわめて重要な協力者と考える。」「家族もまた助けを必要としている。」ことです。
 家族が必死になって回復への道を作ろうとしてもうまくいかないこともあります。ただし、「そうであっても家族は自分の人生をより幸せなものにすることができる。」ことを心に刻んでおきましょう。家族がやるべきことや、共依存、回復など多岐にわたるお話でした。
まずは洞穴に入ってしまった本人が穴から手を出すのを待つこと、そこから回復の道が始まります。

同じく相模原ダルクのスタッフの渡邊氏の体験談。
 「12年前は洞穴にいました。」という渡邊氏。13歳からクスリを使っていたとのことです。当時中学生で、特に不安もなく困った生活でもなかったといいます。仲間からの誘いを断れなかった、友人関係が崩れるというプレッシャーがあったそうです。クスリを使って楽しむ文化に身を置いていて、彼女も巻き込んでしまった、止めるきっかけはあったのに、止めなかった。問題があってもクスリに逃げて乗り越える生活をしていたとのことです。大学進学を機に環境をかえ一人暮らしを始め、しばらくはクスリを使わずに生活ができたけれど、また使う環境になっていきました。依存症であることに自覚はなく、生き方が変わったわけでもなく、使う生活になり悪循環になっていきます。ずっと前から自分の生き方には問題があったのに、気づかずに過ごしていたと後になってからわかったそうです。
 22歳で親に知られることになり介入されます。親に連れられて千葉ダルクに行きましたが、「自分は違う。」と馴染めず出てしまいます。しかし自分ではどうにもならなくなり、ダルクへと気持ちが向き始めました。
3年後、両親との関係を再構築し始めたときに、「なぜあの時、あの行動をとったのか?」と尋ねたそうです。両親が回復の支えになっていたこと、家族会に行ってくれたことに今は感謝していると明るい表情で話されていました。

2023年2月26日(日)第8回「薬物依存症者と家族オープンセミナー」

去る2月26日(日)にラポールシアターで「横浜ひまわり家族会・第8回オープンセミナー」薬物依存症は病気です。~家族が笑顔を取り戻すために~を開催いたしました。
基調講演に北里大学医学部精神科学助教授の朝倉崇文先生を講師にお招きしました。

 当事者の体験談は、横浜ダルクのスタッフ、ソウさんでした。
 「プログラムで自分の人生を振り返っても、仲間のようにトラウマがあったわけではなかった。ただ薬があった。一緒にクスリをやっていた友達は失敗すると薬を止めていったが自分にはそれができず、コントロールを失っていった。仕事もなにもかも破綻して失っていったが止められなかった。逮捕されて「クスリとの戦いが終わる。」と思ったがうまくはいかず、死ぬに死ねなくてあきらめていた。ダルクで「止めようとすることを止める。」と言われ、プログラムの中で仲間の支えを頼りに少しずつ正気を取り戻した。」そんな苦しい思いを話されました。「今、悪夢から解放されている。」と明るい表情で話されていました。
 家族の体験談は、ジュンさんでした。息子さんのストーリー、家族のストーリー、薬物の問題が発覚してからどんな思いで今日までやってきたのか、ご夫婦の思いが詰まった体験談でした。家族会での出会いや回復などのお話もありました。

 朝倉先生の基調講演は、「常識ではわからない依存症。わかることで回復できる。」~レッテルを貼られた人達との出会いで得た、依存症の本質~というテーマでのお話でした。

「依存症」あなたにとってのイメージはどんなものでしょうか。「だらしない人がなる。」「意志の弱い人。」「快楽に身を沈めた結果。」「悪い奴。」このような社会の偏見や差別により本人や家族にとっては恥ずべき問題となっているのが現状です。例えば著名人では、逮捕されてからも否定する場合が多かった時期がありました。しかし、近年は「依存症であること」を告白するようになってきました。アメリカでは先にカミングアウトをして栄光を手放し回復に向かおうとする人、さらには栄光を手にしたまま治療にあたり復帰する人も出てきています。日本でも2018年ころより依存症治療を告白する人が出てきました。
 依存症の歴史としては、アメリカの禁酒法時代より前に社会問題として注目されており、規則や刑罰の強化をしてきました。それでもうまくいかず、飲む人は減らないことに反社会組織が目をつけ闇で売ることに。このころから病気としての認識も存在していました。道徳的・宗教的なアプローチも失敗しましたが自助グループの広がりで治療に成功するようになっていきます。心理学の発達も相まって一定の効果を上げていくようになりました。今現在は、断酒断薬ができない人でも生きられるようにという考え方も出てきています。ハームリダクション政策で問題を減らしていくという立場で治療にあたっていきます。社会的孤立や生活困窮・心理的安全性など背景の社会問題の支援をし、ライフスキル教育によって使わなくても生きていける、使わなければならない人を減らす政策に切り替えようという動きが出てきています。
 何年か前から言われている「依存症の自己治療仮説」というものがあります。不快な感情を緩和・逃れるために薬物を使う行動をとるというもので、一時的であれ手軽に確実に様々な問題から逃れることができます。他人に助けを求めると裏切られることもありますが、クスリは必ず効果があります。そのように感じている人が薬物使用を止めるには安心できる場・居場所・充足感などが重要です。ライフスタイルを変えないまま薬物だけを止めようとする人は多いようですが、それだけでは問題を解決することは難しいです。
 「ちゃんと生きたい気持ち」を持っている依存症者が、「ちゃんとできない現実。」にぶつかっても生きていけるように支援をしていくこと、問題解決において大切なことを認識できるように支援をすることが大切です。そのために、本人にとって「本当に困ること」「何とかなること」を区別することが必要になります。治療するには戦略を立てる必要があります。本人の意志の強さに頼るのは危険で無策の場合が多いようです。不安要素を分析し戦略を立て、その一つとして自助グループや病院が存在します。依存症になる人の特徴として「自分に自信がない。」「人を信じられない。」「本音を言えない。」「見捨てられる不安が強い。」「孤独で寂しい。」「自分を大切にできない。」などが挙げられます。支援者はまず本人の目の前にいる自分が彼らを受け入れること、それが彼らの最初の救いになります。
 家族は起きている問題を整理し誰かに相談すること。自分も疲弊しているのでケアをすること。家族教室や自助グループに通い背中を見せること、情報を集めること、治療者になる必要はないこと、依存症の課題と自分の課題を分けて考えることを実践できるとよいでしょう。家族の自助グループの役割は、「分かち合い孤独を解消すること。」「希望を見出すこと。」「陥りやすい失敗を知り振り返ること。」「新しい生き方をすること。」「自分の課題と家族の課題を分けて取り組むこと。」などです。

