2021年 秋の市民公開講座10月24日(日)

講演:筑波大学大学院 人間総合科学研究科 准教授 森田展彰先生 

 今回の秋の市民公開講座は、筑波大学の森田展彰先生のお話でした。「親のアディクションが子どもに与える影響とその支援」をテーマにお話をしていただきました。
 保護者が薬物事犯で収監された場合、子どもは養育者がいなければ児童養護施設に入所する場合があります。大体は、子どもは親の状態を知らないままであり、出所と同時にまた一緒に暮らし始めます。しかし、子どもたちへの支援はなく、子どもの治療は同時にできていないことがほとんどです。親のアディクションは子供への影響が大きく、子どもたちは傷ついています。児童思春期に、アディクションがかかわる状態では、子どもにアディクションが生じる場合と、家族のアディクションが影響している場合があります。子供のアディクション問題も、家族における葛藤や暴力あるいは家族の依存症や精神障害が関係することが多いと言えるそうです。児童の思春期にこうした背景がある場合、見逃さずに対応することが世代間連鎖を防ぐことにつながると考えられます。アディクションと養育の問題は相互に影響を及ぼしています。
 親のアディクションが養育に影響を与える場合、子ども時代の逆境的体験が累積的に成人になってからの健康問題を悪化させたり、死亡率をあげたりする原因になるそうです。

 依存症を持つ親の養育が生じる児童の問題として、依存症になる・気分障害・人格障害・摂食障害など、精神障害や健康上の問題、学校不適応、犯罪、自殺、自尊心の低下など広範囲の問題が多いことが示されています。安心できる環境がないため安心を求めようと薬物にはまり、自己肯定感が低くなっていくなど、悪循環にはまっていきます。親の抱える問題を子どもの口から発するのは非常にハードルが高く、言える場もないことから追い詰められてしまうのです。子供が親の依存症の症状に振り回されたり、生活上の困難を感じたりすることが増えていきます。ヤングケアラーとして、親の世話に過度の責任を感じることもあります。自分のことより親のことで手いっぱいで大人になってから生きにくさを感じて行きます。虐待のリスクも高くなります。
 依存症のある親の元で育った人の調査によると、相談できる人がいなかったと答えた人が67.4%と最も高いそうです。75%の人がうつ病や躁うつ病にかかってしまうなど、受けた影響の大きさが想像に難くないと思います。ほとんどの人が依存症の説明をされておらず、わけがわからないまま問題に巻き込まれ、不安な生活を強いられてきたと言えます。子ども時代にきちんと説明を受けていたら「自分や親を責めなくてもよかった」「わけがわからない状況にさらされる恐怖や無力感を減らせた」「家庭で起きていたことを知り、相談や対処ができた」と考える人が多くあったそうです。
 支援者にはぜひ、このような当事者の気持ちに寄り添い、支援にあたっていっていただきたいと願うばかりです。
 またそのような環境で生活してきた人たちが大人になってから、心の病を持つ人と持たない人がありますが、その違いを比較した結果、かからなかった人たちは、親の精神疾患に対する心理的負担感が少なかったこと、首尾一貫感覚(人生を見渡せる感覚)が高く自分が生きている状況が理解でき人生に意味を感じていたこと、幼少期の逆境的体験が少なかったこと、親から自律性や主観性を尊重されていると感じていたこと、精神疾患を持つ親が治療していたことを知っていたなどの理由が挙げられるようです。
 調査からいえる大切なことは、以下の通りです。

子どもに依存症や治療のことを伝え、その話題に関してコミュニケーションができるようにする。
子どもの自主性を助ける関わりが重要。
子ども自身が自分の人生をやっていけると思えることを助ける。
子どもが親の依存症の影響を減らす。そのためにも親が治療を受けて、子どもだけがなにかと対応しているのではなく、外の人にも手伝ってもらえるようにすること。

依存症など精神疾患を抱える親と暮らす子どもへの支援は、子ども自身が自分でハードルを一つずつ超えるために援助できるようにシステム作りが必要です。親子だけでなく兄弟の問題もあるので、視野を広くして取り組んでいけるといいと思いました。
最後にプルスアルハなどの依存症に関する絵本の紹介がありました。

