テーマ『保護観察所における薬物依存のある人の処遇について』
今回は法務省横浜保護観察所の統括保護観察官の太田典子氏をお招きし、一般にはなじみが薄いけれども当事者と私たち家族にとっては関係が深い「更生保護」についてのお話を伺いました。
お話の内容は次のとおりです。
1.更生保護の役割
更生保護法第1条は「更生保護とは犯罪をした者及び非行のある少年に対し、社会内において適切な処遇を行うことにより、再び犯罪をすることを防ぎ、又はその非行をなくし、これらの者が善良な社会の一員として自立し、改善更生することを助けるとともに、(中略)、犯罪予防の活動の促進を行い、もって、社会を保護し、個人及び公共の福祉を増進することを目的とする。」と規定されています。
国家公務員である保護観察官と民間篤志家である保護司は協働して保護観察業務を担っています。保護観察は遵守事項の義務付けと定期的な面接等を通して、保護観察対象者の生活状況の把握を行っています。実社会のなかで指導監督と補導援護の業務が補完し合うことで効果が生まれます。
住居・家族・仕事先・学校などの生活環境は保護観察対象者の立ち直りに大きな影響を及ぼすため、保護観察官や保護司は犯罪や非行を犯した人が刑務所等に入所しているうちから釈放後の住居や仕事先の調査を行うなどして立ち直りを支える環境を整えています。これは、保護観察所における更生保護が刑事司法の最後の砦、再犯防止のかなめとして、犯罪を犯した人が地域社会に円滑に戻れるよう(更生できるよう)行政や医療などにコーディネートすることがその役割であるということを明確に表しています。
なお、保護観察になじまない精神観察については厚生労働省と緊密にタイアップして縦割り行政の弊害を避ける取り組みが現在すすんでいるとのことで期待したいと思います。
2.保護観察所における処遇の実際
保護観察官及び保護司による指導の内容は、面接による接触確保と行状の把握、遵守事項を守る働き掛け、専門的処遇プログラムの実施です。
保護観察におけるねらいは、悩みや課題を話し合うことのできる関係作りを通じて困ったことを相談して解決するという体験の蓄積、特に保護司との間で自身が他者から大切に思われる経験を通じて自尊感情を持てるようになり感情が揺れ動く場面で踏みとどまる力の体得、問題の解決方法に関する知恵の習得を通じて自身の生きづらさを和らげる必要な支援(治療や自助グループ等)につながる可能性などが挙げられます。
薬物事犯者に対してはグループワークによる「薬物再乱用プログラム」が課せられます。プログラムは執行猶予期間によって相違しますが、コアプログラムとステップアッププログラムで構成されます。
プログラムの後には簡易薬物検査があるため当事者にとっては薬物を使用しないよう心理規制を受ける一方、一定期間使用することなく頑張ったことを確認する手段としての機能を有しています。よって、陽性の場合は当然、法による処分の対象になります。
プログラムにはダルクなどの自助グループのスタッフや医療からは精神保健福祉士なども参加します。特に、ダルクスタッフの同席は薬物依存の経験者かつ回復者として当事者にとっては大きな励みであり目標となり得るため欠かせない存在です。
当事者にはこのような保護観察のねらいを理解し、プログラムに真摯に取り組むことによって一日も早い更生を願いたいものです。
3. これからの更生保護 ~家族の皆様と共に~
当事者はその犯した罪により処罰を受けて刑務所に収監されたり、執行猶予で保護観察所の指導監督や補導援護を受けます。薬物依存から脱するための体制作りとして地域の専門機関による必要な治療や福祉などの継続的な提供を受けたり、当事者同士の支え合いの機会や薬物依存からの回復に配慮した住居の確保をはかってもらったり、家族の理解と協力の獲得に尽力してもらったりと、諸々のセーフティーネットが用意されます。では、家族はその間どうしたら良いのでしょうか。
実はこのことこそが家族にとって大問題なのです。
「息子がもうすぐ出所するがどうしたら良いでしょうか」
「もうすぐ執行猶予期間が満了になるけれどどうしたら良いでしょう」
こういった不安を抱えて家族会の相談に駆け込む家族が実に多くいるのです。
保護観察所はこのような家族に対しても相談支援を行っています。その内容は引受人会の実施を通じて家族の理解を促進したり、家族からの個別相談にも対応し、保護観察官及び保護司による支援を行ったり、関係機関や家族会へ協力するなどです。
家族はその時が来る前に『大切な人のために家族ができること』をする必要があることを忘れてはならないのです。家族の相談は回復のチャンスを作ります。相談する社会資源は少なくないのです。行政・医療・家族会などの自助グループで依存症を識るセミナーに参加してCRAFTなどの知識を習得し、自身を問題志向から解決志向に切り替えることによって、まずは家族が元気を取り戻すことがとても重要なのです。
私たち家族は当事者の犯罪によって私たち自身も傷付き心折れる経験をしました。しかし、当事者が更生回復の道を辿るのと時を同じくして私たち家族も回復しなければなりません。
保護観察所で日々犯罪を犯した人と接しておられる太田統括保護監察官様はじめ多くの職員の方々及び保護司の皆様の業務に敬意を払うと共に『これからの更生保護~家族の皆様と共に~』というメッセージを感謝の心で受け取りたいと思いました。