平安の祈りのなかの、「変えられるものは変えていく勇気、変えられないものを受け入れる落ち着きを、そして二つを見分ける賢さを」これにつきるということでしょうか。

Q&Aはセッションは、朝倉先生、横浜ダルクの施設長山田氏、スタッフのソウ氏、一般社団法人HOPEの栗栖氏、家族会のジュン氏、ファシリテーターの片山氏で行われました。

会場から、「本人との距離の取り方」の質問には、事情によっても違うけれど、ダルクからは「困らせたいわけではない。支えとして家族に一緒にやってもらいたいこともあるが、親は親の生活を大切にし、危険のないようにしてほしい。」「過保護になりがちだが誰のための行動なのか、自分が安心したいから構いたいのか考える。正解はわからない。」などのお話がありました。朝倉先生からは「家族は問題を分けるのが難しい。できないなら離れるほうが良い。困るところを見せてもよい。それがきっかけで本人が変わることもある。家族は自分が死ぬまでに何とかしたいと思うが、急ぐ原因になるのでその考えを捨てるとよい。死んでから変わってもよいのではないか。人はいつか変わると信じること。」などのご意見でした。
最後に会場から当事者の手が挙がりました。言葉に詰まりながらもやっと心の叫びを発してくれた男性。「ドラッグに逃げた自分。自分にしかわからないことがある。人のせいにしたくないが、家族への不満、意見の食い違い、両親の【ものさし】に合わなかった。母の変化を感じ自分も言えるようになってきた。親の一歩と自分の一歩は違うが進んでいきたい気持ちがある。みんなが同じではないが少しずつ進んでいることを認めてほしい。」心の叫びともとれる大切な発言でした。朝倉先生からは、「時間をかけて世代間連鎖を切るように努力してほしい。」と言葉がかけられました。

1月28日(土)横浜ひまわり家族会 家族研修会

講師:一般社団法人「カハナ」所長 高橋 仁氏と、NPO法人アパリ 理事 高橋 洋平弁護士

 今回の研修会は、一般社団法人「カハナ」の所長 高橋 仁氏と、NPO法人アパリ理事の高橋 洋平弁護士のおふたかたをお招きして行われました。
 まずは、「カハナ」の所長である高橋 仁氏の体験談でした。
仁氏は中学時代からシンナーを使い、15~16歳で覚せい剤を使い始めたそうです。幼少期から教育に厳しい家庭で、そのころの記憶といえばたたかれることが多く、「なぜ俺ばかり?」と思ってきたこと、謝れずにいたことを思い出すとのこと。父との関わりは薄くあまり話さない父がどういう人なのかわからなかったとも。何をしても「ダメ」と言われるばかりで、そのうち自分のことを話さなくなっていったそうです。自分がやった悪いことを認めず、親に怒られると、ばれないようにしていく。幼少期から身についたことは、大人になってもあまり変わらなかったそうです。中学時代は先輩とたばこやシンナーを使い、マイナスの情報もなかったため楽しく使っていたとのことです。高校は「とにかく卒業したほうがよい」と言われ通ったが、そこで「夜回り先生」の水谷修氏に出会ったそうです。水谷氏だけは寄り添ってくれましたが、1年生の途中で退学してシンナーを使う生活にはまり込んでいきます。シンナーを止めたのは、覚醒剤を使ったから。「シャブをやったらおしまいだ。」と思っていたけど、スパーンと抜ける感じがたまらなく、においもしないしばれないと思ったそうです。楽しむために使っていた覚せい剤がいつの間にか「生きるため」の物に変わっていき、止められなくなっていきます。「最後の一回」を何度も打っては後悔する日々。母にはダルクや病院・警察のなかからどこかに行くように迫られたりもしていました。そんな中、周りを黙らせたくて一か月の入院をしました。その時も自分ではなく「医者が何とかしてくれる」「退院したら欲求がなくなるんだろ?」と問題に向き合おうとはしなかったと。そんな時、メッセージ活動で出会った「ダルク」の印象が強烈だったといいます。「ハグ?」「宗教?」これは何なんだ。母に食って掛かっても言い合いにもならず、外堀が埋められていく感じがしたそうです。入院時に知り合った人が横浜ダルクにいたので相談に行ってみたらNAを勧められ、参加したものの自分のことを話すのに慣れておらず、一回のみの参加になりました。母が持ってきた現藤岡ダルクのパンフレットを見て入ることになりましたが、半年は慣れず飛び出しては薬物を使ってしまっていたとのこと。しかしだんだんと仲間の話が自然に自分の中に入るようになって考え方が変わっていったといいます。クリーン1年目が一番正直に生きていたように思うそうです。
 母が自分の薬物問題で苦しんでいたことは、幼少期の恨みもあり、「ざまあみろ」と思う時期もあったけど、今になって母の気持ちがわかることもある。母は現在、自分自身の生き方のために家族会で勉強をしていると話されていました。21年間、薬物を止められているのは仲間がいて居場所があって寂しくないからだとのこと。
近藤氏が生前に作ってくれたいろいろなものが繋がって今があると感慨深く話されていました。