2021年9月25日(土)「2021秋の市民公開講座<9月講座>」

今回の「秋の市民公開講座」9月講座は、マロニエ医療福祉専門学校医療学部 学科長であられる渡邊厚司先生をお招きしての開催となりました。テーマは「回復と成長につなぐコミュニケーション~その点検道具のガイド~」です。
先生は、刑務所のメンタルヘルスプログラムにも携わっており、受刑者の7~8割は何等からアディクションの傾向があるといいます。先生ご自身はアディクションの本人や、家族と出会ったことでご自身が救われていると感じるそうです。
 人との関係の中で困りごとがあっても、解決するための道具を人はなかなか見出せません。依存症も問題に巻き込まれて、どうにもならなくなった本人との関係をどう整理するのか。交通整理をするためのコミュニケーションの道具を紹介してくださいました。
 「アディクション」とは、近代社会のなかで生まれた病気です。人間が商品化されてきた社会の中で、薬物に手を出した人は、商品としての価値が下がってしまいます。いわゆる「傷物」として生きていくのには近代社会はあまりにも過酷となります。高い商品価値が無くなったとき、「酔い」を求めて薬物を使用し、酔うことで自分を守るしかなくなるのが近代社会です。周囲にとらわれ自分の息を殺して、感情を感じないようにする、そのために酔いが必要になってくるのです。「私としての生き方でいいんじゃない?」そう思えてこそ、「酔い」ではない生き方・自分を守る違う方法を見つけられるといいます。
 本人との関わりの中で、本人を変えようとしてしまうこと。本人を変えることがすべてになり、家族も自分自身を見失い、相手がすべてになっていきます。それは家族として依存症の問題に関わったことがあるならだれもが通った道です。人間関係は変えられないのに、正解があると思い込み呪いにかかっていきます。その思い込みはしみついてとらわれてしまいます。本人も自分を変えようとする人にしか出会ってこなかったという人が多いようです。問題を整理して取り組めることに目を向けていくことがスタートです。
子どもが成長していく中で、おむつが取れた時が「自分」になる第一歩だそうです。おむつをつけていると替えてくれる誰かが必要です。そしてこの時期には他者に通じる言葉を持ち始めます。
イネイブリングは、大人におむつをつけ、世話をしている状態だと言います。
本人との関わりで、うまくいかないパターンを知ることも大切です。悪循環を引き起こすパターンを知れば回避することができるようになります。
 何かを伝えたいときに「アイメッセージ」で伝えるようにすると、対立しないで伝わるようになります。肯定的に伝え、「安全・安心」や「気づきと受容」「自信と自尊心」の流れを意識することが重要になります。伝えるのは「願い」として、しかし「願い」をかなうかかなわないかは自分の問題ではありません。誰にとっても悩みと戦うことは苦しいことです。一歩距離を置いて味わう感覚でいられると少し楽になります。苦しい感情は家族会で聴いてもらい、気持ちを整理することがとても大切になってきます。家族が楽になることは、本人も楽になります。
 「パウンダリー」は心理的境界線といわれます。パウンダリーの側面は①体②考え③気持ちの3つです。考えや気持ちは違っていて当たり前ですが、依存症の問題が起こるとそれが見えなくなりがちです。
家族内の役割は固定されがちですが、それを壊して新しい関係を作っていくことも必要になることがあります。決まった役割から降りて、その関係性を風通しの良いものにしていくことも大切です。
依存症者は、「自分のままを受け入れていく」ことにより、新しい生き方を覚えていけると薬は必要でなくなっていきます。変えられないところを「受け入れて」「責めず」に「恥じない」「自分に対する怒り」を受け入れる
ことができてくると、回復がずいぶん進むようです。
 
毎回、渡邊先生のお話に救われ、教えていただいた道具を実践してきました。状況がぐんとよくなるわけではないですが、自分自身の心を整理し、自分を大切にすることを学ぶことができました。
今回も依存症者本人を「宮様」と思って距離をとるお話をしてくださいました。この考え方は多くの苦しい状況に風穴を開けていきます。今、苦しくて困っている家族はぜひ、実践してみてください。

8月21日(土)第5回「薬物依存症者と家族フォーラム」

横浜ひまわり家族会の5回目のフォーラムを開催しました。
新型コロナ禍による緊急事態宣言下のため、基調講演等はリモート開催となりましたが170名(会場75・オンライン95名)の参加があり、会場参加者とオンライン参加者が広くつながり、問題の共有ができ、多くの気づきが得られたフォーラムでした。
今回の基調講演は埼玉県立精神医療センター 副病院長 成瀬暢也先生に
「やめさせようとしない依存症治療・支援の実践」というテーマでお話をいただきました。

