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9月23日(土)横浜ひまわり家族会 研修会

講師:横浜ダルク副理事長・弁護士 千木良 正 先生
「覚せい剤に関わる法律問題について」

 今回は、横浜ダルクの副理事長であられる千木良弁護士を講師にお招きしました。千木良氏はカトリック教会を支援していた縁で2007年からダルクと関わりが始まりました。社会福祉士でもあり多角的な見方で、依存症の問題に取り組まれています。

 まずは、刑事事件としての問題について話されました。
1 覚せい剤で逮捕されたら、まずは弁護士を呼ぶことですが、弁護士にもいろいろな制度があります。
① 当番弁護士制度(私選弁護人選任申出制度)
  弁護士会の当番弁護士に裁判所などを通じて接見要請の依頼を受けた時には、前もって当番弁護士の希望者を募って作成しているリストに従って弁護士が派遣されます。家族や知人も胃ライン電話をかけることができます。逮捕者に知的障害や発達障害がある場合には、障害胃に配慮することができる弁護士を派遣されています。
② 私選弁護人の選任
  弁護士との契約により委任。
  弁護士費用については各弁護士との個別契約によります。
③ 被疑者国選制度
  被疑者が勾留されており勾留された被疑者の経済状況により弁護士費用を負担することが難しい場合に本人の請求等により裁判官が弁護人を選任する制度です。
④ 被告人弁護人制度
  起訴された被告人の経済状況等により弁護士費用を腐乱することが難しい場合に本人の請求等により、裁判所等が弁護人を選任する制度です。

2 起訴前の刑事弁護
① 弁護内容…被疑者に対して弁護の方針を助言、対応をするものです。捜査が適正に行われているかをチェックすることも大切な役割です。
② 接見禁止
  接見禁止を解除を求めるか決めます。
③ 刑事弁護人の留意点
  被疑者の中には罪を免れたいがゆえに虚偽やごまかしの弁解を重ねるものが少なくないので弁解の信用性を十分に吟味する必要があります。

3 起訴後の刑事弁護
 ① 保釈申請
  保釈が許可される条件
  ・犯行を自白していること。
  ・前科・前歴(とりわけ覚せい剤事件)がないこと。
  ・覚せい剤や注射器等の用具が押収されていること。
  ・入手経路があきらかとなっており他に譲渡していない事。
  ・身元引受人がしっかりしており、覚せい剤関係者との接触を断つことが期待できること。
  ・暴力団関係者・実刑が確実視される覚せい剤の常習者は保釈が許可されにくい。
  ・保釈金は150万円前後が多い。
 ② 情状弁護
  ・覚せい剤の入手経路と仲間をすべて明らかにすること。
  ・覚せい剤を使用してしまったときの心境を明らかにすること
  ・生活環境を改善できるか。
  ・親族の協力を得られるか。
  ・病院への入通院や薬物依存者の回復支援団体への参加。
  ・しょく罪寄付(被害者支援団体への寄付など)
 ③ 裁判が終了したあとするか否かを判断するまで。(私選弁護人は控訴審を担当することもある)判決確定後のケアについては基本的には関わらない。弁護士はダルクを知っている人が少ない状況です。発達障害なども理解している人は少ないようです。
4 判決
 ① 初犯…懲役1年6か月 執行猶予3年
 ② 再度の執行猶予…覚せい剤で再犯者に言い渡される刑が1年以下になるこてゃほぼない。
 ③ 実刑後の再犯…7年~10年程度あいていると執行猶予付きの判決の見込みは高くなる。
5 身柄について
  ・執行猶予判決の場合…勾留中であっても判決当日に身柄を釈放されそのまま帰宅できる。
  ・実刑判決の場合…起訴時に勾留されていなかった場合は、判決が確定するまでは収監されることはない。保釈中であった場合は、実刑判決の言い渡しにより保釈は失効する。判決直後に検察庁の職員が身柄を拘束・収監される。
  ・仮釈放…実刑に処せられて刑務所に勾留されている受刑者について、改悛の情がある場合に、一定の刑期を経過した後、行政官庁の処分によって仮に釈放できるとする制度。期間満了までは保護観察に付する。
  ・一部執行猶予制度…刑期の一部である懲役6か月を2年間の執行猶予としその猶予期間中、被告人を保護観察に処する。犯情の軽重や犯人の境遇その他の情状を考慮して社会内において規制薬物等に対する依存の改善に資する処遇を実施することが再び犯罪をすることを防ぐために必要であり、かつ相当であると認められること。
 次に、民事事件としての問題については以下のことを丁寧に説明してくださいました。
 1 借金の問題
  ① 自己破産…裁判所の手続きにより、債務の全額を面積させる手続き。
  ② 個人再生…一定の金額を分割で支払うことにより、残額を免除してもらう。浪費などの事情があっても利用は可能。
  ③ 任意整理…債務者との間で分割弁済の和解をすることで借金の整理を行う。生活保護受給者中は、任意整理をして返済することは認められていない。
借金問題は、治療施設に入る前の生活の中で起こっていることが多い。借金の消滅時効などもあるので、専門家に相談することが賢明です。

そして、他害行為についての家族の責任として
 1 精神障害者の責任能力が否定された場合
   ・その場合は原則として、その者は損害賠償義務を負わない。
 2 責任能力がない場合でも民事上の責任を負う場合
   ・例外として故意または過失によって一時的にその状態を招いたときは、この限りではない。例として、違法薬物を使用して第3者に損害を与えると予見できた場合などはこれにあたる。
 3 家族に責任はあるのか?
   ・責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負うものはその責任無能力者が第3者に加えた損害を賠償する責任を負う。
   ・精神障害者の家族は監督義務者なのか?…判断は事例によって異なる判断が必要であるので専門家に相談した方がよいようです。

 借金暴力事件など家族の責任についても丁寧に事例を挙げながら解説してくださいました。
一筋縄ではいかないことも多いので、困ったらダルクのスタッフや弁護士などに助言を仰ぎ、落ち着いて対処するのが一番良いように感じました。

質問の場面では、それぞれの家族が抱えている借金などの問題を尋ね、わかりやすい回答を得ることができました。
 ダルクにつなげようと弁護士が頑張っても本人にその気持ちがなければ繋がりにくい。執行猶予になることを本人も保護者も知っているとなおさら切迫感がなく、回復にはつながらないと感じているそうです。
弁護士ももっと依存症に関する知識を持っていてほしいと切に感じているそうです。




8月27日(日)第7回「薬物依存症者と家族フォーラム」

テーマ:薬物依存症は「病気」です。〜家族が笑顔を取り戻すために〜

いっしょに考えよう!生きづらさのこと

 この夏、7回目の横浜ひまわり家族会フォーラムを開催しました。

基調講演の講師に、一般財団法人信貴山病院 ハートランドしぎさん 臨床教育センター長の長(ちょう)徹二先生をお招きし、依存症者本人体験談、家族の体験談などを織り交ぜて行われました。