 研修会の後半は、高橋弁護士のお話です。


「新しい弁護活動~更生と回復を目指して」というテーマでした。高橋弁護士は、弁護士になりたての頃奥田弁護士と出会い、薬物事犯に関わるようになりました。そしてダルクとのつながりが始まり、今はアパリの理事をされています。自分が弁護した人がダルクに入寮していると次に弁護した人もダルクにつなげやすいというメリットがあり、なにより回復していく姿を見ていけるのがやりがいに繋がっているといいます。ダルク後の関わりをつなげていけるネットワークが機能していくと、もっと生きやすい社会になるのではないかと考えているそうです。いろいろなダルクを見る機会が多い高橋弁護士ですが、回復の道のりの難しさは感じざるをえないとも。家族は薬物依存症の本人を何とかしようと必死になりますが、正解がなんなのかわからないときもあります。回復や治療の情報はインターネットでも収集できますが、それではやはり限界があります。相談先はあっても弁護士事務所には生きにくさがあります。だから依存症家族会に出向いて知ってもらうことを大切に考えて活動をされています。
 違法薬物事犯での逮捕から、どう本人の人生を考えていくのかが弁護のカギとなると考えているそうです。
「私はやっていない」と主張する場合、その後の人生で社会人として生活できるのか。その時だけは確かに薬物を使用していないかもしれない、しかし本当はずっと使用している。無罪を勝ち取ることがリハビリを受けなくてよい理由になってしまい、チャンスを逃さないか。本人が新しい生き方を学び自立していけるのか。借金など抱えている問題を自分で解決できるようになるまで長期の人生プランを立てていくことが必要だとのこと。裁判では家族の役割も重要な位置づけにあります。前科がつくことを嫌がる家族が多いですが、本人が目指すべき姿を共に考えていけるようにしていくそうです。
 出会いで人は変わっていけます。弁護士として本人の回復プランを立てていきますが、弁護士だけで何かを変えることは難しいですが、変えていくきっかけを作ることは可能だと、日々の弁護に尽力されています。最近はダルクの入寮を説得することはせず、「楽しそう。すごい。」と思ってもらえればよいと考え、ダルクの魅力を伝えていけるようにしているそうです。
 薬物事件で逮捕されていなくても、本人が抱える法的問題を中心に回復支援をサポートしてくださいます。
まずは相談ですね。

11月27日(日)横浜ひまわり家族会 2022秋の公開講座②

<依存症と家族の回復について>

講師:原宿カウンセリングセンター 臨床心理士 高橋 郁絵先生と国立精神神経医療センター 近藤 あゆみ先生。
ゲスト:湘南ダルク・ケア・センター 施設長 栗栖 次郎氏
 
 今回の公開講座は、原宿カウンセリングセンターの臨床心理士・高橋 郁絵先生と国立精神神経医療センターの近藤あゆみ先生に起こしいただきました。
 去年の公開講座のテーマ「楽になるってどんなこと?Part2」~家族と当事者を楽にするためにするちょっとしたコツ~のお話をしていただきました。
 10年ほど前までは、依存症の問題が起こったときには「手を離しましょう。本人の問題は本人に。あなたが楽になりましょう。」という考え方で解決に結びつけていこうとするやり方が主流でした。その後いろいろな研究が進んでいく中で「かかわっていこう」という考え方に変わってきています。「知識を持ちましょう。本人とよいコミュニケーションを持ちましょう。相談を続けましょう。」などのかかわり方です。本人を助けることと、私たちの人生を大切にすることの両方をうまく工夫しながら両立しましょうというとらえ方に変化してきています。
 一口に対応を変える、工夫する、などといっても巻き込まれて混乱している家族には、見えなくなっていることも多いのが現実です。
家族はなぜこんなにしんどくなるのか?まず無理をしていること。眠れなくなること、体が悲鳴を上げているのにそのしんどさを手放せないこと、依存症本人の回復の正解がわからないこと、ほかの家族との関係が壊れてしまうこと。そして一番の苦しみは、うまく育ててあげられなかった、解決してあげられなかったという自責の念でしょうか。
話し方のエクササイズも交え、コミュニケーションの変化についても学びがありました。たとえて言うなら童話「北風と太陽」のような対応の違いでしょうか。圧力をかけて脅してもかたくなになるばかりで、逆に依存症者本人が語れるように会話を進めていく方法などロールプレイをしながら学びました。「人が変われない理由は、変わらなければならない理由についての理解不足で、変わるための具体的な方法を知らないから」と考えて話すのか、または「変化を動機づける有効な方法は、本人に気がかりを自ら話すように促して、その気がかりと共有して確認していくこと」と考えて対応するのか?なかなか変わらないときの心理状態や、変わる用意がない時にいくら説得を試みても無駄になることなど丁寧なお話がありました。
「決めるのは本人。」一見回り道のようで、家族としては不安を感じずにはいられない対応ですが、実は待っている間に本人が自分のこととして考えることで自律性が生まれてきます。「自分の人生のことを自分で決める=自律性の尊重」最終的に決めるのは本人だということを家族である私たちが意識できるかどうかにより変化が起こってくると思います。関わりを通して本人の決断に影響を与えることは可能です。本人の言葉を確かめ、本人の強みや努力を認めて伝えていくことで回復に前向きな言葉が生まれてくるのではないでしょうか。
混乱に巻き込まれた家族が気を付けなければいけないのは、本人との境界線をはるかに超えてしまってさらに混乱していく状況になることです。どこに境界線を引くのかを考えること、またそれを超えて話したいときには同意を得ることなど相手を尊重する姿勢を身に着けていきたいものです。アドバイスをしたいときにも依存症者本人に許可を得ると少しはスムーズにいくかもしれません。本人が混乱して暴力があるときには、「逃げる」ことを最優先することも大切です。
「毎日は小さな選択の連続。ひとつの選択が一歩先を照らしてくれる。小さい選択を繰り返すことで道が作られる。」
恐れず、少しの勇気をもって一歩を踏み出せるようになりたいですね。
高橋先生、近藤先生、湘南ダルクの栗栖さんも加わって、参加者の質問に丁寧に答えてくださり、公開講座は終了となりました。