 まずは、家族の体験談としてK子さんのお話がありました。まだ若い息子さんとの葛藤や、ダルクを飛び出してきては戻ることを繰り返していく中での、母としての成長や息子さんへの信頼をどう深めていったのか、リアルな体験談を聞くことができました。息子さんが自分で考えて決める、それを信じて成長を祈る。家族としてみんなが通る混乱や、回復へのきっかけなど、胸を打つお話でした。
そして依存症者本人の体験談は、横浜ダルクのKKRさんでした。去年の3月から横浜ダルクに入寮してプログラムを受けているとのことです。ミーティングに参加し、横浜ダルクにある関連図書はすべて読んだそうです。母との関係に問題があったけれど、それはどちらが悪いということではないと思うそうです。お母様は家族会には参加していないので、参加してほしいと思うそうです。

原宿カウンセリングセンター・臨床心理士の高橋郁絵先生からは、「楽になるってどんなこと?」というテーマでプレセッションをしていただきました。家族のためのセルフケアと当事者への支援は相反するようにみえます。依存症の問題が起こると、家族はすべてを投げ出して当事者を救おうと躍起になります。自分の幸せなど考えることが罪悪感に思えます。しかし、からからの井戸を持っていても、他の人に水を与えられないように、家族が疲弊してしまうと結局は当事者を救えないのだと理解することが大切です。女性は特に、社会から望まれた役割を負わされており家族を助けないで自分を優先することが許されにくい風潮があります。
そんな中でも自分を大切にするためのチェックリストを教えていただきました。
薬物の問題が起こると、依存症者本人も家族もトラウマを抱えてしまいます。本人にもしんどい体験あるのと同様に家族も巻き込まれていく中でトラウマになっていることを自覚してよいのです。緊張と疲労・期待の間を行ったり来たりしても大丈夫だと思いがちですが、混乱の後に精神的な問題が表れることもあります。
本人への対応は情報がかなり増えてきている中で、私たち家族は何を選んでよいのか混乱します。毎日は小さな選択の繰り返しです。一つの選択が一歩先を照らして道が作られていきます。仲間に支えてもらいながら自分を大切にしていくこと、それが当事者の回復への一歩となります。

 埼玉県立精神医療センター 副病院長 成瀬先生からは、「やめさせようとしない治療と支援の実践」と題してお話をいただきました。毎日の診療の中で、依存症について学んでいったことが多いそうです。依存症は誰でもなりうる、そして我慢や意思では止められないということ。日本では道徳や犯罪としての問題に目が向けられることが多い社会です。犯罪のスティグマが押され、バッシングを受けます。依存症者もひどく傷つき社会的に孤立をしていきます。
依存症の治療のコツは、「やめさせようとしない」「無理強いしない」「スリップを責めない」ことだと話されました。治療者や支援者は動機付けできるように働きかけることが大切です。そのためにもひと昔前の社会の規範から逸脱した対応をしないことが重要です。
依存症は廃人になったようなイメージを持つ人も多いですが、そのような状態のはるか前から依存症になっているといいます。早期の対応が早い回復につながります。
治療として大切にしていることは患者との信頼関係を築くことと、動機付けをすることだそうです。ここが一番のポイントで、治療の土台となります。生活上の問題の整理と解決への援助が必要になります。依存症のひどい状態では酩酊して問題から逃げてばかりいたので、ケースワークなどが大切な要素になります。成瀬先生たちが「ようこそ外来」と名付けているように、関係をつなぎ続けることが依存症治療には重要です。信頼関係の中で抱えている問題を聞き出し、解決につなげていけるよう支援が必要です。
依存症の問題を抱えている人は人との関係でストレスを抱えています。自分では解決できないつらさがあり、人の助けを求めることができないのです。依存症は「人に癒されず生きにくさを抱えた人の孤独な自己治療」と言われます。回復のためには、「人の中にあって癒されるようになること」「本音を正直に言えるようになること」「自信を持てるようになること」がとても大切です。自助グループが有効な理由もそこにあります。安心の場で人は癒され、共感を得られるからです。数年前までは、薬を取り上げることにばかり注目していたけれど、生きづらさへの支援をすることで、回復していくことに注目されるようになっています。
家族として、依存症の問題に向き合うときに家族も精神的に参ってしまうことが多いです。家族会に繋がっている人ほど、ストレスが軽減され依存症者本人にも適切な対応ができているそうです。家族にも人とのつながりが重要で、癒されることが大切です。家族は依存症が「病気であること」を社会が受け入れてくれるとずいぶん楽になります。家族として何ができるのか、それはまず「知識」と「対応」を身に着けることです。そのためにも家族が自分を大切にして元気になることが第一歩になります。日本は国としての対応が遅れており、家族の背中にすべてが乗ってきます。これからは、家族が主役の回復を作っていかなければいけないと考えているそうです。
治療の場は、本人が尊重され共感されて安心できるものでなければ回復につながりにくいとのことです。健康な人との関わりが大切であり、支援者も孤立せず人から癒されていることがとても重要になります。共感と信頼の双方向作用が回復にとって重要な要素となります。
患者を尊重し、責めないことで治療から脱落する人が少なくなり、診療の場が明るくなったとのことです。