今回もハイブリット方式で会場とオンライン参加者とが一体となり問題の共有ができました。

 まずは家族の体験談でした。登壇者は息子さんの薬物の問題を抱えているターボーさんのお話です。

現在26歳の息子さんは、市販の睡眠薬を6~7年前から服用しており、行動などの問題を抱えています。

おかあさんへの暴言がエスカレートしていき今はお母さんが自宅を離れて生活しています。病院などに行っても長続きせず、時々派遣の仕事をしながら自宅で暮らしているそうです。

ご夫婦で昨年12月から家族会に参加するようになり、本人への対応などを学んでいるところです。家族が心安らかにいられるように今後も家族会に参加していきたいとのことです。

 そして依存症当時者のたくさん。

11年前にダルクに繋がって今は横浜ダルクのスタッフをされています。

薬物は12歳に時に始まったと言います。家庭は一般的で両親と兄と暮らしていました。朝、なかなか自分で起きられず蹴とばされることがあったそうです。他の家族を知らないから、それが変わっていることだとは思っていなかったといいます。学校では目立ちたがりで中心にいたいという気持ちが強かったようです。小学校5年生くらいから先輩と過ごすことが多く、たばこも覚えていきました。それがエスカレートしてアルコールやガスなどを使用するようになっていったようです。

若くして結婚し、子どもが産まれても薬物を止めることはなかったけれど、妻からはやめてほしいと言われ続けていたそうです。口では止めるというけれど、特にやる気もなく続けていたら、だんだん生活がままならなくなってきました。ダルクのデイケアに通いながら、とりあえずしばらく我慢すればなんとかなると思いながら通っていたといいます。それではうまくいかず再使用を繰り返し、山梨ダルクに行くことになって初めて薬物の問題と向き合い始めたそうです。「しらふ」で社会で生きるのはとても大変、自分が一番楽に生きる方法はダルクでスタッフになることだと思ったそうです。クリーン11年、スタッフの仕事も8年続いているし、回復後に出会った仲間に助けられて今がある、与えられたものも多いと感じていると話されていました。

 そしてハートランドしぎさん 臨床教育センター長の長先生の基調講演です。「きょうどうする」をテーマに軽快に話をしてくださいました。

近年の薬物依存症の治療論が「ただ止めるだけ」ではなくなり、個々に抱えている[生きづらさ]に目が向くようになり、支援する側、家族にはさらに負担が増えてきていることを踏まえて、一緒にできることを探しましょう。大きな岩は動かせないけれど小さな石にすれば運ぶことはできます。というメッセージを届けてくださいました。

効果(快感)を発揮するものを求める。しかしそれは便利で快感の多いものは脳機能を刺激し、より強い興奮が生じるようになる。だがコントロールが効かなくなる。これを「依存性」と表現します。 

治療の場面では医師が外から依存症患者を診て判断することが多いです。しかし、支援者や治療者が診てるものと、家族が見てるもの、患者自身が観ているものどう違うのか?支援者が考える「今日一日」と本人が考える「今日一日」では、重みが全く違うと気づくまでに時間がかかったそうです。問題が起きてないときもあれば、たまたま起きてしまう時もある。なのにコントロール障害と言われたくない。何回かに一回の失敗を責め立てられるのはつらいと言います。元来、話すことや本音を言うことが苦手で人との関係が作れない人が、依存症者には多く観られる傾向です。臨床においてのターニングポイントは本音が放せる関係性を作ることが何より重要だと治療現場にいて実感されたそうです。問題は物質関連だけではなく、見えにくい水面下にある、そう考えて取り組んでいます。表現が下手な人は、初めから「近寄ってくるな」というオーラを醸し出したり、「大丈夫」と調子を合わせたりする人が多く見られます。そうすれば短い時間の関わりだけで済むから、本人としては楽だからです。信頼する人がいないから物質に頼って対処することになっていきます。逆境体験を持っている人も多く、心の傷を話せずにいる場合も多くあります。どのように信頼関係を築くのかが治療のポイントになります。

本当の問題は物質使用ではなく、ほかの何かを抱えています。物質使用がないと生きられなかった、死んでいた。そんな状況を考えていかなければ治療のスタートに一緒には立てないように思います。

体験談を聴いたり話したりすることは、理解を助けるうえで重要なものであります。

 依存症者との関わりを持つ家族や支援者にも大切なことは、自分の感情に気づいてケアをすることです。自分が元気でこそ依存症者の支援に立ち向かえます。家族や支援者は車の助手席に乗っているイメージで時々手伝うくらいが良い距離間でしょうか。しかし、当事者の近くにいる家族はそう簡単にいかないのが常です。「わかっているけど、正しいかもしれないけど、そんなんできるかい!(できないよ)」

 長先生は家族支援の際に、正論だらけの勉強会や、スタッフレベルの対応を家族に伝えていました。それは大きな失敗だったと話されていました。「わしら、なんにもわかってなかった。」その後、思い切って路線を変えていったそうです。自分にご褒美をあげて次への活力にすることは効果があります。家族はじぶんができること、当事者がしなければならないことを分けて考えていくことが大切です。うつや落ち込みには悪循環があります。逆に健康行動には好循環があります。ストレスに気づいたら自分をいたわってご褒美をあげることが好循環への道です。ただセルフケアといっても、自分一人では難しいことも多いです。家族会の仲間の存在が重要になります。話せる場を持つことが大きな力になります。

 患者さんとの治療場面でも、客観的に自分を見ることができるように支援します。一緒に見る機会を増やすことが大切です。

すべてのかかわりの基本は ①まずは受け止め ②安心できてから少し対話 ③余裕があれば協働作業。共通の島に着地するイメージです。当事者にとって一番の安心はせめられないこと、そしてかかわる工夫があること、話やすいことです。医師といえども教えてもらう気持ちを持つと、関わりが変化していくようです。

協働作業は、一緒に地図を見るイメージ、細かくチューニングをするイメージなどです。家族も少しずつ行動を変えていけるといいですね。

「きょうどうする」は「協働する」「共同する」「今日どうする?」あなたはどう読みますか?

