8月25日(日) 第8回「薬物依存症者と家族フォーラム」

基調講演 / 筑波大学医学医療系 准教授 森田 展彰 先生

テーマ/「当事者、家族、援助者の対話的な働きかけによるアディクションへの対応」

オープンダイアローグ(開かれた対話)

横浜ひまわり家族会のフォーラムも8回目を迎えました今回も家族の体験談、当事者の体験談、専門家による基調講演など多様なプログラムで開催しました。

まずは、家族の体験談です。横浜ひまわり家族会のつむぎさんのお話でした。幼少期から思春期を過ごす中での息子さんの変化やそれに伴う親の心情を丁寧に伝えてくださいました。施設などからいなくなることもあり、胸が張り裂けそうな家族の様子が切々と伝わってきました。出口のないトンネルに迷い込んだような気持ちで自分たちだけで抱え込んでいたけれど、家族会につながったことで人とつながり始め、自分たちが回復していったと結んでいました。

依存症当事者の体験談は湘南ダルクの女性スタッフの愛さんです。他剤を使用しオーバードーズを繰り返していたといいます。父はアルコール依存症者で家の中で飲んでは暴れていたそうです。母は明るいけれど愛さんの気持ちを汲み取ろうとすることがなく、傷つくことをたくさん言われたとのことです。中2でいじめにあい転校。家族には傷つけられそうで「助けてほしい」と言えなかったのだそうです。また父から受けた暴力の影響で傷つき癒されないまま大人になっていきました。20歳の時にうつ病になり通院しましたが母はついてきてくれず、また傷ついていきます。自分が「クスリ」をやめられないのはなぜだろうと思いながら進む日々。当時はスマホなども普及しておらず調べることもできなかったといいます。入院先の主治医が話をよく聞いてくれて方向が変わっていったようです。施設に入寮して両親と距離をとったことが本人にとってはよかったとのことです。自分は自分のつらさを自分で引き受け、仲間と分かち合って回復してきたとのこと。今はスタッフをして仲間の回復に奔走している、多様性を認められる施設を運営していきたいと展望を話してくれました。



基調講演は筑波大学医学医療系准教授であられる森田展彰先生の「当事者、家族、援助者の対話的な働きかけによるアディクションへの対応」と題したお話でした。近年、アディクションが多様化してネット依存やゲーム障害や市販薬、処方薬の依存が問題となっています。未成年や引きこもり問題の当事者も多く、こうした場合に家族は距離をとること以上に安心できる対話的な関係をもつことが重要だそうです。

依存症は、心の中に「安心感」がなくなり外側のなにかの刺激に夢中になることで乗り切ろうとすることで、誰でもなりうる不安解消方法のよくないパターンです。

オープンダイアローグ(開かれた対話)を使うことによって関係性を保ち困ったときに話せるようにしていくことが依存症の現場では重要になります。 当事者や家族はしがみついている「依存症の輪」から一旦手を離すことが大事です。家族の対応がどのように影響するのか。依存症初期の対応では、話すことにより初期のチャンスを増やすことができます。家族は自分が支えてもらえることも大切で、家族会などに繋がりながら対応するのがよいとのことです。重度で慢性の依存症がある場合は、家族と当事者を離す方法が必要な時もあります。それぞれが支援を受け境界線を引きなおす作業をします。距離をとることはその後の境界線のある相互尊重的なやり取り

に繋がります。未成年の依存症者と家族への予防的援助では離れてしまう方法ではなく、同居しながらよい関係を目指す方がよいようです。

ゲーム障害やネット依存症における家族機能の問題として肯定的な家族関係・親子関係の3つの基本的な心理的欲求(①自律の欲求②関連性の欲求③自分の能力を発揮する欲求)がありますが、それらが関わりの中で過干渉や支配的、過保護により依存的になってしまいがちだということになります。その欲求が不足しているとゲーム障害リスクを高めていくようです。ケアの提供として①暖かさの提供②ニーズへの反応③共有されたポジティブな感情の育成が挙げられます。家族は否定するのではなく、ゲームの情報をうまく手に入れて共感する部分を作っていくことも必要になります。


今回の講演の中で、家族会のメンバーがロールプレイをしました。母役、息子役、学校の養護教諭役、カウンセラー役になってゲーム依存の問題をお互いが聴いている中で意見を伝えあうものでした。

未成年の依存症に対する予防的な介入では家族と当事者の関係を幅広く風通しのよいものにしていくことがカギになります。

渦中にいると混乱して、当事者を責めてしまうことが多くなりますが、専門家を交えて開かれた対話をしていくことが依存症治療の入り口に立つ第一歩になっていくと感じました。



Q&Aセッションでは、ロールプレイがわかりやすかったという感想や、当事者が専門家同士の話を聞くことが果たしてよいのかどうかという質問が寄せられました。当事者の愛さんは専門家が自分の前で話してくれることによって裏を読まなくていいので気持ちが楽だったと話されていました。