Q&Aセッションは、成瀬先生、高橋先生、加えて横浜ダルクのセナさんとロンさん、横浜ひまわり家族会のオカヤンで行われました。
高校生の息子さんの問題や、40代の娘さんの問題などについてアドバイスをいただきました。
共通して語られたのは、本人が自分のこととして考えること、家族はコントロールや支配をしないことなどでした。見守ることは家族としてとてもつらく苦しいことです。そこで頼れる仲間を作ることの重要性がわかると思います。

これからも依存症の問題に向き合いながらも、自分たちらしく生きることを忘れないようにしたいですね。

2021年6月26日(土)家族研修会


講師:沖縄ダルク 施設長 森 廣樹氏


 今回の研修会は、沖縄ダルクの施設長、森 廣樹氏と、ゲストスピーカーに沖縄ダルクで回復の道をたどったきんたろうさんの体験談を伺いました。
 
 きんたろうさんは、4年目のバースデーを迎えたということでした。回復の道のりはたやすいものではなかったようです。元いたダルクでは、近隣からの反感が強く雨戸も明けられない生活だったと振り返っておられました。布団を干してもたたけないなど、閉塞感が強くそれがつらくて沖縄ダルクに移ったそうです。開放的な環境でエイサーを通じて外部とのつながりも持てたことがうれしかったと話されていました。
 薬物との関わりは、15歳からで、シンナーやガスなど好奇心から使っていたとのこと。覚せい剤には苦しめられ、親兄弟のお金を使いこみ借金はお母さんが払ってくれたといいます。申し訳ない気持ちと、ラッキーと思う気持ちを持っていたそうです。覚せい剤は本当にボロボロになるまで使ったとのこと。
ダルクへの入寮や生活保護を受けることには抵抗があったけれど、仲間がいたことで救われた、優しくしてくれる仲間に出会い、自分も受け入れることができたそうです。依存症という病気を通して見方が変わってきたと話されていました。

 森さんは、薬物使用18年、クリーン15年になったそうです。中学生のときからシンナーやたばこを始め、覚せい剤は17歳の時から使用。はじめは覚せい剤を使っている仲間を馬鹿にしていたそうですが、3回目に誘われたときに使い、その時の感覚はまだ覚えているといいます。幼少期から父のアルコール、両親のけんかなどで心に穴が空いていて痛みを抱えていたということです。父との関係をうまく築けず、父の無関心にますます不良行為がエスカレートしていったそうです。覚せい剤を使うことでヒーローになった感覚、心の空白が埋まったように感じていたと話されました。20歳過ぎに結婚し息子さんが生まれ、父に顔を見せに行ったとき初めて父と晩酌をしてうれしかったこと、その2か月後に飛行機事故で父が亡くなり、また空白を抱えたまま生きていったそうです。アメリカに渡り、語学留学をしながらビジネスを始めたけれど、本来の自分を探したくてまた薬を使う生活になっていったといいます。日本に帰国してもこう見せたいと思う自分と、本来の自分が合わなくて頑張るために薬を使い続け、逮捕されました。母は家族会で勉強しており、生き方を選ぶのはあなただと言われたそうです。茨城ダルクの岩井氏と出会い、光が見えてきたと感じたそうです。沖縄の厳しいダルクでも仲間がいることに安心し、モデルになる人にも出会うことができたと。欲求も減りありのままの自分を受け入れることができるようになってきたそうです。
 沖縄ダルクの紹介も丁寧にされました。沖縄ダルクは7番目にでき、27年経っています。以前は地域の依存症者を入寮させることはなかったそうですが、今は地域で回復することを目指しているそうです。利用者さんも多種多様で、支援の仕方も多岐にわたっています。弁護士も依存症や回復の仕方を勉強しているということです。沖縄ダルクはたった一か所のLGBTQの利用者を受け入れています。LGBTQの人たちは依存症に加えて性的マイノリティであるため2重3重に居場所がないことが多く、居場所を作りたかったとのことです。見捨てないことを信念にして日々活動しています。
ダルクを運営していることは、回復に向かう瞬間、人が変わる瞬間に立ち会えることが醍醐味だそうです。安心できる仲間の中で安全に失敗しても許される場所で「生きる」ことを支援していきたいと話されていました。