 Q&Aセッションは、長先生、横浜ダルク施設長・山田氏、HOPE施設長・栗栖氏、当事者のたくさん。そしてファシリテーターとして国立精神・神経医療研究センターの片山氏を交えて、質問に応えていただきました。

家族関係や、回復に向かうターニングポイントなど興味深いお話が聞けました。たくさんから、「薬物を再び使いたいとは思はないけど、やめたいかと言われると、わからない。やめたいというより、変えていきたいと思った。」と語ったのが印象的でした。

長先生の「家族としてお互い気遣いながら生きている。そもそも違う個体が暮らしいるのに、マッチしないといけないと思い込んでいるからつらくなる。自分なりの整理ができるとよい。」と話されていました。

 3年前のフォーラムはコロナで急遽オンライン講演になりましたが、今回はフェイス・トゥ・フェイスで関西弁の軽妙な語りが心地よいフォーラムとなりました。

7月22日(土)家族研修会

テーマ『保護観察所における薬物依存のある人の処遇について』

今回は法務省横浜保護観察所の統括保護観察官の太田典子氏をお招きし、一般にはなじみが薄いけれども当事者と私たち家族にとっては関係が深い「更生保護」についてのお話を伺いました。

お話の内容は次のとおりです。

  1.更生保護の役割

更生保護法第1条は「更生保護とは犯罪をした者及び非行のある少年に対し、社会内において適切な処遇を行うことにより、再び犯罪をすることを防ぎ、又はその非行をなくし、これらの者が善良な社会の一員として自立し、改善更生することを助けるとともに、(中略)、犯罪予防の活動の促進を行い、もって、社会を保護し、個人及び公共の福祉を増進することを目的とする。」と規定されています。

国家公務員である保護観察官と民間篤志家である保護司は協働して保護観察業務を担っています。保護観察は遵守事項の義務付けと定期的な面接等を通して、保護観察対象者の生活状況の把握を行っています。実社会のなかで指導監督と補導援護の業務が補完し合うことで効果が生まれます。

住居・家族・仕事先・学校などの生活環境は保護観察対象者の立ち直りに大きな影響を及ぼすため、保護観察官や保護司は犯罪や非行を犯した人が刑務所等に入所しているうちから釈放後の住居や仕事先の調査を行うなどして立ち直りを支える環境を整えています。これは、保護観察所における更生保護が刑事司法の最後の砦、再犯防止のかなめとして、犯罪を犯した人が地域社会に円滑に戻れるよう(更生できるよう)行政や医療などにコーディネートすることがその役割であるということを明確に表しています。

なお、保護観察になじまない精神観察については厚生労働省と緊密にタイアップして縦割り行政の弊害を避ける取り組みが現在すすんでいるとのことで期待したいと思います。

2.保護観察所における処遇の実際

保護観察官及び保護司による指導の内容は、面接による接触確保と行状の把握、遵守事項を守る働き掛け、専門的処遇プログラムの実施です。

保護観察におけるねらいは、悩みや課題を話し合うことのできる関係作りを通じて困ったことを相談して解決するという体験の蓄積、特に保護司との間で自身が他者から大切に思われる経験を通じて自尊感情を持てるようになり感情が揺れ動く場面で踏みとどまる力の体得、問題の解決方法に関する知恵の習得を通じて自身の生きづらさを和らげる必要な支援(治療や自助グループ等)につながる可能性などが挙げられます。

薬物事犯者に対してはグループワークによる「薬物再乱用プログラム」が課せられます。プログラムは執行猶予期間によって相違しますが、コアプログラムとステップアッププログラムで構成されます。

プログラムの後には簡易薬物検査があるため当事者にとっては薬物を使用しないよう心理規制を受ける一方、一定期間使用することなく頑張ったことを確認する手段としての機能を有しています。よって、陽性の場合は当然、法による処分の対象になります。

プログラムにはダルクなどの自助グループのスタッフや医療からは精神保健福祉士なども参加します。特に、ダルクスタッフの同席は薬物依存の経験者かつ回復者として当事者にとっては大きな励みであり目標となり得るため欠かせない存在です。

当事者にはこのような保護観察のねらいを理解し、プログラムに真摯に取り組むことによって一日も早い更生を願いたいものです。

3.   これからの更生保護 ~家族の皆様と共に~

当事者はその犯した罪により処罰を受けて刑務所に収監されたり、執行猶予で保護観察所の指導監督や補導援護を受けます。薬物依存から脱するための体制作りとして地域の専門機関による必要な治療や福祉などの継続的な提供を受けたり、当事者同士の支え合いの機会や薬物依存からの回復に配慮した住居の確保をはかってもらったり、家族の理解と協力の獲得に尽力してもらったりと、諸々のセーフティーネットが用意されます。では、家族はその間どうしたら良いのでしょうか。

実はこのことこそが家族にとって大問題なのです。

「息子がもうすぐ出所するがどうしたら良いでしょうか」

「もうすぐ執行猶予期間が満了になるけれどどうしたら良いでしょう」

こういった不安を抱えて家族会の相談に駆け込む家族が実に多くいるのです。

保護観察所はこのような家族に対しても相談支援を行っています。その内容は引受人会の実施を通じて家族の理解を促進したり、家族からの個別相談にも対応し、保護観察官及び保護司による支援を行ったり、関係機関や家族会へ協力するなどです。

家族はその時が来る前に『大切な人のために家族ができること』をする必要があることを忘れてはならないのです。家族の相談は回復のチャンスを作ります。相談する社会資源は少なくないのです。行政・医療・家族会などの自助グループで依存症を識るセミナーに参加してCRAFTなどの知識を習得し、自身を問題志向から解決志向に切り替えることによって、まずは家族が元気を取り戻すことがとても重要なのです。

私たち家族は当事者の犯罪によって私たち自身も傷付き心折れる経験をしました。しかし、当事者が更生回復の道を辿るのと時を同じくして私たち家族も回復しなければなりません。

保護観察所で日々犯罪を犯した人と接しておられる太田統括保護監察官様はじめ多くの職員の方々及び保護司の皆様の業務に敬意を払うと共に『これからの更生保護~家族の皆様と共に~』というメッセージを感謝の心で受け取りたいと思いました。

