2024年2月11日(日)第9回「薬物依存症者と家族 オープンセミナー」

今回は、埼玉県立精神医療センター副病院長の成瀬暢也先生の基調講演でオープンセミナーを実施いたしました。


会場・ZOOMオンライン合わせて187名の参加をいただき、北は北海道から南は鹿児島まで多くのみなさんと問題の共有ができました。
まずは依存症者家族の体験談でした。依存症の息子がダルク退寮後、自宅に戻って10年。自立までの同居のエピソードや、ひまわり家族会の研修会で学んだことを使って問題から距離を置くなどの話でした。また一番の心の支えは家族会の仲間であったことなどを話しました。

 当事者体験談は、横浜ダルクのスタッフであるソウ氏でした。依存症の末期症状の幻覚や妄想が激しくなってもどうにも回復に繋がれなかったといいます。16歳で大麻と出会い覚せい剤へと流れたこと、覚せい剤を使うと何にでも立ち向かえる感覚が宿り、手放せなくなったと話されました。依存症が病気だとわかってほっとしたこと、仲間といることでクスリは自然に止まっていくことなど、回復に向かう心の変化を丁寧に話されました。                              今の状況については「まさに奇跡」だと感じるそうです。幼少期から感じていた孤独から離れ、仲間とともにいることでこれまでに失った関係を埋めることができるとのことです。スタッフとして今、苦しんでいる仲間に寄り添い、「命のバトン」を手渡していきたいと力を込めて語ってくださいました。

 基調講演は、前述の成瀬暢也先生のお話でした。これまでに何度も「ひまわり家族会」で講演をしていただいています。「依存症はだれでもなりうるありふれた病気」であり、「意志の問題」「がまんの問題」ではないことを改めて考える機会となりました。
 依存症治療における誤解と偏見は、社会のあらゆる場面でみられます。根性論や理性、素行の問題でなく「病気」だと認識することが社会に求められることではないでしょうか。回復には適切な治療と支援が必要です。日本では、薬物使用は「犯罪」とする「スティグマ(負の烙印)」が強く、回復後でも社会の偏見にさらされます。
 「依存症」の最大の問題は「ストレスに弱くなっていくこと」です。それは「やる気のなさ」や「甘え」と捉えられ誤解されていきます。「依存症」を正しく理解することが重要です。
 成瀬先生は長年「ようこそ外来」を推進されています。外来受診したことをまず評価し、歓迎の気持ちを伝えること。通報しない約束をすること。本人が問題に感じていることを聞き取ること。本人がどうしたいのかに焦点を当てること。これまでの問題を整理すること。本人が困っていることに焦点を当てること。無理に薬物使用を止めさせようとしないこと。安心して相談できる場になるように心がけること。外来で治療が続けられるように配慮すること。信頼関係を築いていくことを優先すること。などに留意しているそうです。
 治療としては、解毒・中毒性精神病の治療以外は他の精神疾患と同じプロセスをたどります。
 新たな治療の考えとしては、「依存症に否認があるのは当然。『そこ突き』を待つのではなく動機付けを積極的に行う。」「動機付け面接法や随伴性マネジメントなどを使った介入を行う。治療の中心はリラプス・プリベンションであり、患者の危機を明らかにして適切な対処方法を身につける。」「自助グループへの参加は重要であるが、参加できない場合でも、他の有効な治療手段を積極的に導入する。」「『依存症は慢性疾患である』という認識に立って、患者が脱落しないように配慮する。」ことが大切だということです。

 多くの依存症患者は「苦しいからクスリを止められない。」と言います。「止めないのではなく、止められない。」のです。「依存症」は、メンタルヘルスの問題です。依存症患者への望ましい対応は、「敬意をもって接する。」「患者と医師は対等の立場にある。」「患者の自尊感情を傷付けない。」「患者を選ばない。」「患者をコントロールしようとしない。」「患者のルールを守らせることにとらわれすぎない。」「1対1の関係づくりを大切のする。」「過大な期待をせずに長い目で回復を見守る。」「患者に明るく安心できる場を提供する。」「患者の自立を促す関わりを心掛ける。」などです。依存症は「健康なひとの中で回復します。」と認識することが重要です。
 家族の役割としては、まずは「依存症について学ぶこと。」問題解決のための知識を得ましょう。「依存症者に対する適切な対応を身につける。」適切な対応が本人の変化を生み出します。「家族が元気を取り戻すこと。」同じ経験をしている仲間と出会うために家族会や自助グループに繋がりましょう。疲弊していると本人への対応ができません。家族も病んでいます。依存症者と同じ問題を家族が抱えていることが多くあります。
 依存症の治療・支援が遅れている日本では、その負担を一手に引き受けているのが家族です。家族も孤立していき、患者と同様に問題を抱えて深みにはまります。これまでの家族支援は、患者に「止めさせる。」ための支援でした。これからは、孤立し疲弊した「家族を主役」とする家族自身への支援が中心となります。家族と共謀して患者に止めさせる時代は終わりました。

 「ひとと信頼関係が築けないために、ひとに癒されることができないこと」が、依存症患者のもつ最大の障害です。依存症は人間関係の問題です。回復とは、信頼関係を築いていくことです。わが国の依存症者が回復を望んだときに、あたりまえの支援を受けられる日が来ることを切望します。そう締めくくられました。

 優しい口調の成瀬先生の、暖かい、そして力強いメッセージ。多くの方の心に残ったことと思います。

Q&Aセッションは、ファシリテーターに国立精神・神経医療研究センターの片山氏を迎え活発な意見交換となりました。登壇者には横浜ダルクの施設長山田氏、スタッフのソウ氏、湘南ダルク代表の栗栖氏、そして成瀬先生を迎えました。