10月23日(日)2022秋の市民公開講座①

<依存症と家族の回復について>
講師:(一社)福祉コラボちむぐくる とちぎステップ家族相談室 室長 渡邉 厚司 先生
 
 今回は、何度もひまわりの研修会に来てくださっている渡邉厚司先生による『「12のステップ」という生き方の指針・原理に学ぶーアディクションからの回復と成長について考えるー』というテーマの研修会でした。
 まず、アディクション(依存症・嗜癖)の語源ですが、古くはローマ習慣法による借金奴隷にまで溯ります。この言葉が「奴隷になる」から始まって「何かに囚われる」→「○○に嵌って抜けられなくなる」といった些細なことにまで使われるようになっています。
「依存症」(アディクション)が意味していることは、自己治療仮説つまり生き延びるために必要とするアディクションというとらえ方があります。1次的ないたみや傷つきを癒し生き延びるために使っていたものが、2次的な症状を引き起こしてバランスが取れなくなります。「嗜癖行動」が激しいということは「抱えているテーマ」がそれだけ深く重いということになります。
依存症への理解がなかなか進まない背景は「道徳の問題」と位置づけられることが多い、とりわけ日本ではそう理解されることが多くあります。「自己を適切にコントロールすべし」という近代的規範(呪縛)こそが元凶となり、「意志が弱い」ダメな人間として理解されてしまいます。本当は「近代社会の狂った前提(構造)」が生きづらさを生んでいるといいます。
 今回の研修会でチャーリー・チャップリンの映画「モダンタイムス」が引き合いに出されていました。
人が社会の部品とされ、流れにうまく乗れない人は「ブラックシープ」(厄介者・もてあまし者)とされ阻害されていきます。しかし人生で逆転は期待できなくても「ブラックシープ」のまま誇りをもって生きるという選択をします。自分なりの幸福を追求し、人間性を回復していくこと、生きにくさや生きづらさの中に自分の身を置いて生きていこう、自分のホームに帰ろうとエンディングを迎えます。
 「12ステップ」とは、AAという共同体の中で生まれた生き方の指針です。AAは「宗教でも心理学でもなくスピリチュアル」なものとしてとらえられています。近代合理主義が「神」や「スピリチュアルな存在」を非合理的なものとして排除したことがアルコール依存症の原因という思想も生まれました。 
 「共依存」は依存症の世界ではよく使われる言葉です。「自分の存在論的安定のために、自己」の欲求を定義してくれる人を必要とする人」という意味で使われています。近代社会では自分で自身を常にチェックしながら軌道修正ができることが求められる社会になっていきましたが、そこからこぼれてしまう人が「共依存者」として理解されるようになってきました。
 「12ステップ」の考え方も歴史の中で変遷を遂げました。今、どのように理解していくのかがか私たちが生きるヒントになります。
「人生を他者のために生きるというのは大きな満足をもたらすものだが、このように生きるべきだと指図してくる他者のために生きると、どうしても破壊的になってしまう。よかれあしかれ、自分の人生は自分で選ぶべきだ。」
「ミーティングで行われること。それは『お互いの弱さを開示して知らせる場で、分かち合われる正直さによって苦境を切り抜けていくこと』である。」
【AAに学ぶ~その思想(人生の考え方)・哲学(人生の生き方)~より抜粋)】
 改めて「12ステップ」を心に刻んで新しい生き方に挑戦していこうと思いました。

2022年8月28日(日)第6回「薬物依存症者と家族フォーラム」

薬物依存症は病気です。~家族が笑顔を取り戻すために~
「罰より前に寄り添う支援を」

 去る8月28日(日)に南公会堂で「横浜ひまわり家族会」の第6回フォーラムを開催いたしました。
国立精神神経医療研究センタ―・薬物依存研究部部長・薬物依存症センター長の松本 俊彦先生を講師にお招きしました。
 家族体験談は、ふたりの娘さんの依存症を正直に語ってくださいました。なんでも話せる家族会は自分にとってオアシスだと話されたのが印象的でした。
 当事者の体験談はユーキさんでした。興味本位で始めた薬物に怒りを忘れることができたと話されていました。今は人との関係が楽しいと感じられるようになり、仲間とともに正直に生きていきたいと思っているそうです。