6月24日(土)横浜ひまわり家族会 家族研修会

講師:神奈川県立精神医療センター 精神保健福祉士・公認心理士の小林千香子氏
テーマ「家族の対応」

 今回は神奈川県立精神医療センターの精神保健福祉士・公認心理士の小林千香子氏を講師にお招きしました。今回の講演テーマは「家族の対応」です。ひまわり家族会ではおなじみの井上恭子先生もいらしてくださいました。神奈川県立精神医療センターは依存症の専門治療機関です。小林さんは平成27年4月から勤務しており、救急と思春期外来の担当でいらっしゃいます。現在は依存症専門治療も「依存症外来」「思春期ゲーム行動症外来(中高生対象)」「レインボー外来(性的マイノリティ―のある依存症の方対象)」に分かれています。  「依存症外来」は、成人が対象でアルコール・クスリ・ギャンブル・盗み・買い物・性などの診療を行います。「思春期ゲーム行動症外来」は、家族全体の機能に目を向けて親子で共に参加できる専門プログラムがあります。家庭や学校で居場所が見つけられず、ゲームの世界だけが居場所と感じている患者が多くみられます。「レインボー外来」は性的マイノリティで他の病院では受け入れることが難しい場合が多く依存症と性的マイノリティの二重の差別や苦しみがあります。  初診患者に目を向けると、以前はいわゆる「やんちゃな男性」が違法薬物にはまり逮捕されてしまうことが多かったのですが、最近はSNSなどで知りライトな感覚で薬物使用をする「普通の人」が増えてきています。また女性の患者も増えてきています。女性の方が、習慣化が早く併存する精神疾患が多いことも特徴として見えてきます。市販薬など人を介さずに購入できる薬物使用者も多く、より孤独な状況で苦しんでいる状況が浮かびます。  依存症者の家族にはいろいろな困り感があります。本人への否定的感情が渦巻き、怒りや悲しみが大きく依存症に対して否定的な気持ちになります。そして社会の偏見と誤解がさらに苦しめます。依存症という病への理解は、少しずつ進んではいますが、まだまだ「わがまま」や「意志の問題」などと考える人の方が圧倒的に多いのが現実です。「親の育て方」「家族の責任」など非難の的になります。社会からの家族への役割の期待も家族を追い込んでいきます。そして苦しいまま誰にも助けを求められず。孤立していくのです。閉鎖的で不健康な家族に陥っていきます。「依存症の問題さえ何とかなれば・・」  家族は薬物から本人を遠ざけようとしてコントロールしようとしてしまいます。しかし家族自身がコントロールを失って巻き込まれていきます。そして被害者意識「あの子のせいですべてが台無しに」など本人への否定的な感情に支配されていきます。家族は自分たちで何とかしなくてはいけないと過剰な責任感を持って対処しようとします。自己を失って混乱していくのです。  家族の対応を振り返っていくことが大切になります。一人ではわからないことも家族会で仲間ができることによって気づきが生まれます。  「家族のしすぎ」について、わかりやすくまとめて提示してくださいました。 ・一言が多すぎる。 ・先に言いすぎる。 ・正論を言いすぎる ・答えを出しすぎる。 ・欠点が見えすぎる。 ・先回りして考えすぎる。 ・起きていない事を恐れすぎる。 ・事実をきちんと見せてなさすぎる。  みなさんは思い当たることがありますか?ほとんどの家族には耳の痛い内容ではないでしょうか。  依存症の問題はなかなか答えがでません。小さな変化に目を向けいいところを見つけていけると少し楽になります。 家族が健康でいるためには、「依存症を正しく理解すること」「適切な対応を学ぶ」「家族自身が健康を取り戻す」ことです。家族の健康のためには、依存症以外の関心ごとを増やし、かつての楽しみを取り戻す、そして複数の楽しみを増やしていくことです。 渦中にいるとそんな気持ちにはなかなかなれませんが、家族会のメンバーで支えあいながら乗り越えていける日が来ると思います。 講義後は質問にも真摯にお答えいただきました。井上先生も適宜、回答してくださり家族の迷いの糸口を見つける一歩につながるとよいと思います。若い依存症者はパワーがあり家族も振り回されます。どこかで回復につながるタイミングがあるので家族は情報を得ておくと動きやすくなります。日々のやり取りで不安があるなどの場合も、家族会で不安や迷いを口に出すことで糸口が見つかるかもしれません。

5月27日(土) 横浜ひまわり家族会 家族研修会< 家族の回復② >

講師:特定非営利活動法人 群馬ダルク 施設長 福島 ショーン氏

 今回も群馬ダルクから福島ショーン氏をお招きしての研修会でした。「関係を取り戻すコツ」と題してのお話でした。
 ショーン氏のお母さんは、未だに自分のことを子供扱いするのだそうです。今はショーン氏自身のベースがしっかり安定しているから崩れないけれど、会うと怖いと思うこともあるようです。
薬物にどっぷりはまっている時期でもクスリの効果が切れてくると「自分は何をやっているんだろう。」と考えていたそうです。薬物をやっていると、止めたい気持ちと、止められない気持ちを抱えて「ジレンマに陥ります。そのうえ家族からも攻撃されることが多く、つらい気持ちに拍車がかかります。
 そういったときの家族の関係をこじらせないためのコツを紹介してくださいました。
本人にやってはいけないこと
① 上から見る。
これは説教などが当たります。子供扱いしている状況です。
「まだそんなことしてるのか。」「あんた馬鹿じゃないの?」「そんな子、産んだ覚えはない。」などと、言った心当たりのある家族は多いのではないですか?自立を望んでいるはずなのに、子供扱いをしてしまう。そして裁いたり、批判したりする。決めつける。説教、比較などがこれにあたります。
大人として接する、その方が本人は頑張れます。
② この問題はいつか去ると思う。
自分たちが今を我慢すれば終わると思っていませんか?大人になれば治ると思っていませんか?これは進行性の病気です。クスリを使っていなくても進行しています。
③ 強制的にやめさせようとする。
「好きに使って。」と言われた方がまだいいと感じるそうです。親の回復が強いと本人は親を責めにくくなります。親は本人にコントロールされにくい状態になります。逆に弱っていると責められやすくなります。本人の行動を強制しないことが大切です。
④ イネイブリング。
尻ぬぐいをしない。(後始末、解決)を親がしないことです。生活習慣で依存症になっていく場合もあります。本来子どもがとるべき責任を奪ってしまいます。それは大人として生きるスキルを奪うことになります。
⑤ あきらめる。
家族会に来なくなる人も多いですが、唯一の話せる場、気づきの場を失うことになります。子供のことを根性のない子、弱い子と思いがちですが、どん底を何度も経験しても、生きようとしていることを忘れないでほしい。意志は強い、生きる力を持とうとしています。どこで何が変わるかわかりません。「うちの子だけは違う。」と考えないでください。病気の力が強すぎてクスリには負けてしまいますが、少しずつ手放せればいいと考えましょう。戻らないことが大事です。失敗したら、また話してもう一度始めればいいことです。
怖さはあります。それは死や世間などです。

そして、やってほしいこと
① 常に本人の病気のことや自分の共依存のことを勉強し続ける。
家族の病気と言われる依存症。問題のあるメンバーを中心にして合わせて生活をしてしまいます。本人だけが回復しても家族が勉強しないと元に戻ってしまいます。共にいない方がいい場合もあります。自分たちの問題を学ぶことが重要です。再発する病と認識していきましょう。
② おかしいと思ったらおかしいと言うようにする。
問題と感じたらやれることをやる。後で問題にならなかったらそれでよい。自分の勘を信じることです。
③ 手放そう。
距離を置くことは大切です。期待と理想を手放すことが、お互いが楽になれる大きな要因です。親は子に対して期待と理想を大きく持ちがちです。そしてがっかりする。がっかりされた子供はつらいです。コントロールできないものは手放すこと。口論や説教をしても何も変わらないです。
その気持ちを家族会で誰かに伝えましょう。問題は解決しないけれど話すことは手放すことになります。
④ 境界線を引こう。
自分が違和感を感じていながら許すのは、境界線がうまく引けていないということです。薄かったり、なかったり。暴言やお金をせびられても許してしまう。これだけはダメだというものがなく、相手が中心になっています。自分の芯を作りましょう。超えられてもまた線を引きましょう。
⑤ セルフケアを練習してください。
長年、依存症者に集中しているから自分のことを忘れています。意識して自分のケアをするようにしましょう。これまでダメージも大きかったはずなので、自分のために「何があっても○○をする。」と決めて無理にでもやってください。だんだん楽になっていくはずです。
⑥ 褒める。
本人も周りの家族も気にかけることが大切です。