会場やZOOMからの質問に答えました。
一番の話題になったのは、「生きる力とは何か?」でした。
成瀬先生は、「一人で生きて生きることではなく、信頼している人とともに自分の思うように生きていけること、苦しくなっても支えてもらって生きていく力。」と話されました。山田氏は「自分の生きる力や今日のエネルギーは、以前はクスリだった。やりたいことしかやらない。それが生きる力だと思っていた。選ぶ余地がなくなってダルクに入った。楽しいやうれしいだけでは成長しないことが分かった。自分で選ぶだけでは手に入らなかったものが今は手の中にある。」と話されていました。ソウ氏は、スピリチュアルな回復が生きる力だと言います。絶望の中にいたときは、前向きな生きる力は持てなかったといいます。祈って自分を超えた力に「ゆだねること。」だそうです。亡くなられたお父様に水をお供えするときに、自分の心にも水をあげる感覚があるそうです。栗栖氏は、平安の祈りのなかの「変えられないものを受け入れる落ち着き。」を自分で受け入れることができるようになったことが生きる力になっていると言います。幼少期は親に認められることだったが、今は自分を受け入れることができるようになって生き易くなってきているとのことでした。
家族にとって、生きる力とは?やはり家族の世話を焼くことに自分の生きがいを置くことではなく、自分の人生を自分らしく生きることができるようになることでしょうか?

最後に成瀬先生の言葉がありました。
「回復は誰かが決めるものではなく、本人がのびのびと生きられること。人として対等に生きること。」

誰かの回復につながる一日であれば幸いです。

2024年1月27日(土)横浜ひまわり家族会 研修会

今日の研修会は栃木ダルクの代表理事、栗坪千明氏を迎えて行われました。

 栗坪氏は28歳のとき(1997年)に茨城ダルクに入寮し覚せい剤を止めることができました。覚せい剤は20歳ころより使用、その前はいわゆるツッパリで仲間から覚せい剤が回ってくる生活でした。建築士として働いていたころは、バブルで仕事が非常に忙しく建築士の仕事が好きで充実していたそうです。そのころは薬物を使うこともなく、仕事に没頭していました。バブルがはじけ仕事がなくなってきたころ、苦境を乗り越える力がなく覚せい剤にのめりこんでいったようです。薬物を使用中に家にあった日本刀で竹を試し切りしていた姿を見て母が警察に通報。やってきた警官が栗坪氏の腕の注射痕を触りながら、「君は薬物をやったんじゃないよな?」と尋ねてくれて「やってない」と答えたら回復への道につながったと言います。ダルクに入寮後は日本刀を振り回していたことが知れ渡っていて、包丁を使う調理はさせてもらえなかったとのことです。茨城ダルクで法人申請の担当になった後、栃木ダルクの開所に携わることになったそうです。

 栃木は、ダルクなど依存症に関することを受け入れる環境にはなく、別荘地の建物を借りて開所するときも大家さんから「ダルク」の名前を使わないでほしいと言われたり、公安警察が見学に来たりしたそうです。県の薬務課は「薬物使用者がいたら逮捕はするよ。」と言ったそうです。地域に連携できる機関がないのだから自己完結型の施設にするしかないと思い、今の栃木ダルクの形にするしかなかったようです。アメリカの支援方法を学び支援方法に段階があることに気づき、今の階層型システムを構築しています。

 まずは「クスリ」を止めるところ、そしてゆっくり回復する場所、社会復帰を目指す場所という段階を作り利用者に卒業という希望を持てるようにしたそうです。社会復帰をする人がいないとやる気がなくなってしまいます。

 支援の3本柱として、「回復プログラム」「生活力」「社会性」を掲げ、階層式にプログラムを実施していきます。ファーストステージで動機付けをし、止めていくためにプログラムに取り組みます。セカンドステージでは問題の直面化をすること、認知行動療法などを実施し、回復の道を進みます。サードステージは社会復帰を目指していきます。慣れが出てくる時期でもありますがそれは正常の回復ととらえます。自分を過信することは危険ですが、一人で生活を回していけるようにしていきます。この段階で家族との関係を再構築することに取り組みます。プログラムが終わった人にはきちんとした形で修了証を渡し、やり遂げる自信をつけられるように取り組んでいます。

 家族の支援事業は家族教室を開催し、8回で1クールとしています。できるだけ両親ともに参加することが大切です。「依存症について」や「本人への対応」「家族自身の健康」について学んでいるそうです。家族関係の再構築は家族教室に参加していることが条件となり、自分の問題に目を向けて本人との関係性を見直すことや、社会復帰後の本人と家族の関係のありようについてともに考えていくようにしているそうです。

 研修会に来月80歳になるという栗坪氏のお母様も来られていました。茨城ダルクの家族会をけん引して来た方で、今は地元で「ナラノン」を開催していらっしゃいます。今回は息子である栗坪氏に「出かけよう」と言われてついてこられたそうです。ナラノンをやっているのは自分がプログラムから離れないため、泣いてナラノンにたどり着く人がいる。その人と一緒にいることがご自身の安心材料だそうです。

 お話の後も、研修会に参加した家族会のメンバーの質問に丁寧に答えてくださいました。

「本人がよくなっても、親が繋がっていることが再発の抑制になる。」と話されていました。

2023年11月19日(日)秋の市民公開講座②

講師:原宿カウンセリングセンター 公認心理師・臨床心理士 高橋郁絵先生
テーマ「家族が楽になるってどんなこと?」PART3
〜傷つきからの回復と、よりよい当事者との関わり〜

 今回は、原宿カウンセリングセンターの公認心理士・臨床心理士である高橋郁絵氏をお招きしての研修会です。
テーマは「家族が楽になるってどんなこと?」の3回目、〜傷つきからの回復と、よりよい当事者との関わり〜についての研修となります。
 研修会の始まりには、「リアル人間ビンゴ」をしました。家族会のメンバーに話しかけることにより、気持ちを和らげたりつながりを持ちやすくすることができました。