 松本先生の基調講演は「なぜ いま我が国にも ハームリダクション・アプローチが必要なのか?」というテーマでした。いま我が国の薬物問題を解決するために本当に必要な対策は何なのかについて、「ハームリダクション・アプローチ」を軸にした講演となりました。
そもそも「ハームリダクション」とは、いかなるものか。「ハームリダクション」は公衆衛生政策の理念で、「感染症予防」「社会的機能維持」「過量摂取防止」「治療・支援からの阻害防止」の考えが基本になっています。海外ほどの薬物汚染が深刻で取り締まり困難になった国がやむなく採用している政策で日本には必要ない・治療目的ではなく減らすとする依存症治療・あるいは患者の意向に迎合した甘やかし治療などの誤解もあり、浸透していないのが現状です。
 法と刑罰によって本格的に薬物流通量や使用量の規制をしたのは60年ほど前ですが、それによって薬物の生産量は激増し健康被害は深刻化・密売組織が肥大化している現状があります。「ハームリダクション」を採用してHIV患者の減少・治療アクセス者が増加した国もあります。国民の違法薬物障害経験率が減少し、犯罪・社会的損失の減少も見られ、「ハームリダクション」が成功しているそうです。
 薬物事犯の再犯率は高く、刑罰に効果がないことはこれまでも言われてきていることです。
我が国の薬物依存症の中心は覚せい剤です。刑務所で長く収監されたり何度も収監されたりすると不当な差別を受け、社会生活が安定して送れない現実と向き合うことになります。
 近年では、捕まらない薬物が台頭しています。生きづらさを抱えつつ過剰適応するための市販薬乱用が10代女性に増えています。市販薬のインターネット販売の規制緩和など背景がありますが、トラウマやストレスを抱えていたり、自閉症スペクトラムに該当するなど生きづらさが関係したりしているということです。
 薬物依存者に対する精神保健・精神科医療体制にもこの20年ほどでかなりの変化があります。以前は病棟に鍵をかけたり、大量の向精神薬を処方したり、また薬物依存は病気だといいながら、再使用が発覚したら司法に投げるなどの対応をしていたとのことです。近年「薬物依存症は安心して人に依存することができない病気」であるという考えに変化してきています。そんな変化の中で「ハームリダクション」を念頭に置いた実践が始まりつつあるそうです。「個人の嗜好を否定せず、強みを信じる」
「動機付けの程度に合わせた関わり」「薬物使用を裁かず、適応的な面と不適応的な面があるとみなす」
「正しい方向へのスモールステップを評価する一方で、『変化しない』ことを責めない」など、個別の支援に応用していくことが大切で、患者が変わらないことも含めて向き合うことが必要であるとのことです。
 「アディクション」とは、長期的にみると「自殺の危険因子」ですが、短期的には「クスリ」があったことで生き延びることができた「自殺の保護因子」です。
 国の政策としての「ハームリダクション」には時間がかかりますが、今すぐに実現できる「ハームリダクション」があります。強制的身柄保護の中止・支援者の秘密義務・メディア報道の規制など「治療・相談の場面での守秘義務の保障」、また「ダメ、絶対」や「覚せい剤止めますか?人間やめますか?」といった「予防啓発のコンセプトを変える」というものです。
「アディクションはリカバリーの一部、リカバリーの始まり」。依存症患者のサバイバルをどう支援し、人とのコネクションをつくり回復を目指していきたいと締めくくられました。
 
 「Q&A」コーナーでは、松本先生や横浜ダルク・湘南ダルクの施設長、スタッフ、体験談の方、ファシリテーターとして国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所の片山氏が登壇しました。


会場やオンラインからの質問にそれぞれの立場から考えを伝えていただき、有意義なものとなりました。
当事者にかかわるスタンスとして、「つらかったね」という共感を基本に据え、できることを優先していく、気持ちを聴くことを大事にすることと話されていたことが印象的でした。家族としてのつらさももちろんありますが、落ち着きを取り戻して当事者の気持ちに耳を傾けられるようになると、事態は動いていくのだと思います。

 「30年前からダルクでは一度も排除されなかった。ハームリダクションを実現してほしい」
これが、今回の大きなメッセージではないでしょうか。

今回もコロナが終息しない中での開催となりましたが、300名(会場148名・ZOOM159名)を超える参加がありました。北海道から沖縄まで、横浜から全国の皆さんと問題の共有ができたのは大変よかったと思います。

2022年7月23日(土)家族研修会

講師:横浜保護観察所 統括保護観察 石川 美緒 氏

「保護観察における薬物事犯者への処遇について」と題した研修会を行いました。

まず更生保護の役割として、「社会において適切な処遇を行うことにより社会内で再犯を防いで支えていくというものがあります。刑事司法における再犯防止の要であり、収監中から出所後の生活の環境を整えること、生活環境の調整などが柱となります。社会復帰を促し、再犯防止につなげることが大きな目的となります。保護観察は、犯罪や非行を犯した人が更生するよう、実社会の中で指導監督や歩道援護等を行う仕組みです。定期的な面接等を通して生活状況の把握を行います。

 薬物事犯の状況としては、全体は減少傾向にはあるものの40歳代の覚醒剤取締法違反は増加傾向にあります。大麻においては10代の逮捕者もおり、平成26年を境に若い世代への広がりが見られます。
保護観察官及び保護司による指導として
①   面接による接触確保と行状の把握 
②   保護観察を行っていくうえでの約束事(遵守事項)を守るようにと働きかけること 
③   専門的処遇プログラムの実施
があります。専門的処遇プログラムは令和4年4月の少年法改正により、18歳以上の保護観察対象者にも実施可能になりました。

 保護観察を通じて得てほしいものは、悩みや課題を話し合うことのできる関係作りです。薬物事犯の人は一人で解決しようとする人が多く、友達や家族にうまく相談ができない傾向が強いです。新庄茶往査をするとネグレクトなどの虐待やいじめの経験があることが多いです。心に大きな傷を抱えています。困ったことを相談して解決するという体験の蓄積が今後の生活に必要なスキルになります。そして、大切に思われる経験。自尊感情が持てるようになること。感情が揺れ動いたときに踏みとどまる力の体得、つまり逃げずに解決する力をつけることです。問題の解決方法に関する知恵の習得も大切になります。必要な支援(治療や自助グループ等)に繋がり生きづらさがやわらぐことも大いにあります。