兄弟姉妹のことが質問に上がりました。兄弟もダメージが大きいはずです。本来の家族内の役割を超えて抱えていることも多く、心が傷んでいます。依存症者に目が向いてばかりで愛情を向けられないことも多いです。うつ病になったり依存症になったりするケースもあります。まずは親が回復し元気になって本来の役割を果たせることが大切ではないでしょうか。
距離感を保つのは難しい場合もあります。心の準備も必要ですが慌てないで、できることを少しづつ行い、距離を保っていけると良いですね。

最後にショーン氏は、「希望は持っていてほしい。」とおっしゃっていました。

4月22日(土)横浜ひまわり家族会 家族研修会<依存症本人の回復>

講師:特定非営利活動法人 群馬ダルク 施設長 福島 ショーン氏 & 代表 平山 晶一氏

 ひまわり家族会ではもうお馴染み、群馬ダルクのプーさんとショーンさんのコンビによる研修会が行われました。今回も2回シリーズです。

 まずは1回目の研修の紹介です。

今回は依存症本人の回復プログラムのお話でした。

「自分たちはなぜ再発するのか。」

アメリカのプログラムですが、文化は違えど病気は同じです。アメリカでは家族もプログラムを受けることが義務となっています。容器を正しく知ってもらうことが大切で、クスリが止まればいいというものではないということです。

「リラプス」~再燃~ 

 以前は「スリップ」と表現していましたが、スリップはアクシデントの要素を感じる表現です。リラプスは決してアクシデントではなく、ずれはじめが必ずあります。

①   自分に対し、相手に対し嘘、言い訳が始まる。

 自分に対しても嘘がはじまり、自分に対する嘘はバレない、ごまかせる。自分で嘘を許し始めていく。

 自分で気づいていないわけではないのに、次もやってしまう。

②   感情が乱れること、ストレスを感じる状況が増える。

 嘘をつかないとやっていけない、嘘が自然になる、平気ではないからストレスが増え妄想になっていく。 罪悪感や負の感情が表れ、妄想的に相手を見るようになってしまう。自分に負い目があるから態度や目つきを疑っていく。

クスリを使用する3つの理由

・楽になるため。   ・ご褒美。   ・逃げる。

すぐに、ずっとクスリを使う。人間関係の楽しみを知らずに生きてきている。生きづらさを抱えている。敏感であり、苦境を乗り越えるツールがない。クスリを使うことが結果が速いので楽に思える。一瞬は楽になるが問題は解決していない。

③   いっぱいいっぱいになる。

 ほかの方法を知らない。これまではらりっていて、乗り越えたことがない。相談もできなかった。

④   否認、大丈夫なふりをする。

   自分がいっぱいになっていることを認められない。認めるのが怖い。かっこ悪い。恥と思う。クリーンが長い人のほうが認めにくい。「大丈夫?」と聞かれても、何がおかしいのかわからない。

⑤   助けを求めない。助けを求めなくなる。

 仲間の中でクスリを止める。止め続けていく。いるだけで助けを求めていることに繋がるが、はじめは助けをどう求めるのかわからない。いきなりクスリを止めるのは大変なこと。

ベースには恥の気持ちがある。日本特有の世間体が邪魔をする。家族で解決すべき問題。

⑥   孤立することが増える。

 使っている人は孤立していく。素面なのにそうなっていく。ひとりでいると病気が勝ち始める。病気とふたりでいる状況になってしまう。

⑦   希望をなくす。自分がかわいそうになる。

 いつの間にか孤立し、うまくいかなくなる。周りが見えなくなり自分がかわいそうになる。「あいつのせいで…」など責任を転嫁する。希望がないからクスリを使っていた。使っても楽じゃないのにそのほうがマシに思える。

⑧   ハイリスクな状況に戻る。

 危ない状況になっている。使っていた場所や街に戻る。使いたいわけではないけれど戻ってしまう。昼夜逆転になり誰にも連絡をしなくなる。トリガーからハイリスクへ変化している。感情が乱れ、怒りがわく。

⑨   欲求が出やすくなる。

 悪いことではない。自動回路になっているだけだが、対応できなくなる。ギャンブルや暴力、風俗に行くようになる。

⑩   自暴自棄、投げやり、有力

 使っちゃえという気分になる。有力とは、使えばどうにかなるという発想で一発逆転ができる気がする。

このような段階を踏んでリラプスが起こっていきます。どこかで修正できることもあります。

世間や家族にもこのリラプスについて知ってほしいです。このプロセスは家族にも当てはまります。期待と理想を抱えている以上、お互いにつらいといいます。親はついつい期待と理想を大きくしていきます。世間一般の姿を描き取り戻してほしいと考えてしまいます。依存症者本人は家族が思う大人にはなれないです。

期待と理想を手放すとお互いが楽になれます。生きていればいいと思ってくださいと。

ショーンさんが、「僕たちはママがいなくても生きていけます。危ない道に逸れても、回復の道を歩いても、どちらでも自分で歩いていけるよ。」と、家族に重要なメッセージを送ってくれました。