 近年は若年層の依存症患者が増えており、家族もこれまでにない支援を必要とされています。依存症本人が未成年であることも多く、「手放して本人は仲間の中で回復する」というモデルだけでは対応しきれなくなっています。ASDやADHDなどの発達障害を抱えているなど、仲間とのつながりを持ちにくいことや、子ども時代の逆境体験などがあり、生き延びるために依存物質に頼ってきたなど、それまでの生き方がどんな風だったのかを知る必要があります。また「もっとひどくならないで済んだ要因」に目を向けることも大切であるようです。生きづらさを和らげる要因や生きる喜びにつながる要因を探すことに目を向けていくと、違った世界が見えてきます。

 依存症の対象に目を向け止めることにだけ注目するのではなく、自分の存在がよいものとして周囲に受け止められているのか、実感を作りだすことが大切になります。家族として、よりコミュニケーション力が求められてきます。周囲との関わりの中で回復していくのは依存症本人も家族も同じです。
 ほどほど良い支援とは、どうすることでしょうか。

 まずは、アディクションの最中はそっとしておいて、緊急性のある時だけ関わる。シラフのときに本人のうれしい活動をする。ましな人生にしたい・幸せになりたいという希望を引き出す。どうしたら本人が困るのかを考え実行する。シラフの時に事実を淡々と伝える。ピンチはチャンス。説得・説教・アドバイス・泣き落としは約に立たないと肝に銘じる。などです。

 家族関係をどう見るのか。その理解と家族相互のサポートも重要です。
世代間境界…親の世代と子供の世代などのことを言います。これは健全な家庭だと、夫婦と子供世代の間に境界があり、情報や感情・空間などを夫婦で共有していますが、歪んでいると母と子供が強く結びついていたり、問題を起こす子どもだけが孤立してしまったりということが起こりがちです。両親の対応を一致させることが大事ですが、難しい場合も多いのではないでしょうか。では、どうするのか。自分の気持ちを伝えるときにはIメッセージを活用する。アドバイスの仕方もうまく活用する。やっていることはおかしくても、その背後にある気持ちは肯定する。どうしようもないことはほっておき、できることをする。相手の行動の責任は相手が引き受けられるように現実を見えやすくするなどです。

家族は一種のシステムでパターンがあります。そのパターンを崩す、どこからでもいいので悪循環を断ち切ることで新しい関係が生まれます。違う行動をしてみることがひとつの関係を生む第一歩になるようです。
 家族のケアは、本来は一番力の強い人が行うべきものですが、逆転している場合が多いです。ケアの提供者が女性=母親というステレオタイプから離れてみてはいかがでしょうか。

 依存症の問題は、ひとりや家族だけで抱えていくのは大変です。家族会への参加が行動を変える一歩になりますが、行きたくない気持ちを持つ場合もあります。そんな時には無理強いせず、自分の気持ちと行動に目を向けて気づきがあると変化の動機付けになります。依存症の世界は「非・常識」です。「常識」によって苦しい子育てを経験していませんか。そこから楽になりましょう。家族会に来ている人が楽しそうに見えたら、来る価値があると思ってもよいのではないですか? そんなメッセージが伝わる研修会でした。

10月28日(土)2023秋の市民公開講座①


テーマ:「依存症と家族の回復について」
講師:一般社団法人 福祉コラボちむぐくる とちぎステップ家族相談室の室長、渡邉厚司先生

 今回は、一般社団法人 福祉コラボちむぐくる とちぎステップ 家族相談室の室長、渡邉厚司先生をお招きしての研修会でした。渡邊先生には前職のころから毎年のように来ていただき、家族の回復について研修会をしていただいています。
【家族とはなにか ―回復と成長に活かす家族理解の視点、「今日一日」 I(私)メッセージに始まりI(私)メッセージに終わるー】をテーマにお話しいただきました。

 アディクションの問題はまだまだ道徳的なとらえで語られることが多いのですが、1985年ころより自己治療的仮説という考え方が台頭してきました。心理的な抑圧や不快を何とかコントロールし生き延びるために薬物の使用をしているとのとらえ方です。依存症の回復には「人」と「依存症の症状」を分けて考えていく必要があります。依存症になった原因を内在化するのではなく、外在化し語ることで自分のストーリーが変化していき、見え方が変化していくと、回復の一歩が始まります。足、耳、口を使って仲間に出会っていく過程が回復へとつながります。

 「家族」とは、子を産み育て社会に送りだし、老いた親の世話と見送りをする「場」です。子を育てるには栄養・愛・安全(秩序)刺激(遊び)社会化(処罰の受容と他者に共感する能力)学習と習慣形成が必要です。
 機能は、家族の働きを指し秩序やその秩序に基づいたコミュニケーション、役割のパターンなどです。
 症状行動とは、「家族を成り立たせるために、症状(行動症状)が起きている」という考え方で、自分を守ったり家族を成り立たせるための行動を言います。個人ではなくむしろ家族システムの中にその症状を必要とする「何か」があると考え、その「何か」を発見し違うものに変えることが家族サポートの視点になります。家族間のコミュニケーションを変えていくということに繋がります。「人」や「人の心」は単体では存在しないもので、他社との関係の中でしかとらえようのないものです。存在そのものがコミュニケーションとなります。
子が育っていくには、「わたし」の誕生が必要です。母との未分化な関係から、成長に伴って離れたり近づいたりを繰り返し、2者関係が育っていきます。思春期に親だけではなく友達や憧れの存在を持つことで、社会に入っていきます。見捨てられる感覚や、飲み込まれる感覚を覚え、不安になりながらも親に頼らないようになっていきます。