2024年4月27日(土)横浜ひまわり家族会研修会

講師/群馬ダルク施設長 福島 ショーン氏・代表 平山 晶一

 今回は、群馬ダルクから ショーンさんと平山さんにお越しいただいて研修会を行いました。

現在、群馬ダルクは利用者が増加しているとのことです。刑務所の薬物事犯の受刑者は減少傾向のようですが、大麻の問題が表面化しているといいます。海外では大麻は合法の国もありますが、依存症者にとってはやはり危険な薬です。薬の使用を止めてもハッピーになれるわけではなく、現実と向き合うことになるので苦しいのだそうです。

 今回はアメリカのプログラムの紹介です。アメリカは薬物の問題が多いので知識も蓄積されています。

「共依存を乗り越えるコツ」と題してのお話でした。

「共依存」とは、簡単に言うと「よかれと思って要らないことをしてしまい依存症が悪化してしまう」ことです。

「依存症は家族の病」と言われることが多いです。家族の中心のひと…この人に気遣いをして生きていかないといけない気持ちになり、その行為の中でお互いがコントロールをしあう関係になっていることと言えます。

①   自分に正直、本人に正直

自分に正直なることとは…やりたくないと思ったことはやらない。自分の気持ちをごまかさない。

依存症本人に「ダメ。イヤ。」と言えない親は多いです。ダメとわかっていても「今回だけ」「うちの子に限って」「そのうちよくなる」など自分に言い訳をしてやってしまう。「世間が…、みんなが…」などと言い、自分の意見として伝えないなども、正直になれていないと考えます。不正直はよくないとわかっていてもやってしまい、コントロール不能になっていきます。その気持ちの後ろには「罪悪感」を抱えています。「ダメ」を伝えていくことで依存症本人が親をだます方法が無くなっていきます。

②   ネガティブな考えを避けましょう。

依存症の問題はネガティブなことがたくさん起こります。回復に向かっていても起こります。その中で浸ったり絶望しないでいることが大切です。一人にならないことが大きいです。少し前向きに考えることで可能性が増えることもあります。家族が前向きになっていると依存症本人も見て感じています。逆に家族が弱っていると依存症本人は「丸め込める、コントロールできる」と思い行動します。家族はプラスな自分を作りあげていくことが大切です。

③   セルフケアの練習をしましょう。

家族会に参加することも○です。自分が元気になることが本人にも影響します。問題がなかったころの趣味をすることや、新しいチャレンジをすることもセルフケアに当たります。自分が元気でいると新しいアイディアが浮かんだり、よい決断や解決策に繋がります。

④   境界線を引く。

何が境界線か?本人がぐちゃぐちゃな時には境界線も引けない状況になります。引き方がわからない場合も多いです。自分で境界線を引こうとするとうまくいかないときも多いので、先行く仲間や施設のスタッフに相談するとよいでしょう。「NO」と周りの人に言う練習も大切です。心の中で「NO」と思っていても言えないのは共依存の考え方です。

⑤   手放す・ほどく・イネイブリングしない。

「イネイブリング」とは、薬物を使う手助けをしている(結果的にそうなる)ことを指します。本人がしなければいけない経験を奪ってしまいます。借金は家族が返す必要がないものですが、理由を探して返してしまう場合が多いです。手放さないと本人が変わる必要が無くなります。

「ほどく」とは、いろんな問題がこんがらがっている状態を、誰の問題なのかを考えます。専門家の手を借りることもあります。周りに協力を求めることも大切になります。

⑥   人生をかけて本人に必要以上に優しくしてきました。これからは自分に、仲間に優しくしましょう。

セルフケア・手放す・境界線などやることはやってきました。本人が変わるのは時間がかかります。まずは自分を大切にしてください。

何かをしたい人は、仲間に優しくする、自分の経験を話す、新しい仲間に自分の姿を見せることもできます。

新しい仲間が自分の過去の姿を思い起こさせ、その人たちをサポートすることは自分のためになります。
親としての責任は、子どもたちを自立させることです。必要以上に優しくすると親が死んだあとはどうするのか?自立することを望むのであれば、やるべきことは見えてくるでしょう。

 Q&Aでは、施設入寮時の金銭管理の問題などの質問がありました。

群馬ダルクでは階級制を取り入れており、頑張れば階級があがっていきます。社会構造を利用し、回復へのモチベーションを保つようにしています。借金は禁止されていることなどを説明されました。

また、境界線を引くことについての質問もありました。

実行しないことを本人に伝えるのは、効果がないばかりかますます関係が悪くなります。

言ったことは実行する、できないことは言わないことが重要です。

自分がやることは言葉にして伝えることが大切です。喧嘩ではなく、正直に言うこと。

そして家族会などで勉強したことは実践していきましょう。

いつものショーンさんと平山さんの軽妙なかけあいの中、重要なワードがたくさんちりばめられていました。

「学んだことは実践」「自分に優しく」これにつきますね。