3月25日(土)横浜ひまわり家族会 家族研修会

講師:一般社団法人 相模原ダルク 理事長 田中 秀泰 氏

 今回の研修会は、相模原ダルクから施設長の田中氏とスタッフの渡邉氏をお招きして行われました。

 田中氏が薬物のことで困っていた15年前は今ほど多くの相談機関がなく、ダルクも6か所以上行ったが回復がうまくいかなかったといいます。現在はインターネットで検索すると依存症関連の書物は100冊以上あがってくるし、回復施設も多く存在しています。この状況は普通ではなく、社会が病んでいるのだと。
近藤氏が作ったダルクは一定期間の規則があり、回復していける人はそれを肯定でき前に進んでいけるけれど、疑問に思ってしまうとプログラムにのっていけないこともあります。
田中氏は横浜ダルクに行ったけれどもその時は合わず、別のところを転々とする状況になります。本人にとってその施設が合う・合わないは当然あることで、「いい」「わるい」は自分の考えに過ぎないことに後から気づくこともあります。転々とせざるをえなかった自身の経験が「いいダルクを創りたい」という思いになり、相模原ダルクを10年前に立ち上げました。田中氏の「いいダルク」への思いは、相模原ダルクのシステムに反映されています。「卒業のあるダルク」を掲げ、プログラムを立てています。入所したころは慣れることに重点を置き、そのあとは役割を負って人のサポートをするなど、社会性を育てることにも視点を置き、ダルク後を見据えてシステムを構築しています。ダルクは「クスリ」を止めるだけのものではなく社会に出るためのステップにしたいという思いがあります。
 薬物事犯防止の役割も3段階に分けて組まれています。第1次予防は一般の人向けの啓発活動。第2次予防は、依存症になる手前の人を対象に相談事業を行っています。本人の背景を探りながら本人に合った方法を見つけていくことに力を注ぎます。第3次予防は入寮事業です。完全入寮で回復を目指します。
 依存症の場合、本人だけが病気ではなく、取り巻く家族も病んでいます。それには家族自身も気づくことが難しいことが多いです。本人と家族や周りの社会を分けて考え治療していくことが重要になります。
 「人が変わるのには時間がかかる」ダルクを出たらスリップしてしまい、ほかのダルクに行くことを繰り返すのはよくあることで、田中氏も同じように繰り返しダルクを出たり入ったりしていました。沖縄の回復施設で出会ったポール氏の「12のステップ」に心を奪われ半年で学びました。ポール氏のステップに取り組むことと卒業のあるダルクを創りたいという思いを実現していきます。
 相模原ダルクでは、長期の離脱症状を克服することを重要視しています。これを知らずに勘違いをすると間違った治療に繋がってしまいます。わかっている人と繋がって回復を進めていくことが大切です。
 また、回復の文化についても話されました。相模原ダルクでは卒業式を行っています。仲間が考える卒業とは何か?元の世界に戻ることではなく、依存症の中で観に着けた文化を徹底的に見直し、そのすべてが変わったかを点検するそうです。クリーンタイムだけが卒業の基準ではないことを明言されていました。
 依存症に巻き込まれて苦しんだ家族はどうすればよいのか。親として自責の念に苦しむ人は多いです。しかし、火事を目の前にして、火事の原因を考える人はいないように、まずは薬物を止めることに力を注ぎます。原因探しはそのあとです。家族と協力していくことの意味は大きく、「家族の治療を受けてほしいという思いがプレッシャーになって治療を開始した。」「関わりの深い家族は行動に影響を与えることができる。」「プログラムでは家族をきわめて重要な協力者と考える。」「家族もまた助けを必要としている。」ことです。
 家族が必死になって回復への道を作ろうとしてもうまくいかないこともあります。ただし、「そうであっても家族は自分の人生をより幸せなものにすることができる。」ことを心に刻んでおきましょう。家族がやるべきことや、共依存、回復など多岐にわたるお話でした。
まずは洞穴に入ってしまった本人が穴から手を出すのを待つこと、そこから回復の道が始まります。

同じく相模原ダルクのスタッフの渡邊氏の体験談。
 「12年前は洞穴にいました。」という渡邊氏。13歳からクスリを使っていたとのことです。当時中学生で、特に不安もなく困った生活でもなかったといいます。仲間からの誘いを断れなかった、友人関係が崩れるというプレッシャーがあったそうです。クスリを使って楽しむ文化に身を置いていて、彼女も巻き込んでしまった、止めるきっかけはあったのに、止めなかった。問題があってもクスリに逃げて乗り越える生活をしていたとのことです。大学進学を機に環境をかえ一人暮らしを始め、しばらくはクスリを使わずに生活ができたけれど、また使う環境になっていきました。依存症であることに自覚はなく、生き方が変わったわけでもなく、使う生活になり悪循環になっていきます。ずっと前から自分の生き方には問題があったのに、気づかずに過ごしていたと後になってからわかったそうです。
 22歳で親に知られることになり介入されます。親に連れられて千葉ダルクに行きましたが、「自分は違う。」と馴染めず出てしまいます。しかし自分ではどうにもならなくなり、ダルクへと気持ちが向き始めました。
3年後、両親との関係を再構築し始めたときに、「なぜあの時、あの行動をとったのか?」と尋ねたそうです。両親が回復の支えになっていたこと、家族会に行ってくれたことに今は感謝していると明るい表情で話されていました。

2023年2月26日(日)第8回「薬物依存症者と家族オープンセミナー」

去る2月26日(日)にラポールシアターで「横浜ひまわり家族会・第8回オープンセミナー」薬物依存症は病気です。~家族が笑顔を取り戻すために~を開催いたしました。
基調講演に北里大学医学部精神科学助教授の朝倉崇文先生を講師にお招きしました。

 当事者の体験談は、横浜ダルクのスタッフ、ソウさんでした。
 「プログラムで自分の人生を振り返っても、仲間のようにトラウマがあったわけではなかった。ただ薬があった。一緒にクスリをやっていた友達は失敗すると薬を止めていったが自分にはそれができず、コントロールを失っていった。仕事もなにもかも破綻して失っていったが止められなかった。逮捕されて「クスリとの戦いが終わる。」と思ったがうまくはいかず、死ぬに死ねなくてあきらめていた。ダルクで「止めようとすることを止める。」と言われ、プログラムの中で仲間の支えを頼りに少しずつ正気を取り戻した。」そんな苦しい思いを話されました。「今、悪夢から解放されている。」と明るい表情で話されていました。
 家族の体験談は、ジュンさんでした。息子さんのストーリー、家族のストーリー、薬物の問題が発覚してからどんな思いで今日までやってきたのか、ご夫婦の思いが詰まった体験談でした。家族会での出会いや回復などのお話もありました。