 家庭内で繰り返されるパターンを見直し、見えない役割やルールを少しずつ変えていけると家族間の空気が変わり悪循環から抜け出せることがあります。1対1の関係は不安定で影響を受けやすいですが、人が増えると三角関係を作ることができます。その関係も役割に固着してしまうと苦しくなるので、意識して見えない役割やルールから解放されるように自分が変わっていくことが大切になります。
 また、自分なりの守り方で対応できない強く強烈なストレス場面で「あの日、あの時」の外傷記憶が顔を出すことがあります。孤立無援だった時のしみついた記憶をきついながらもミーティングで語り、「今はあの時じゃない」と気持ちを落ち着かせることが少しずつできるようになってきます。切迫感が癒えていき記憶の上塗りができるようになります。その意味でも家族会などの安全な仲間の中で語ることはとても重要なことです。

 家族の変化が本人の変化につながることがあります。
本人の変化を支持する介入の機会で踏まえることは、まず本人が自分の問題に気づき見つめられるようにし、どうするかを感じ考えてもらいます。そして変化を促すこと(変えられることを変えていく)を支持します。その場合に大切なことは、本人のことを大切に思っていることを伝えることです。これからも一緒に歩んでいくことを伝えます。伝え方は「Iメッセージ」で具体的に感じたことを土台にして伝えます。本人の話をジャッジしたり直接関与したりしないようにします。本人の率直な気持ちを言葉にできるように勇気づけることも必要です。
依存症は病気であること、回復と成長を信じること、そのために専門機関に繋がってもらうことなどを伝え続けるようにします。

 家族は家族で、これまで負っていた役割から降りて、主人公としての「わたし」の回復と成長をすることや、家族の境界線を健康で健全にはぐくみ風通しのよい関係を築くことが必要です。
家族間の役割を柔軟にしていき、年齢相応の役割に戻すことや夫婦関係の葛藤を減らしていくことなど意識して変化させていくことが重要になります。家族システムは意識化されないと次世代の家族に影響することを理解しておくことも大切です。

 渡邉先生の研修会は、いつも笑いに包まれながらも家族間の変化の仕方を教示してくださいます。
問題に名前を付けて扱いやすくするなど、依存症の問題とともに生きていくヒントがたくさん詰まった研修会でした。
 
悪いのは「アディちゃん」です。(笑)

8月27日(日)第7回「薬物依存症者と家族フォーラム」

テーマ:薬物依存症は「病気」です。〜家族が笑顔を取り戻すために〜

いっしょに考えよう!生きづらさのこと

 この夏、7回目の横浜ひまわり家族会フォーラムを開催しました。

基調講演の講師に、一般財団法人信貴山病院 ハートランドしぎさん 臨床教育センター長の長(ちょう)徹二先生をお招きし、依存症者本人体験談、家族の体験談などを織り交ぜて行われました。

今回もハイブリット方式で会場とオンライン参加者とが一体となり問題の共有ができました。

 まずは家族の体験談でした。登壇者は息子さんの薬物の問題を抱えているターボーさんのお話です。

現在26歳の息子さんは、市販の睡眠薬を6~7年前から服用しており、行動などの問題を抱えています。

おかあさんへの暴言がエスカレートしていき今はお母さんが自宅を離れて生活しています。病院などに行っても長続きせず、時々派遣の仕事をしながら自宅で暮らしているそうです。

ご夫婦で昨年12月から家族会に参加するようになり、本人への対応などを学んでいるところです。家族が心安らかにいられるように今後も家族会に参加していきたいとのことです。

 そして依存症当時者のたくさん。

11年前にダルクに繋がって今は横浜ダルクのスタッフをされています。

薬物は12歳に時に始まったと言います。家庭は一般的で両親と兄と暮らしていました。朝、なかなか自分で起きられず蹴とばされることがあったそうです。他の家族を知らないから、それが変わっていることだとは思っていなかったといいます。学校では目立ちたがりで中心にいたいという気持ちが強かったようです。小学校5年生くらいから先輩と過ごすことが多く、たばこも覚えていきました。それがエスカレートしてアルコールやガスなどを使用するようになっていったようです。

若くして結婚し、子どもが産まれても薬物を止めることはなかったけれど、妻からはやめてほしいと言われ続けていたそうです。口では止めるというけれど、特にやる気もなく続けていたら、だんだん生活がままならなくなってきました。ダルクのデイケアに通いながら、とりあえずしばらく我慢すればなんとかなると思いながら通っていたといいます。それではうまくいかず再使用を繰り返し、山梨ダルクに行くことになって初めて薬物の問題と向き合い始めたそうです。「しらふ」で社会で生きるのはとても大変、自分が一番楽に生きる方法はダルクでスタッフになることだと思ったそうです。クリーン11年、スタッフの仕事も8年続いているし、回復後に出会った仲間に助けられて今がある、与えられたものも多いと感じていると話されていました。

 そしてハートランドしぎさん 臨床教育センター長の長先生の基調講演です。「きょうどうする」をテーマに軽快に話をしてくださいました。

近年の薬物依存症の治療論が「ただ止めるだけ」ではなくなり、個々に抱えている[生きづらさ]に目が向くようになり、支援する側、家族にはさらに負担が増えてきていることを踏まえて、一緒にできることを探しましょう。大きな岩は動かせないけれど小さな石にすれば運ぶことはできます。というメッセージを届けてくださいました。

効果(快感)を発揮するものを求める。しかしそれは便利で快感の多いものは脳機能を刺激し、より強い興奮が生じるようになる。だがコントロールが効かなくなる。これを「依存性」と表現します。 

