8月27日(日)第7回「薬物依存症者と家族フォーラム」

テーマ:薬物依存症は「病気」です。〜家族が笑顔を取り戻すために〜

いっしょに考えよう!生きづらさのこと

 この夏、7回目の横浜ひまわり家族会フォーラムを開催しました。

基調講演の講師に、一般財団法人信貴山病院 ハートランドしぎさん 臨床教育センター長の長(ちょう)徹二先生をお招きし、依存症者本人体験談、家族の体験談などを織り交ぜて行われました。

今回もハイブリット方式で会場とオンライン参加者とが一体となり問題の共有ができました。

 まずは家族の体験談でした。登壇者は息子さんの薬物の問題を抱えているターボーさんのお話です。

現在26歳の息子さんは、市販の睡眠薬を6~7年前から服用しており、行動などの問題を抱えています。

おかあさんへの暴言がエスカレートしていき今はお母さんが自宅を離れて生活しています。病院などに行っても長続きせず、時々派遣の仕事をしながら自宅で暮らしているそうです。

ご夫婦で昨年12月から家族会に参加するようになり、本人への対応などを学んでいるところです。家族が心安らかにいられるように今後も家族会に参加していきたいとのことです。

 そして依存症当時者のたくさん。

11年前にダルクに繋がって今は横浜ダルクのスタッフをされています。

薬物は12歳に時に始まったと言います。家庭は一般的で両親と兄と暮らしていました。朝、なかなか自分で起きられず蹴とばされることがあったそうです。他の家族を知らないから、それが変わっていることだとは思っていなかったといいます。学校では目立ちたがりで中心にいたいという気持ちが強かったようです。小学校5年生くらいから先輩と過ごすことが多く、たばこも覚えていきました。それがエスカレートしてアルコールやガスなどを使用するようになっていったようです。

若くして結婚し、子どもが産まれても薬物を止めることはなかったけれど、妻からはやめてほしいと言われ続けていたそうです。口では止めるというけれど、特にやる気もなく続けていたら、だんだん生活がままならなくなってきました。ダルクのデイケアに通いながら、とりあえずしばらく我慢すればなんとかなると思いながら通っていたといいます。それではうまくいかず再使用を繰り返し、山梨ダルクに行くことになって初めて薬物の問題と向き合い始めたそうです。「しらふ」で社会で生きるのはとても大変、自分が一番楽に生きる方法はダルクでスタッフになることだと思ったそうです。クリーン11年、スタッフの仕事も8年続いているし、回復後に出会った仲間に助けられて今がある、与えられたものも多いと感じていると話されていました。

 そしてハートランドしぎさん 臨床教育センター長の長先生の基調講演です。「きょうどうする」をテーマに軽快に話をしてくださいました。

近年の薬物依存症の治療論が「ただ止めるだけ」ではなくなり、個々に抱えている[生きづらさ]に目が向くようになり、支援する側、家族にはさらに負担が増えてきていることを踏まえて、一緒にできることを探しましょう。大きな岩は動かせないけれど小さな石にすれば運ぶことはできます。というメッセージを届けてくださいました。

効果(快感)を発揮するものを求める。しかしそれは便利で快感の多いものは脳機能を刺激し、より強い興奮が生じるようになる。だがコントロールが効かなくなる。これを「依存性」と表現します。 

治療の場面では医師が外から依存症患者を診て判断することが多いです。しかし、支援者や治療者が診てるものと、家族が見てるもの、患者自身が観ているものどう違うのか?支援者が考える「今日一日」と本人が考える「今日一日」では、重みが全く違うと気づくまでに時間がかかったそうです。問題が起きてないときもあれば、たまたま起きてしまう時もある。なのにコントロール障害と言われたくない。何回かに一回の失敗を責め立てられるのはつらいと言います。元来、話すことや本音を言うことが苦手で人との関係が作れない人が、依存症者には多く観られる傾向です。臨床においてのターニングポイントは本音が放せる関係性を作ることが何より重要だと治療現場にいて実感されたそうです。問題は物質関連だけではなく、見えにくい水面下にある、そう考えて取り組んでいます。表現が下手な人は、初めから「近寄ってくるな」というオーラを醸し出したり、「大丈夫」と調子を合わせたりする人が多く見られます。そうすれば短い時間の関わりだけで済むから、本人としては楽だからです。信頼する人がいないから物質に頼って対処することになっていきます。逆境体験を持っている人も多く、心の傷を話せずにいる場合も多くあります。どのように信頼関係を築くのかが治療のポイントになります。

本当の問題は物質使用ではなく、ほかの何かを抱えています。物質使用がないと生きられなかった、死んでいた。そんな状況を考えていかなければ治療のスタートに一緒には立てないように思います。

体験談を聴いたり話したりすることは、理解を助けるうえで重要なものであります。

 依存症者との関わりを持つ家族や支援者にも大切なことは、自分の感情に気づいてケアをすることです。自分が元気でこそ依存症者の支援に立ち向かえます。家族や支援者は車の助手席に乗っているイメージで時々手伝うくらいが良い距離間でしょうか。しかし、当事者の近くにいる家族はそう簡単にいかないのが常です。「わかっているけど、正しいかもしれないけど、そんなんできるかい!(できないよ)」

 長先生は家族支援の際に、正論だらけの勉強会や、スタッフレベルの対応を家族に伝えていました。それは大きな失敗だったと話されていました。「わしら、なんにもわかってなかった。」その後、思い切って路線を変えていったそうです。自分にご褒美をあげて次への活力にすることは効果があります。家族はじぶんができること、当事者がしなければならないことを分けて考えていくことが大切です。うつや落ち込みには悪循環があります。逆に健康行動には好循環があります。ストレスに気づいたら自分をいたわってご褒美をあげることが好循環への道です。ただセルフケアといっても、自分一人では難しいことも多いです。家族会の仲間の存在が重要になります。話せる場を持つことが大きな力になります。

 患者さんとの治療場面でも、客観的に自分を見ることができるように支援します。一緒に見る機会を増やすことが大切です。

すべてのかかわりの基本は ①まずは受け止め ②安心できてから少し対話 ③余裕があれば協働作業。共通の島に着地するイメージです。当事者にとって一番の安心はせめられないこと、そしてかかわる工夫があること、話やすいことです。医師といえども教えてもらう気持ちを持つと、関わりが変化していくようです。

協働作業は、一緒に地図を見るイメージ、細かくチューニングをするイメージなどです。家族も少しずつ行動を変えていけるといいですね。

「きょうどうする」は「協働する」「共同する」「今日どうする?」あなたはどう読みますか?

 Q&Aセッションは、長先生、横浜ダルク施設長・山田氏、HOPE施設長・栗栖氏、当事者のたくさん。そしてファシリテーターとして国立精神・神経医療研究センターの片山氏を交えて、質問に応えていただきました。

家族関係や、回復に向かうターニングポイントなど興味深いお話が聞けました。たくさんから、「薬物を再び使いたいとは思はないけど、やめたいかと言われると、わからない。やめたいというより、変えていきたいと思った。」と語ったのが印象的でした。

長先生の「家族としてお互い気遣いながら生きている。そもそも違う個体が暮らしいるのに、マッチしないといけないと思い込んでいるからつらくなる。自分なりの整理ができるとよい。」と話されていました。

 3年前のフォーラムはコロナで急遽オンライン講演になりましたが、今回はフェイス・トゥ・フェイスで関西弁の軽妙な語りが心地よいフォーラムとなりました。