 朝倉先生の基調講演は、「常識ではわからない依存症。わかることで回復できる。」~レッテルを貼られた人達との出会いで得た、依存症の本質~というテーマでのお話でした。

「依存症」あなたにとってのイメージはどんなものでしょうか。「だらしない人がなる。」「意志の弱い人。」「快楽に身を沈めた結果。」「悪い奴。」このような社会の偏見や差別により本人や家族にとっては恥ずべき問題となっているのが現状です。例えば著名人では、逮捕されてからも否定する場合が多かった時期がありました。しかし、近年は「依存症であること」を告白するようになってきました。アメリカでは先にカミングアウトをして栄光を手放し回復に向かおうとする人、さらには栄光を手にしたまま治療にあたり復帰する人も出てきています。日本でも2018年ころより依存症治療を告白する人が出てきました。
 依存症の歴史としては、アメリカの禁酒法時代より前に社会問題として注目されており、規則や刑罰の強化をしてきました。それでもうまくいかず、飲む人は減らないことに反社会組織が目をつけ闇で売ることに。このころから病気としての認識も存在していました。道徳的・宗教的なアプローチも失敗しましたが自助グループの広がりで治療に成功するようになっていきます。心理学の発達も相まって一定の効果を上げていくようになりました。今現在は、断酒断薬ができない人でも生きられるようにという考え方も出てきています。ハームリダクション政策で問題を減らしていくという立場で治療にあたっていきます。社会的孤立や生活困窮・心理的安全性など背景の社会問題の支援をし、ライフスキル教育によって使わなくても生きていける、使わなければならない人を減らす政策に切り替えようという動きが出てきています。
 何年か前から言われている「依存症の自己治療仮説」というものがあります。不快な感情を緩和・逃れるために薬物を使う行動をとるというもので、一時的であれ手軽に確実に様々な問題から逃れることができます。他人に助けを求めると裏切られることもありますが、クスリは必ず効果があります。そのように感じている人が薬物使用を止めるには安心できる場・居場所・充足感などが重要です。ライフスタイルを変えないまま薬物だけを止めようとする人は多いようですが、それだけでは問題を解決することは難しいです。
 「ちゃんと生きたい気持ち」を持っている依存症者が、「ちゃんとできない現実。」にぶつかっても生きていけるように支援をしていくこと、問題解決において大切なことを認識できるように支援をすることが大切です。そのために、本人にとって「本当に困ること」「何とかなること」を区別することが必要になります。治療するには戦略を立てる必要があります。本人の意志の強さに頼るのは危険で無策の場合が多いようです。不安要素を分析し戦略を立て、その一つとして自助グループや病院が存在します。依存症になる人の特徴として「自分に自信がない。」「人を信じられない。」「本音を言えない。」「見捨てられる不安が強い。」「孤独で寂しい。」「自分を大切にできない。」などが挙げられます。支援者はまず本人の目の前にいる自分が彼らを受け入れること、それが彼らの最初の救いになります。
 家族は起きている問題を整理し誰かに相談すること。自分も疲弊しているのでケアをすること。家族教室や自助グループに通い背中を見せること、情報を集めること、治療者になる必要はないこと、依存症の課題と自分の課題を分けて考えることを実践できるとよいでしょう。家族の自助グループの役割は、「分かち合い孤独を解消すること。」「希望を見出すこと。」「陥りやすい失敗を知り振り返ること。」「新しい生き方をすること。」「自分の課題と家族の課題を分けて取り組むこと。」などです。

平安の祈りのなかの、「変えられるものは変えていく勇気、変えられないものを受け入れる落ち着きを、そして二つを見分ける賢さを」これにつきるということでしょうか。

Q&Aはセッションは、朝倉先生、横浜ダルクの施設長山田氏、スタッフのソウ氏、一般社団法人HOPEの栗栖氏、家族会のジュン氏、ファシリテーターの片山氏で行われました。

会場から、「本人との距離の取り方」の質問には、事情によっても違うけれど、ダルクからは「困らせたいわけではない。支えとして家族に一緒にやってもらいたいこともあるが、親は親の生活を大切にし、危険のないようにしてほしい。」「過保護になりがちだが誰のための行動なのか、自分が安心したいから構いたいのか考える。正解はわからない。」などのお話がありました。朝倉先生からは「家族は問題を分けるのが難しい。できないなら離れるほうが良い。困るところを見せてもよい。それがきっかけで本人が変わることもある。家族は自分が死ぬまでに何とかしたいと思うが、急ぐ原因になるのでその考えを捨てるとよい。死んでから変わってもよいのではないか。人はいつか変わると信じること。」などのご意見でした。
最後に会場から当事者の手が挙がりました。言葉に詰まりながらもやっと心の叫びを発してくれた男性。「ドラッグに逃げた自分。自分にしかわからないことがある。人のせいにしたくないが、家族への不満、意見の食い違い、両親の【ものさし】に合わなかった。母の変化を感じ自分も言えるようになってきた。親の一歩と自分の一歩は違うが進んでいきたい気持ちがある。みんなが同じではないが少しずつ進んでいることを認めてほしい。」心の叫びともとれる大切な発言でした。朝倉先生からは、「時間をかけて世代間連鎖を切るように努力してほしい。」と言葉がかけられました。

1月28日(土)横浜ひまわり家族会 家族研修会

講師:一般社団法人「カハナ」所長 高橋 仁氏と、NPO法人アパリ 理事 高橋 洋平弁護士

 今回の研修会は、一般社団法人「カハナ」の所長 高橋 仁氏と、NPO法人アパリ理事の高橋 洋平弁護士のおふたかたをお招きして行われました。
 まずは、「カハナ」の所長である高橋 仁氏の体験談でした。
仁氏は中学時代からシンナーを使い、15~16歳で覚せい剤を使い始めたそうです。幼少期から教育に厳しい家庭で、そのころの記憶といえばたたかれることが多く、「なぜ俺ばかり?」と思ってきたこと、謝れずにいたことを思い出すとのこと。父との関わりは薄くあまり話さない父がどういう人なのかわからなかったとも。何をしても「ダメ」と言われるばかりで、そのうち自分のことを話さなくなっていったそうです。自分がやった悪いことを認めず、親に怒られると、ばれないようにしていく。幼少期から身についたことは、大人になってもあまり変わらなかったそうです。中学時代は先輩とたばこやシンナーを使い、マイナスの情報もなかったため楽しく使っていたとのことです。高校は「とにかく卒業したほうがよい」と言われ通ったが、そこで「夜回り先生」の水谷修氏に出会ったそうです。水谷氏だけは寄り添ってくれましたが、1年生の途中で退学してシンナーを使う生活にはまり込んでいきます。シンナーを止めたのは、覚醒剤を使ったから。「シャブをやったらおしまいだ。」と思っていたけど、スパーンと抜ける感じがたまらなく、においもしないしばれないと思ったそうです。楽しむために使っていた覚せい剤がいつの間にか「生きるため」の物に変わっていき、止められなくなっていきます。「最後の一回」を何度も打っては後悔する日々。母にはダルクや病院・警察のなかからどこかに行くように迫られたりもしていました。そんな中、周りを黙らせたくて一か月の入院をしました。その時も自分ではなく「医者が何とかしてくれる」「退院したら欲求がなくなるんだろ?」と問題に向き合おうとはしなかったと。そんな時、メッセージ活動で出会った「ダルク」の印象が強烈だったといいます。「ハグ?」「宗教?」これは何なんだ。母に食って掛かっても言い合いにもならず、外堀が埋められていく感じがしたそうです。入院時に知り合った人が横浜ダルクにいたので相談に行ってみたらNAを勧められ、参加したものの自分のことを話すのに慣れておらず、一回のみの参加になりました。母が持ってきた現藤岡ダルクのパンフレットを見て入ることになりましたが、半年は慣れず飛び出しては薬物を使ってしまっていたとのこと。しかしだんだんと仲間の話が自然に自分の中に入るようになって考え方が変わっていったといいます。クリーン1年目が一番正直に生きていたように思うそうです。
 母が自分の薬物問題で苦しんでいたことは、幼少期の恨みもあり、「ざまあみろ」と思う時期もあったけど、今になって母の気持ちがわかることもある。母は現在、自分自身の生き方のために家族会で勉強をしていると話されていました。21年間、薬物を止められているのは仲間がいて居場所があって寂しくないからだとのこと。
近藤氏が生前に作ってくれたいろいろなものが繋がって今があると感慨深く話されていました。