治療の場面では医師が外から依存症患者を診て判断することが多いです。しかし、支援者や治療者が診てるものと、家族が見てるもの、患者自身が観ているものどう違うのか?支援者が考える「今日一日」と本人が考える「今日一日」では、重みが全く違うと気づくまでに時間がかかったそうです。問題が起きてないときもあれば、たまたま起きてしまう時もある。なのにコントロール障害と言われたくない。何回かに一回の失敗を責め立てられるのはつらいと言います。元来、話すことや本音を言うことが苦手で人との関係が作れない人が、依存症者には多く観られる傾向です。臨床においてのターニングポイントは本音が放せる関係性を作ることが何より重要だと治療現場にいて実感されたそうです。問題は物質関連だけではなく、見えにくい水面下にある、そう考えて取り組んでいます。表現が下手な人は、初めから「近寄ってくるな」というオーラを醸し出したり、「大丈夫」と調子を合わせたりする人が多く見られます。そうすれば短い時間の関わりだけで済むから、本人としては楽だからです。信頼する人がいないから物質に頼って対処することになっていきます。逆境体験を持っている人も多く、心の傷を話せずにいる場合も多くあります。どのように信頼関係を築くのかが治療のポイントになります。

本当の問題は物質使用ではなく、ほかの何かを抱えています。物質使用がないと生きられなかった、死んでいた。そんな状況を考えていかなければ治療のスタートに一緒には立てないように思います。

体験談を聴いたり話したりすることは、理解を助けるうえで重要なものであります。

 依存症者との関わりを持つ家族や支援者にも大切なことは、自分の感情に気づいてケアをすることです。自分が元気でこそ依存症者の支援に立ち向かえます。家族や支援者は車の助手席に乗っているイメージで時々手伝うくらいが良い距離間でしょうか。しかし、当事者の近くにいる家族はそう簡単にいかないのが常です。「わかっているけど、正しいかもしれないけど、そんなんできるかい!(できないよ)」

 長先生は家族支援の際に、正論だらけの勉強会や、スタッフレベルの対応を家族に伝えていました。それは大きな失敗だったと話されていました。「わしら、なんにもわかってなかった。」その後、思い切って路線を変えていったそうです。自分にご褒美をあげて次への活力にすることは効果があります。家族はじぶんができること、当事者がしなければならないことを分けて考えていくことが大切です。うつや落ち込みには悪循環があります。逆に健康行動には好循環があります。ストレスに気づいたら自分をいたわってご褒美をあげることが好循環への道です。ただセルフケアといっても、自分一人では難しいことも多いです。家族会の仲間の存在が重要になります。話せる場を持つことが大きな力になります。

 患者さんとの治療場面でも、客観的に自分を見ることができるように支援します。一緒に見る機会を増やすことが大切です。

すべてのかかわりの基本は ①まずは受け止め ②安心できてから少し対話 ③余裕があれば協働作業。共通の島に着地するイメージです。当事者にとって一番の安心はせめられないこと、そしてかかわる工夫があること、話やすいことです。医師といえども教えてもらう気持ちを持つと、関わりが変化していくようです。

協働作業は、一緒に地図を見るイメージ、細かくチューニングをするイメージなどです。家族も少しずつ行動を変えていけるといいですね。

「きょうどうする」は「協働する」「共同する」「今日どうする?」あなたはどう読みますか?

 Q&Aセッションは、長先生、横浜ダルク施設長・山田氏、HOPE施設長・栗栖氏、当事者のたくさん。そしてファシリテーターとして国立精神・神経医療研究センターの片山氏を交えて、質問に応えていただきました。

家族関係や、回復に向かうターニングポイントなど興味深いお話が聞けました。たくさんから、「薬物を再び使いたいとは思はないけど、やめたいかと言われると、わからない。やめたいというより、変えていきたいと思った。」と語ったのが印象的でした。

長先生の「家族としてお互い気遣いながら生きている。そもそも違う個体が暮らしいるのに、マッチしないといけないと思い込んでいるからつらくなる。自分なりの整理ができるとよい。」と話されていました。

 3年前のフォーラムはコロナで急遽オンライン講演になりましたが、今回はフェイス・トゥ・フェイスで関西弁の軽妙な語りが心地よいフォーラムとなりました。

7月22日(土)家族研修会

テーマ『保護観察所における薬物依存のある人の処遇について』

今回は法務省横浜保護観察所の統括保護観察官の太田典子氏をお招きし、一般にはなじみが薄いけれども当事者と私たち家族にとっては関係が深い「更生保護」についてのお話を伺いました。

お話の内容は次のとおりです。

  1.更生保護の役割

更生保護法第1条は「更生保護とは犯罪をした者及び非行のある少年に対し、社会内において適切な処遇を行うことにより、再び犯罪をすることを防ぎ、又はその非行をなくし、これらの者が善良な社会の一員として自立し、改善更生することを助けるとともに、(中略)、犯罪予防の活動の促進を行い、もって、社会を保護し、個人及び公共の福祉を増進することを目的とする。」と規定されています。

国家公務員である保護観察官と民間篤志家である保護司は協働して保護観察業務を担っています。保護観察は遵守事項の義務付けと定期的な面接等を通して、保護観察対象者の生活状況の把握を行っています。実社会のなかで指導監督と補導援護の業務が補完し合うことで効果が生まれます。

住居・家族・仕事先・学校などの生活環境は保護観察対象者の立ち直りに大きな影響を及ぼすため、保護観察官や保護司は犯罪や非行を犯した人が刑務所等に入所しているうちから釈放後の住居や仕事先の調査を行うなどして立ち直りを支える環境を整えています。これは、保護観察所における更生保護が刑事司法の最後の砦、再犯防止のかなめとして、犯罪を犯した人が地域社会に円滑に戻れるよう(更生できるよう)行政や医療などにコーディネートすることがその役割であるということを明確に表しています。