 薬物再乱用防止プログラムを収監中から受講し、社会に出てからも保護観察中に実施し、その後も何かの形で治療プログラムにつながることを目的に実施しています。プログラムは、自分の内面に気づき薬物使用の引き金になることや、孤独な状況を避けるなどを考えていきます。実現可能で自分に合った対処法を学んでいきます。
 地域の関係機関や団体と連携し、切れ目のない息の長い処遇ができることが理想です。薬物依存から脱するための体制を作っていくことが重要課題となっています。家族等への相談支援にも目を向けているところです。
 研修後は家族の質問にも真摯に答えてくださいました。

2022年4月23日(土)研修会

講師:群馬ダルク 施設長 福島 ショーン 氏・代表 平山 晶一 氏

「家族のプログラム」

 今回は会の初めに、日本ダルク代表の近藤恒夫氏の逝去に対し黙とうをしました。近藤さんが存在してくださったからこそ、ダルクがあり回復があったのだと心から感謝しています。ご冥福をお祈りいたします。

 今回は、群馬ダルクの福島ショーン氏と平山晶一氏をお招きして、「家族のプログラム」の研修会でした。お二人は、アメリカ・ハワイでの勉強会に参加し、日本全国を飛び回って家族の回復プログラムの紹介をしています。アメリカは日本に比べて薬物依存症になってしまう人がはるかに多いです。そして、薬物依存に関する知識もはるかに多いといいます。
 近藤氏との出会いは30年以上前で、その出会いがなければ今の自分はいないと話されます。今、生きていることが奇跡なのだと。近藤氏がいたからこそ、回復できることや回復の場があったと。
 ショーン氏はダルクに入寮してからも問題をよく起こし、刑務所にも入ったとのことです。ショーン氏の母は姿を消したといいます。そんな母と今は仲がよくなったといいます。
 平山氏は、16歳からクスリにはまったとのこと。特別でなければいけないという考えに支配され、居場所がなかったといいます。居場所を求めていたはずの場所で、クスリから抜けられず居場所を失っていったとのことでした。

家族が薬物依存症当事者のために何ができるのか?
今日はそんな内容の研修会でした。

①本人が大きな病気になったときと同じように接してください。

依存症はWHOが認めたれっきとした病気です。治療・ケアを続ける必要があります。しかし周りの人がなかなか病気と認められないのはどうしてでしょうか?それは検査しても数値で現れるものではないからです。家族も否認して「うちの子に限って」と心にふたをしてしまいます。

②常に本人と自分の依存症・病気・回復の勉強をしてください。

家族会にたどり着いたときは、本人のことで頭がいっぱいです。自分のことを知り、自分の回復を考えることが大切です。困ったときだけ家族会に来て、困らなくなると家族会に足を運ばなくなります。家族会で常に勉強して、病気と闘う練習が大切です。

③本人に昔話・説教をしないでください。他者と比較しないでください。

「昔はかわいかった。」悪気なく言う言葉が、劣等感を持っている本人には、今の自分を認めてもらえないと感じます。
説教をしても仕方ない、昔には戻りません。説教は思い通りにしたいというコントロールになります。世間やふつうはなどと比較することは、片方のいいところともう片方の悪いところを比べています。傷つける言動が、クスリを使う理由になります。期待と理想を持った家族の思いには届かないと思っています。本人の「今」を認めることで、自尊心や自信があがり、そうなるとクスリは必要でなくなります。

④きっかけを与えないでください。

クスリを使うことは、本人がやることですが、何かのせいにしたいと思っています。説教や、本人の前で飲酒することは避けてください。常にリスクがあります。口論するくらいなら黙って離れたほうが良いです。
家族の一番の責任は、本人を自立させることです。大人に育てることです。

⑤本人が同居しているなら、自分の時間を作ってあげてください。

問題があるにしろ、コントロールしないようにしましょう。ルールがあってもよいですが、監視をすると息が詰まります。親が弱っていると巻き込みやすくなります。親が元気なら巻き込めません。共依存の治療が大切です。

⑥昔のことがあったから今があります。過去に戻るのではなく、今からの人生を作りましょう。

「昔に戻ったみたいでうれしい。」などと喜ばないようにしてください。本人にとってはクスリを使い前でも昔は苦しかったのです。家族は手のひらにのった子どもに戻ってほしいだけです。戻ったらもっと状況は悪くなります。
共依存は代々学んでいく病気です。依存症の問題が起こらなければ普通の家族です。

⑦本人の遊ぶ時間、自分の遊ぶ時間を持つ。

共依存とは、自分を犠牲にして相手をコントロールしたいという悪循環に入り込みます。親が元気になること、親が自分を大切にすることで本人の回復につながっていきます。笑っているほうが本人も絡みにくいと感じます。家族会は自分たちの勉強の場です。家族会に出ることで本人への影響もあります。

⑧イネイブリングしないでください。

「イネイブリング」とは、本人のクスリを使う手伝いをすることです。やめてほしいと思っているのに、本人のためによかれと思ってしたことが、クスリを使う環境を作っています。家族が困っていることを伝えてください。黙っていると本人には都合がよくなります。親がいなくなっても生きていけるように、責任を持たせることが大切です。親は罪悪感を抱えてしまいますが、小さいことから始めてください。

⑨本人に責任を持たせることが本人の変わるチャンスになります。

家族も過去に生きず、前を向いてください。本人を苦しませたくないと家族は思ってしまいますが、本来、責任を取ることは苦しいことです。

⑩クリーンがあってもきちんと境界線を作りましょう。

しかし、罰としての境界線は作らないでください。問題が遠のくと境界線はぼやけます。大変な時は境界線が引けますが、家族はアッという間にもとに戻ります。自分だけで判断しないようにしましょう。お互い納得できない境界線は罰と感じます。

