講師:横浜ダルク副理事長・弁護士 千木良 正 先生 「覚せい剤に関わる法律問題について」 今回は、横浜ダルクの副理事長であられる千木良弁護士を講師にお招きしました。千木良氏はカトリック教会を支援していた縁で2007年からダルクと関わりが始まりました。社会福祉士でもあり多角的な見方で、依存症の問題に取り組まれています。 まずは、刑事事件としての問題について話されました。 1 覚せい剤で逮捕されたら、まずは弁護士を呼ぶことですが、弁護士にもいろいろな制度があります。 ① 当番弁護士制度(私選弁護人選任申出制度) 弁護士会の当番弁護士に裁判所などを通じて接見要請の依頼を受けた時には、前もって当番弁護士の希望者を募って作成しているリストに従って弁護士が派遣されます。家族や知人も胃ライン電話をかけることができます。逮捕者に知的障害や発達障害がある場合には、障害胃に配慮することができる弁護士を派遣されています。 ② 私選弁護人の選任 弁護士との契約により委任。 弁護士費用については各弁護士との個別契約によります。 ③ 被疑者国選制度 被疑者が勾留されており勾留された被疑者の経済状況により弁護士費用を負担することが難しい場合に本人の請求等により裁判官が弁護人を選任する制度です。 ④ 被告人弁護人制度 起訴された被告人の経済状況等により弁護士費用を腐乱することが難しい場合に本人の請求等により、裁判所等が弁護人を選任する制度です。 2 起訴前の刑事弁護 ① 弁護内容…被疑者に対して弁護の方針を助言、対応をするものです。捜査が適正に行われているかをチェックすることも大切な役割です。 ② 接見禁止 接見禁止を解除を求めるか決めます。 ③ 刑事弁護人の留意点 被疑者の中には罪を免れたいがゆえに虚偽やごまかしの弁解を重ねるものが少なくないので弁解の信用性を十分に吟味する必要があります。 3 起訴後の刑事弁護 ① 保釈申請 保釈が許可される条件 ・犯行を自白していること。 ・前科・前歴(とりわけ覚せい剤事件)がないこと。 ・覚せい剤や注射器等の用具が押収されていること。 ・入手経路があきらかとなっており他に譲渡していない事。 ・身元引受人がしっかりしており、覚せい剤関係者との接触を断つことが期待できること。 ・暴力団関係者・実刑が確実視される覚せい剤の常習者は保釈が許可されにくい。 ・保釈金は150万円前後が多い。 ② 情状弁護 ・覚せい剤の入手経路と仲間をすべて明らかにすること。 ・覚せい剤を使用してしまったときの心境を明らかにすること ・生活環境を改善できるか。 ・親族の協力を得られるか。 ・病院への入通院や薬物依存者の回復支援団体への参加。 ・しょく罪寄付(被害者支援団体への寄付など) ③ 裁判が終了したあとするか否かを判断するまで。(私選弁護人は控訴審を担当することもある)判決確定後のケアについては基本的には関わらない。弁護士はダルクを知っている人が少ない状況です。発達障害なども理解している人は少ないようです。 4 判決 ① 初犯…懲役1年6か月 執行猶予3年 ② 再度の執行猶予…覚せい剤で再犯者に言い渡される刑が1年以下になるこてゃほぼない。 ③ 実刑後の再犯…7年~10年程度あいていると執行猶予付きの判決の見込みは高くなる。 5 身柄について ・執行猶予判決の場合…勾留中であっても判決当日に身柄を釈放されそのまま帰宅できる。 ・実刑判決の場合…起訴時に勾留されていなかった場合は、判決が確定するまでは収監されることはない。保釈中であった場合は、実刑判決の言い渡しにより保釈は失効する。判決直後に検察庁の職員が身柄を拘束・収監される。 ・仮釈放…実刑に処せられて刑務所に勾留されている受刑者について、改悛の情がある場合に、一定の刑期を経過した後、行政官庁の処分によって仮に釈放できるとする制度。期間満了までは保護観察に付する。 ・一部執行猶予制度…刑期の一部である懲役6か月を2年間の執行猶予としその猶予期間中、被告人を保護観察に処する。犯情の軽重や犯人の境遇その他の情状を考慮して社会内において規制薬物等に対する依存の改善に資する処遇を実施することが再び犯罪をすることを防ぐために必要であり、かつ相当であると認められること。 次に、民事事件としての問題については以下のことを丁寧に説明してくださいました。 1 借金の問題 ① 自己破産…裁判所の手続きにより、債務の全額を面積させる手続き。 ② 個人再生…一定の金額を分割で支払うことにより、残額を免除してもらう。浪費などの事情があっても利用は可能。 ③ 任意整理…債務者との間で分割弁済の和解をすることで借金の整理を行う。生活保護受給者中は、任意整理をして返済することは認められていない。 借金問題は、治療施設に入る前の生活の中で起こっていることが多い。借金の消滅時効などもあるので、専門家に相談することが賢明です。 そして、他害行為についての家族の責任として 1 精神障害者の責任能力が否定された場合 ・その場合は原則として、その者は損害賠償義務を負わない。 2 責任能力がない場合でも民事上の責任を負う場合 ・例外として故意または過失によって一時的にその状態を招いたときは、この限りではない。例として、違法薬物を使用して第3者に損害を与えると予見できた場合などはこれにあたる。 3 家族に責任はあるのか? ・責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負うものはその責任無能力者が第3者に加えた損害を賠償する責任を負う。 ・精神障害者の家族は監督義務者なのか?…判断は事例によって異なる判断が必要であるので専門家に相談した方がよいようです。 借金暴力事件など家族の責任についても丁寧に事例を挙げながら解説してくださいました。 一筋縄ではいかないことも多いので、困ったらダルクのスタッフや弁護士などに助言を仰ぎ、落ち着いて対処するのが一番良いように感じました。 質問の場面では、それぞれの家族が抱えている借金などの問題を尋ね、わかりやすい回答を得ることができました。 ダルクにつなげようと弁護士が頑張っても本人にその気持ちがなければ繋がりにくい。執行猶予になることを本人も保護者も知っているとなおさら切迫感がなく、回復にはつながらないと感じているそうです。 弁護士ももっと依存症に関する知識を持っていてほしいと切に感じているそうです。