なお、保護観察になじまない精神観察については厚生労働省と緊密にタイアップして縦割り行政の弊害を避ける取り組みが現在すすんでいるとのことで期待したいと思います。

2.保護観察所における処遇の実際

保護観察官及び保護司による指導の内容は、面接による接触確保と行状の把握、遵守事項を守る働き掛け、専門的処遇プログラムの実施です。

保護観察におけるねらいは、悩みや課題を話し合うことのできる関係作りを通じて困ったことを相談して解決するという体験の蓄積、特に保護司との間で自身が他者から大切に思われる経験を通じて自尊感情を持てるようになり感情が揺れ動く場面で踏みとどまる力の体得、問題の解決方法に関する知恵の習得を通じて自身の生きづらさを和らげる必要な支援(治療や自助グループ等)につながる可能性などが挙げられます。

薬物事犯者に対してはグループワークによる「薬物再乱用プログラム」が課せられます。プログラムは執行猶予期間によって相違しますが、コアプログラムとステップアッププログラムで構成されます。

プログラムの後には簡易薬物検査があるため当事者にとっては薬物を使用しないよう心理規制を受ける一方、一定期間使用することなく頑張ったことを確認する手段としての機能を有しています。よって、陽性の場合は当然、法による処分の対象になります。

プログラムにはダルクなどの自助グループのスタッフや医療からは精神保健福祉士なども参加します。特に、ダルクスタッフの同席は薬物依存の経験者かつ回復者として当事者にとっては大きな励みであり目標となり得るため欠かせない存在です。

当事者にはこのような保護観察のねらいを理解し、プログラムに真摯に取り組むことによって一日も早い更生を願いたいものです。

3.   これからの更生保護 ~家族の皆様と共に~

当事者はその犯した罪により処罰を受けて刑務所に収監されたり、執行猶予で保護観察所の指導監督や補導援護を受けます。薬物依存から脱するための体制作りとして地域の専門機関による必要な治療や福祉などの継続的な提供を受けたり、当事者同士の支え合いの機会や薬物依存からの回復に配慮した住居の確保をはかってもらったり、家族の理解と協力の獲得に尽力してもらったりと、諸々のセーフティーネットが用意されます。では、家族はその間どうしたら良いのでしょうか。

実はこのことこそが家族にとって大問題なのです。

「息子がもうすぐ出所するがどうしたら良いでしょうか」

「もうすぐ執行猶予期間が満了になるけれどどうしたら良いでしょう」

こういった不安を抱えて家族会の相談に駆け込む家族が実に多くいるのです。

保護観察所はこのような家族に対しても相談支援を行っています。その内容は引受人会の実施を通じて家族の理解を促進したり、家族からの個別相談にも対応し、保護観察官及び保護司による支援を行ったり、関係機関や家族会へ協力するなどです。

家族はその時が来る前に『大切な人のために家族ができること』をする必要があることを忘れてはならないのです。家族の相談は回復のチャンスを作ります。相談する社会資源は少なくないのです。行政・医療・家族会などの自助グループで依存症を識るセミナーに参加してCRAFTなどの知識を習得し、自身を問題志向から解決志向に切り替えることによって、まずは家族が元気を取り戻すことがとても重要なのです。

私たち家族は当事者の犯罪によって私たち自身も傷付き心折れる経験をしました。しかし、当事者が更生回復の道を辿るのと時を同じくして私たち家族も回復しなければなりません。

保護観察所で日々犯罪を犯した人と接しておられる太田統括保護監察官様はじめ多くの職員の方々及び保護司の皆様の業務に敬意を払うと共に『これからの更生保護~家族の皆様と共に~』というメッセージを感謝の心で受け取りたいと思いました。