⑪経済的なサポートをしない。

治療に当たるもの以外は、お金のやり取りはしないでいましょう。

⑫本人の病気の恐ろしさを忘れないでください。

最悪だった時のことを記憶に残しておきましょう。おびえる必要はありませんが、あそこに戻らないように家族会に継続して参加してください。

家族が直接できることはありませんが、間接的に回復に向かうようにはできます。

いつものように軽快なお話で、大切な12項目を聴かせていただきました。あの時点には戻りたくないと、苦しんできた家族なら誰しも思うことですね。仲間とともに、語り合いながら回復の道を進んでいきたいと切に願った研修会でした。

2022年2月27日(日)第7回「薬物依存症者と家族 オープンセミナー」

 

基調講演:神奈川県立精神医療センター副院長小林桜児先生

第7回となった横浜ひまわり家族会のオープンセミナーです。コロナウイルスまん延防止重点処置期間中でしたが、会場には100名ほどの参加がありました。Zoomでの参加は120名もあり、会場とオンライン参加者・講師の先生と繋ぎ、多くの方にメッセージを届けられたと思います。

 まずは家族からの体験談でした。Mさんは50代の息子さんの薬物問題に悩んで家族会に参加されました。刑務所から出所するときに、ダルクへの入寮か、病院に行くかの選択を息子さんに求めましたが、息子さんは「働きたい。」と…自分の考えにはなかった選択肢を息子さんが選んだことに困惑されましたが、母が敷いたレールではない人生を歩み始めた息子さんを応援するまでの過程を、心を込めて語られました。
 本人体験談は、ロンさんでした。何度かロンさんの体験談を聴いてきましたが、表情がとても穏やかになっている印象を持ちました。「不安」という言葉を知らない、そんな気持ちを誰かに言ってはいけないと思いながら生きてきたと話されていました。今、スタッフとしてダルクで生活しているが、スタッフでいることで自分が助けられているということに感謝したいとのことでした。
 もうお一方の本人体験談はK-GAPの近藤氏でした。発達障害を持っていて、学校での生活がとてもつらかったとのことでした。自分でも動いてしまう原因がわからなかったし、ぜんそくがあって夜も安心して眠れない生活、母からは生まなければよかったと言われ、居場所がなかったと話されていました。お話の最後に、「インナーチャイルドワーク」をしてくださいました。

 今回は、久しぶりに神奈川県精神医療センターの小林桜児先生の基調講演でした。
「依存症患者をどう理解し、治療につなげるか?―家族の対応について―」
従来は依存症の説明として、遺伝的要因と環境的要因が絡み合って依存症になると言われてきました。発達障害を持っていたり好奇心・興味本位ではじめたり、害に対する知識の欠如などによるものと認識されてきた部分が多かったのですが、果たしてそうなのか?社会的に地位のある議員や教員、果ては医師などおそらく知識が欠如しているなどとは縁遠い人たちにも依存症になる人はいます。社会的地位や名声をなげうっても止められない「依存症」とは、一体何なのかということを丁寧に説明されました。
小児期の逆境体験が心理的孤立を生み、依存症との接点を作りだす可能性に触れていました。薬物に頼ることで心理的孤立が改善され、それが習慣化していく、つまり報酬的効果が本人にとって大きくなります。
 依存症は本人にとって溺れかかったときの浮き輪のようなものであり、依存症の症状は自己調節機能障害=「感情の海」を上手に泳げないことだと言います。無理に浮き輪(薬物やアルコール)を取り上げても、別のもの(他の薬物やギャンブル)にしがみつくだけで解決にはならない、解決していくためには泳ぎ方を覚えていくしかないのだと。
 小林先生は、依存症を信頼障害という仮説に立って、分析を進めています。その立場から治療を考えると、まず依存症の重症度を下げる視点に立ち、人を頼れるようになって不信感を減らすなどの取り組みをしていくことが大切だとのことです。すぐにやめられなくても害を減らして行くことを目指し、受容や共感の体験を積んでいければよいと考え治療にあたっています。
 まずは家族間のコミュニケーションを改善していくこと、行動変容を強化していくこと、距離をとるなどを経て、家族自身の生活も守る必要があります。
 本人を治療につなげるには相当な労力が必要です。家族が先に相談に繋がり行動を変化させることで、突破口が見つかることもあります。本人の回復に振り回されずに家族自身が楽に生きる方法を模索していくことが重要ですと締めくくられました。

 小林 桜児先生の依存症に関するYouTube動画もアップされています。何かの折に観て心を軽くするのもよいのではないでしょうか。

Q&Aセッションでは、まだダルクにつながっていないご家族や保護司、ZOOM参加者からも質問を受けて活発な質疑応答ができ、時間が短いとのアンケート回答も頂きました。
ZOOM講演も4回目となり定着した感があります。神奈川県外から北海道・沖縄までで大変盛況となりました。
今後もニューノーマルのイベントとして、ZOOMオンラインを併用したオープンセミナーで、依存症家族以外の援助者・一般参加者へも啓発を図っていきたいと思います。

2022年2月26日横浜ひまわり家族会・第8回オープンセミナー

去る2月26日(日)にラポールシアターで「横浜ひまわり家族会・第8回オープンセミナー」薬物依存症は病気です。~家族が笑顔を取り戻すために~を開催いたしました。
基調講演に北里大学医学部精神科学助教授の朝倉崇文先生を講師にお招きしました。

 当事者の体験談は、横浜ダルクのスタッフ、ソウさんでした。
 「プログラムで自分の人生を振り返っても、仲間のようにトラウマがあったわけではなかった。ただ薬があった。一緒にクスリをやっていた友達は失敗すると薬を止めていったが自分にはそれができず、コントロールを失っていった。仕事もなにもかも破綻して失っていったが止められなかった。逮捕されて「クスリとの戦いが終わる。」と思ったがうまくはいかず、死ぬに死ねなくてあきらめていた。ダルクで「止めようとすることを止める。」と言われ、プログラムの中で仲間の支えを頼りに少しずつ正気を取り戻した。」そんな苦しい思いを話されました。「今、悪夢から解放されている。」と明るい表情で話されていました。
 家族の体験談は、ジュンさんでした。息子さんのストーリー、家族のストーリー、薬物の問題が発覚してからどんな思いで今日までやってきたのか、ご夫婦の思いが詰まった体験談でした。家族会での出会いや回復などのお話もありました。