 研修会の後半は、高橋弁護士のお話です。


「新しい弁護活動~更生と回復を目指して」というテーマでした。高橋弁護士は、弁護士になりたての頃奥田弁護士と出会い、薬物事犯に関わるようになりました。そしてダルクとのつながりが始まり、今はアパリの理事をされています。自分が弁護した人がダルクに入寮していると次に弁護した人もダルクにつなげやすいというメリットがあり、なにより回復していく姿を見ていけるのがやりがいに繋がっているといいます。ダルク後の関わりをつなげていけるネットワークが機能していくと、もっと生きやすい社会になるのではないかと考えているそうです。いろいろなダルクを見る機会が多い高橋弁護士ですが、回復の道のりの難しさは感じざるをえないとも。家族は薬物依存症の本人を何とかしようと必死になりますが、正解がなんなのかわからないときもあります。回復や治療の情報はインターネットでも収集できますが、それではやはり限界があります。相談先はあっても弁護士事務所には生きにくさがあります。だから依存症家族会に出向いて知ってもらうことを大切に考えて活動をされています。
 違法薬物事犯での逮捕から、どう本人の人生を考えていくのかが弁護のカギとなると考えているそうです。
「私はやっていない」と主張する場合、その後の人生で社会人として生活できるのか。その時だけは確かに薬物を使用していないかもしれない、しかし本当はずっと使用している。無罪を勝ち取ることがリハビリを受けなくてよい理由になってしまい、チャンスを逃さないか。本人が新しい生き方を学び自立していけるのか。借金など抱えている問題を自分で解決できるようになるまで長期の人生プランを立てていくことが必要だとのこと。裁判では家族の役割も重要な位置づけにあります。前科がつくことを嫌がる家族が多いですが、本人が目指すべき姿を共に考えていけるようにしていくそうです。
 出会いで人は変わっていけます。弁護士として本人の回復プランを立てていきますが、弁護士だけで何かを変えることは難しいですが、変えていくきっかけを作ることは可能だと、日々の弁護に尽力されています。最近はダルクの入寮を説得することはせず、「楽しそう。すごい。」と思ってもらえればよいと考え、ダルクの魅力を伝えていけるようにしているそうです。
 薬物事件で逮捕されていなくても、本人が抱える法的問題を中心に回復支援をサポートしてくださいます。
まずは相談ですね。

11月27日(日)横浜ひまわり家族会 2022秋の公開講座②

<依存症と家族の回復について>

講師:原宿カウンセリングセンター 臨床心理士 高橋 郁絵先生と国立精神神経医療センター 近藤 あゆみ先生。
ゲスト:湘南ダルク・ケア・センター 施設長 栗栖 次郎氏
 
 今回の公開講座は、原宿カウンセリングセンターの臨床心理士・高橋 郁絵先生と国立精神神経医療センターの近藤あゆみ先生に起こしいただきました。
 去年の公開講座のテーマ「楽になるってどんなこと?Part2」~家族と当事者を楽にするためにするちょっとしたコツ~のお話をしていただきました。
 10年ほど前までは、依存症の問題が起こったときには「手を離しましょう。本人の問題は本人に。あなたが楽になりましょう。」という考え方で解決に結びつけていこうとするやり方が主流でした。その後いろいろな研究が進んでいく中で「かかわっていこう」という考え方に変わってきています。「知識を持ちましょう。本人とよいコミュニケーションを持ちましょう。相談を続けましょう。」などのかかわり方です。本人を助けることと、私たちの人生を大切にすることの両方をうまく工夫しながら両立しましょうというとらえ方に変化してきています。
 一口に対応を変える、工夫する、などといっても巻き込まれて混乱している家族には、見えなくなっていることも多いのが現実です。
家族はなぜこんなにしんどくなるのか?まず無理をしていること。眠れなくなること、体が悲鳴を上げているのにそのしんどさを手放せないこと、依存症本人の回復の正解がわからないこと、ほかの家族との関係が壊れてしまうこと。そして一番の苦しみは、うまく育ててあげられなかった、解決してあげられなかったという自責の念でしょうか。
話し方のエクササイズも交え、コミュニケーションの変化についても学びがありました。たとえて言うなら童話「北風と太陽」のような対応の違いでしょうか。圧力をかけて脅してもかたくなになるばかりで、逆に依存症者本人が語れるように会話を進めていく方法などロールプレイをしながら学びました。「人が変われない理由は、変わらなければならない理由についての理解不足で、変わるための具体的な方法を知らないから」と考えて話すのか、または「変化を動機づける有効な方法は、本人に気がかりを自ら話すように促して、その気がかりと共有して確認していくこと」と考えて対応するのか?なかなか変わらないときの心理状態や、変わる用意がない時にいくら説得を試みても無駄になることなど丁寧なお話がありました。
「決めるのは本人。」一見回り道のようで、家族としては不安を感じずにはいられない対応ですが、実は待っている間に本人が自分のこととして考えることで自律性が生まれてきます。「自分の人生のことを自分で決める=自律性の尊重」最終的に決めるのは本人だということを家族である私たちが意識できるかどうかにより変化が起こってくると思います。関わりを通して本人の決断に影響を与えることは可能です。本人の言葉を確かめ、本人の強みや努力を認めて伝えていくことで回復に前向きな言葉が生まれてくるのではないでしょうか。
混乱に巻き込まれた家族が気を付けなければいけないのは、本人との境界線をはるかに超えてしまってさらに混乱していく状況になることです。どこに境界線を引くのかを考えること、またそれを超えて話したいときには同意を得ることなど相手を尊重する姿勢を身に着けていきたいものです。アドバイスをしたいときにも依存症者本人に許可を得ると少しはスムーズにいくかもしれません。本人が混乱して暴力があるときには、「逃げる」ことを最優先することも大切です。
「毎日は小さな選択の連続。ひとつの選択が一歩先を照らしてくれる。小さい選択を繰り返すことで道が作られる。」
恐れず、少しの勇気をもって一歩を踏み出せるようになりたいですね。
高橋先生、近藤先生、湘南ダルクの栗栖さんも加わって、参加者の質問に丁寧に答えてくださり、公開講座は終了となりました。