6月24日(土)横浜ひまわり家族会 家族研修会

講師:神奈川県立精神医療センター 精神保健福祉士・公認心理士の小林千香子氏
テーマ「家族の対応」

 今回は神奈川県立精神医療センターの精神保健福祉士・公認心理士の小林千香子氏を講師にお招きしました。今回の講演テーマは「家族の対応」です。ひまわり家族会ではおなじみの井上恭子先生もいらしてくださいました。神奈川県立精神医療センターは依存症の専門治療機関です。小林さんは平成27年4月から勤務しており、救急と思春期外来の担当でいらっしゃいます。現在は依存症専門治療も「依存症外来」「思春期ゲーム行動症外来(中高生対象)」「レインボー外来(性的マイノリティ―のある依存症の方対象)」に分かれています。  「依存症外来」は、成人が対象でアルコール・クスリ・ギャンブル・盗み・買い物・性などの診療を行います。「思春期ゲーム行動症外来」は、家族全体の機能に目を向けて親子で共に参加できる専門プログラムがあります。家庭や学校で居場所が見つけられず、ゲームの世界だけが居場所と感じている患者が多くみられます。「レインボー外来」は性的マイノリティで他の病院では受け入れることが難しい場合が多く依存症と性的マイノリティの二重の差別や苦しみがあります。  初診患者に目を向けると、以前はいわゆる「やんちゃな男性」が違法薬物にはまり逮捕されてしまうことが多かったのですが、最近はSNSなどで知りライトな感覚で薬物使用をする「普通の人」が増えてきています。また女性の患者も増えてきています。女性の方が、習慣化が早く併存する精神疾患が多いことも特徴として見えてきます。市販薬など人を介さずに購入できる薬物使用者も多く、より孤独な状況で苦しんでいる状況が浮かびます。  依存症者の家族にはいろいろな困り感があります。本人への否定的感情が渦巻き、怒りや悲しみが大きく依存症に対して否定的な気持ちになります。そして社会の偏見と誤解がさらに苦しめます。依存症という病への理解は、少しずつ進んではいますが、まだまだ「わがまま」や「意志の問題」などと考える人の方が圧倒的に多いのが現実です。「親の育て方」「家族の責任」など非難の的になります。社会からの家族への役割の期待も家族を追い込んでいきます。そして苦しいまま誰にも助けを求められず。孤立していくのです。閉鎖的で不健康な家族に陥っていきます。「依存症の問題さえ何とかなれば・・」  家族は薬物から本人を遠ざけようとしてコントロールしようとしてしまいます。しかし家族自身がコントロールを失って巻き込まれていきます。そして被害者意識「あの子のせいですべてが台無しに」など本人への否定的な感情に支配されていきます。家族は自分たちで何とかしなくてはいけないと過剰な責任感を持って対処しようとします。自己を失って混乱していくのです。  家族の対応を振り返っていくことが大切になります。一人ではわからないことも家族会で仲間ができることによって気づきが生まれます。  「家族のしすぎ」について、わかりやすくまとめて提示してくださいました。 ・一言が多すぎる。 ・先に言いすぎる。 ・正論を言いすぎる ・答えを出しすぎる。 ・欠点が見えすぎる。 ・先回りして考えすぎる。 ・起きていない事を恐れすぎる。 ・事実をきちんと見せてなさすぎる。  みなさんは思い当たることがありますか?ほとんどの家族には耳の痛い内容ではないでしょうか。  依存症の問題はなかなか答えがでません。小さな変化に目を向けいいところを見つけていけると少し楽になります。 家族が健康でいるためには、「依存症を正しく理解すること」「適切な対応を学ぶ」「家族自身が健康を取り戻す」ことです。家族の健康のためには、依存症以外の関心ごとを増やし、かつての楽しみを取り戻す、そして複数の楽しみを増やしていくことです。 渦中にいるとそんな気持ちにはなかなかなれませんが、家族会のメンバーで支えあいながら乗り越えていける日が来ると思います。 講義後は質問にも真摯にお答えいただきました。井上先生も適宜、回答してくださり家族の迷いの糸口を見つける一歩につながるとよいと思います。若い依存症者はパワーがあり家族も振り回されます。どこかで回復につながるタイミングがあるので家族は情報を得ておくと動きやすくなります。日々のやり取りで不安があるなどの場合も、家族会で不安や迷いを口に出すことで糸口が見つかるかもしれません。

5月27日(土) 横浜ひまわり家族会 家族研修会< 家族の回復② >

講師:特定非営利活動法人 群馬ダルク 施設長 福島 ショーン氏

 今回も群馬ダルクから福島ショーン氏をお招きしての研修会でした。「関係を取り戻すコツ」と題してのお話でした。
 ショーン氏のお母さんは、未だに自分のことを子供扱いするのだそうです。今はショーン氏自身のベースがしっかり安定しているから崩れないけれど、会うと怖いと思うこともあるようです。
薬物にどっぷりはまっている時期でもクスリの効果が切れてくると「自分は何をやっているんだろう。」と考えていたそうです。薬物をやっていると、止めたい気持ちと、止められない気持ちを抱えて「ジレンマに陥ります。そのうえ家族からも攻撃されることが多く、つらい気持ちに拍車がかかります。
 そういったときの家族の関係をこじらせないためのコツを紹介してくださいました。
本人にやってはいけないこと
① 上から見る。
これは説教などが当たります。子供扱いしている状況です。
「まだそんなことしてるのか。」「あんた馬鹿じゃないの?」「そんな子、産んだ覚えはない。」などと、言った心当たりのある家族は多いのではないですか?自立を望んでいるはずなのに、子供扱いをしてしまう。そして裁いたり、批判したりする。決めつける。説教、比較などがこれにあたります。
大人として接する、その方が本人は頑張れます。
② この問題はいつか去ると思う。
自分たちが今を我慢すれば終わると思っていませんか?大人になれば治ると思っていませんか?これは進行性の病気です。クスリを使っていなくても進行しています。
③ 強制的にやめさせようとする。
「好きに使って。」と言われた方がまだいいと感じるそうです。親の回復が強いと本人は親を責めにくくなります。親は本人にコントロールされにくい状態になります。逆に弱っていると責められやすくなります。本人の行動を強制しないことが大切です。
④ イネイブリング。
尻ぬぐいをしない。(後始末、解決)を親がしないことです。生活習慣で依存症になっていく場合もあります。本来子どもがとるべき責任を奪ってしまいます。それは大人として生きるスキルを奪うことになります。
⑤ あきらめる。
家族会に来なくなる人も多いですが、唯一の話せる場、気づきの場を失うことになります。子供のことを根性のない子、弱い子と思いがちですが、どん底を何度も経験しても、生きようとしていることを忘れないでほしい。意志は強い、生きる力を持とうとしています。どこで何が変わるかわかりません。「うちの子だけは違う。」と考えないでください。病気の力が強すぎてクスリには負けてしまいますが、少しずつ手放せればいいと考えましょう。戻らないことが大事です。失敗したら、また話してもう一度始めればいいことです。
怖さはあります。それは死や世間などです。

そして、やってほしいこと
① 常に本人の病気のことや自分の共依存のことを勉強し続ける。
家族の病気と言われる依存症。問題のあるメンバーを中心にして合わせて生活をしてしまいます。本人だけが回復しても家族が勉強しないと元に戻ってしまいます。共にいない方がいい場合もあります。自分たちの問題を学ぶことが重要です。再発する病と認識していきましょう。
② おかしいと思ったらおかしいと言うようにする。
問題と感じたらやれることをやる。後で問題にならなかったらそれでよい。自分の勘を信じることです。
③ 手放そう。
距離を置くことは大切です。期待と理想を手放すことが、お互いが楽になれる大きな要因です。親は子に対して期待と理想を大きく持ちがちです。そしてがっかりする。がっかりされた子供はつらいです。コントロールできないものは手放すこと。口論や説教をしても何も変わらないです。
その気持ちを家族会で誰かに伝えましょう。問題は解決しないけれど話すことは手放すことになります。
④ 境界線を引こう。
自分が違和感を感じていながら許すのは、境界線がうまく引けていないということです。薄かったり、なかったり。暴言やお金をせびられても許してしまう。これだけはダメだというものがなく、相手が中心になっています。自分の芯を作りましょう。超えられてもまた線を引きましょう。
⑤ セルフケアを練習してください。
長年、依存症者に集中しているから自分のことを忘れています。意識して自分のケアをするようにしましょう。これまでダメージも大きかったはずなので、自分のために「何があっても○○をする。」と決めて無理にでもやってください。だんだん楽になっていくはずです。
⑥ 褒める。
本人も周りの家族も気にかけることが大切です。