 朝倉先生の基調講演は、「常識ではわからない依存症。わかることで回復できる。」~レッテルを貼られた人達との出会いで得た、依存症の本質~というテーマでのお話でした。
 「依存症」あなたにとってのイメージはどんなものでしょうか。「だらしない人がなる。」「意志の弱い人。」「快楽に身を沈めた結果。」「悪い奴。」このような社会の偏見や差別により本人や家族にとっては恥ずべき問題となっているのが現状です。例えば著名人では、逮捕されてからも否定する場合が多かった時期がありました。しかし、近年は「依存症であること」を告白するようになってきました。アメリカでは先にカミングアウトをして栄光を手放し回復に向かおうとする人、さらには栄光を手にしたまま治療にあたり復帰する人も出てきています。日本でも2018年ころより依存症治療を告白する人が出てきました。
 依存症の歴史としては、アメリカの禁酒法時代より前に社会問題として注目されており、規則や刑罰の強化をしてきました。それでもうまくいかず、飲む人は減らないことに反社会組織が目をつけ闇で売ることに。このころから病気としての認識も存在していました。道徳的・宗教的なアプローチも失敗しましたが自助グループの広がりで治療に成功するようになっていきます。心理学の発達も相まって一定の効果を上げていくようになりました。今現在は、断酒断薬ができない人でも生きられるようにという考え方も出てきています。ハームリダクション政策で問題を減らしていくという立場で治療にあたっていきます。社会的孤立や生活困窮・心理的安全性など背景の社会問題の支援をし、ライフスキル教育によって使わなくても生きていける、使わなければならない人を減らす政策に切り替えようという動きが出てきています。
 何年か前から言われている「依存症の自己治療仮説」というものがあります。不快な感情を緩和・逃れるために薬物を使う行動をとるというもので、一時的であれ手軽に確実に様々な問題から逃れることができます。他人に助けを求めると裏切られることもありますが、クスリは必ず効果があります。そのように感じている人が薬物使用を止めるには安心できる場・居場所・充足感などが重要です。ライフスタイルを変えないまま薬物だけを止めようとする人は多いようですが、それだけでは問題を解決することは難しいです。
 「ちゃんと生きたい気持ち」を持っている依存症者が、「ちゃんとできない現実。」にぶつかっても生きていけるように支援をしていくこと、問題解決において大切なことを認識できるように支援をすることが大切です。そのために、本人にとって「本当に困ること」「何とかなること」を区別することが必要になります。治療するには戦略を立てる必要があります。本人の意志の強さに頼るのは危険で無策の場合が多いようです。不安要素を分析し戦略を立て、その一つとして自助グループや病院が存在します。依存症になる人の特徴として「自分に自信がない。」「人を信じられない。」「本音を言えない。」「見捨てられる不安が強い。」「孤独で寂しい。」「自分を大切にできない。」などが挙げられます。支援者はまず本人の目の前にいる自分が彼らを受け入れること、それが彼らの最初の救いになります。
 家族は起きている問題を整理し誰かに相談すること。自分も疲弊しているのでケアをすること。家族教室や自助グループに通い背中を見せること、情報を集めること、治療者になる必要はないこと、依存症の課題と自分の課題を分けて考えることを実践できるとよいでしょう。家族の自助グループの役割は、「分かち合い孤独を解消すること。」「希望を見出すこと。」「陥りやすい失敗を知り振り返ること。」「新しい生き方をすること。」「自分の課題と家族の課題を分けて取り組むこと。」などです。

平安の祈りのなかの、「変えられるものは変えていく勇気、変えられないものを受け入れる落ち着きを、そして二つを見分ける賢さを」これにつきるということでしょうか。

 

Q&Aはセッションは、朝倉先生、横浜ダルクの施設長山田氏、スタッフのソウ氏、一般社団法人HOPEの栗栖氏、家族会のジュン氏、ファシリテーターの片山氏で行われました。会場から、「本人との距離の取り方」の質問には、事情によっても違うけれど、ダルクからは「困らせたいわけではない。支えとして家族に一緒にやってもらいたいこともあるが、親は親の生活を大切にし、危険のないようにしてほしい。」「過保護になりがちだが誰のための行動なのか、自分が安心したいから構いたいのか考える。正解はわからない。」などのお話がありました。朝倉先生からは「家族は問題を分けるのが難しい。できないなら離れるほうが良い。困るところを見せてもよい。それがきっかけで本人が変わることもある。家族は自分が死ぬまでに何とかしたいと思うが、急ぐ原因になるのでその考えを捨てるとよい。死んでから変わってもよいのではないか。人はいつか変わると信じること。」などのご意見でした。
最後に会場から当事者の手が挙がりました。言葉に詰まりながらもやっと心の叫びを発してくれた男性。「ドラッグに逃げた自分。自分にしかわからないことがある。人のせいにしたくないが、家族への不満、意見の食い違い、両親の【ものさし】に合わなかった。母の変化を感じ自分も言えるようになってきた。親の一歩と自分の一歩は違うが進んでいきたい気持ちがある。みんなが同じではないが少しずつ進んでいることを認めてほしい。」心の叫びともとれる大切な発言でした。朝倉先生からは、「時間をかけて世代間連鎖を切るように努力してほしい。」と言葉がかけられました。