兄弟姉妹のことが質問に上がりました。兄弟もダメージが大きいはずです。本来の家族内の役割を超えて抱えていることも多く、心が傷んでいます。依存症者に目が向いてばかりで愛情を向けられないことも多いです。うつ病になったり依存症になったりするケースもあります。まずは親が回復し元気になって本来の役割を果たせることが大切ではないでしょうか。
距離感を保つのは難しい場合もあります。心の準備も必要ですが慌てないで、できることを少しづつ行い、距離を保っていけると良いですね。

最後にショーン氏は、「希望は持っていてほしい。」とおっしゃっていました。

4月22日(土)横浜ひまわり家族会 家族研修会<依存症本人の回復>

講師:特定非営利活動法人 群馬ダルク 施設長 福島 ショーン氏 & 代表 平山 晶一氏

 ひまわり家族会ではもうお馴染み、群馬ダルクのプーさんとショーンさんのコンビによる研修会が行われました。今回も2回シリーズです。

 まずは1回目の研修の紹介です。

今回は依存症本人の回復プログラムのお話でした。

「自分たちはなぜ再発するのか。」

アメリカのプログラムですが、文化は違えど病気は同じです。アメリカでは家族もプログラムを受けることが義務となっています。容器を正しく知ってもらうことが大切で、クスリが止まればいいというものではないということです。

「リラプス」~再燃~ 

 以前は「スリップ」と表現していましたが、スリップはアクシデントの要素を感じる表現です。リラプスは決してアクシデントではなく、ずれはじめが必ずあります。

①   自分に対し、相手に対し嘘、言い訳が始まる。

 自分に対しても嘘がはじまり、自分に対する嘘はバレない、ごまかせる。自分で嘘を許し始めていく。

 自分で気づいていないわけではないのに、次もやってしまう。

②   感情が乱れること、ストレスを感じる状況が増える。

 嘘をつかないとやっていけない、嘘が自然になる、平気ではないからストレスが増え妄想になっていく。 罪悪感や負の感情が表れ、妄想的に相手を見るようになってしまう。自分に負い目があるから態度や目つきを疑っていく。

クスリを使用する3つの理由

・楽になるため。   ・ご褒美。   ・逃げる。

すぐに、ずっとクスリを使う。人間関係の楽しみを知らずに生きてきている。生きづらさを抱えている。敏感であり、苦境を乗り越えるツールがない。クスリを使うことが結果が速いので楽に思える。一瞬は楽になるが問題は解決していない。

③   いっぱいいっぱいになる。

 ほかの方法を知らない。これまではらりっていて、乗り越えたことがない。相談もできなかった。

④   否認、大丈夫なふりをする。

   自分がいっぱいになっていることを認められない。認めるのが怖い。かっこ悪い。恥と思う。クリーンが長い人のほうが認めにくい。「大丈夫?」と聞かれても、何がおかしいのかわからない。

⑤   助けを求めない。助けを求めなくなる。

 仲間の中でクスリを止める。止め続けていく。いるだけで助けを求めていることに繋がるが、はじめは助けをどう求めるのかわからない。いきなりクスリを止めるのは大変なこと。

ベースには恥の気持ちがある。日本特有の世間体が邪魔をする。家族で解決すべき問題。

⑥   孤立することが増える。

 使っている人は孤立していく。素面なのにそうなっていく。ひとりでいると病気が勝ち始める。病気とふたりでいる状況になってしまう。

⑦   希望をなくす。自分がかわいそうになる。

 いつの間にか孤立し、うまくいかなくなる。周りが見えなくなり自分がかわいそうになる。「あいつのせいで…」など責任を転嫁する。希望がないからクスリを使っていた。使っても楽じゃないのにそのほうがマシに思える。

⑧   ハイリスクな状況に戻る。

 危ない状況になっている。使っていた場所や街に戻る。使いたいわけではないけれど戻ってしまう。昼夜逆転になり誰にも連絡をしなくなる。トリガーからハイリスクへ変化している。感情が乱れ、怒りがわく。

⑨   欲求が出やすくなる。

 悪いことではない。自動回路になっているだけだが、対応できなくなる。ギャンブルや暴力、風俗に行くようになる。

⑩   自暴自棄、投げやり、有力

 使っちゃえという気分になる。有力とは、使えばどうにかなるという発想で一発逆転ができる気がする。

このような段階を踏んでリラプスが起こっていきます。どこかで修正できることもあります。

世間や家族にもこのリラプスについて知ってほしいです。このプロセスは家族にも当てはまります。期待と理想を抱えている以上、お互いにつらいといいます。親はついつい期待と理想を大きくしていきます。世間一般の姿を描き取り戻してほしいと考えてしまいます。依存症者本人は家族が思う大人にはなれないです。

期待と理想を手放すとお互いが楽になれます。生きていればいいと思ってくださいと。

ショーンさんが、「僕たちはママがいなくても生きていけます。危ない道に逸れても、回復の道を歩いても、どちらでも自分で歩いていけるよ。」と、家族に重要なメッセージを送ってくれました。