沖縄ダルクでは宮古島に学校を作りたいと動いています。日本ダルク代表近藤さんの強い願いを実現すべく精力的に活動を進めています。
力強いお話で聞いていて元気が出ました。

2021年4月24日(土)家族研修会「家族の回復プログラム」②

講師:群馬ダルク 施設長 福島 ショーン氏・代表 平山 晶一氏

 今回も群馬ダルクより、平山晶一氏と福島ショーン氏を招いて「家族の回復プログラム」②と題しての研修会を行いました。
前回の終わりに機能不全家族の勉強をするとのことでしたが、今回はアリゾナ州の家族会で学んだ脳科学のお話となりました。
 アリゾナの回復施設は家族が家族教室に参加しないと入所を断られるそうです。それくらい家族が依存症の病気を理解することが回復にとって大切だということです。
 病気をしっかり理解していないと偏見(スティグマ)を持ち、回復の邪魔になってしまいます。ディディーズモデル(病気)として理解していくことが重要です。
しかしなぜ依存症は「病気」として受け入れられにくいのでしょうか。それは検査して何かしらの数字で表すことができないからだそうです。病気になる要因としては、遺伝が52%、生活環境が40~48%になるということです。依存症でいえば、環境として使う友だちや家族がいる状況です。
 WHOの病気の3つの基準は、
① 本人がつらいかどうか。
② ②機能不全に陥っているか。
③ ③困っているかで判断するといいます。
慢性疾患としての依存症はこの基準に当てはまります。
 薬を使ったときに、脳内では何かが起こっています。脳内には3種類の物質が必要ですが、ひとつはドーパミン・あとはセロトニンとアドレナリンです。薬物によって影響されるのはドーパミンです。
 薬物をやりたくなるのは、快楽を求める・問題から逃げる・リラックスしたいという理由があるようです。はじめは快楽を求めていた人たちも、すぐにやらないと生きていけない状況になっていくそうです。脳が変わり始めてドーパミンを出すために脳が行動をコントロールするようになります。決して意志の問題ではないということです。脳のあらゆる部分が変容し、セーブすることができなくなり、うつ状態になること、恐れを抱かなくなること、優しさや思いやりが欠落していくなど、人として重大な部分が壊れていきます。そして、考えること、計画を立てること、問題を解決することができなくなります。
 家族がこの病気を理解することは、自分たちを理解することに繋がります。それは問題に巻き込まれているうちに、家族も依存症様の状態になっているからです。私たち家族も同じメカニズムで動いてしまっているのです。
 興味深かったのは、ドーパミンチャートでした。普通の生活で、生きるためにこれ以上のドーパミンは要らないという数字を100として、食べ物やスポーツは80くらいです。アルコールが150、マリファナが180くらいです。そして、家族が共依存になり必死になるとアルコールより高い数値になるそうです。
 では、遺伝と生活習慣ではどちらの依存症が回復しにくいのでしょうか。遺伝の場合ははじめからドーパミンが低い状態に慣れているので、耐える力があり乗り越えやすいのだそうです。

 なんといっても、回復していく責任は本人にあります。病気だから仕方ないと責任を放棄せず、スピリチュアルな方法を実践していけるといいということでした。
家族は本人を回復させる責任はないこと、きっかけを作ることだけが家族にできること、
そして、親がいなくても生きていけるように応援をしていくことが大切だと切に思いました。
 ショーンさんと、プーさんは自分たちの回復をこのように話されました。
「治療を受けるきっかけは、どうにもならなくなったことを認められたから。回復はダルクに入れば回復だと思っていたが、そうではなくて自分の中で変化が起こってきたこと。仲間の中で感じること。感じ方が変化してきた。目指していた回復とは違ったりすることも多い。」

依存症の回復率は4割。その中に入るために私たち家族は何をするか?ともに考えましょう。

2021年3月27日(土)家族研修会「家族の回復プログラム」①

講師:群馬ダルク施設長 福島 ショーン氏 ・ 代表  平山 晶一氏

 今回は群馬ダルクより、平山晶一氏と福島ショーン氏を招いて「家族会のプログラム」の研修会を行いました。

平山氏は横浜出身の方で、高校生の時に薬物を使用し始め、すぐに止まらなくなったといいます。使っていてもすぐにつらくなり、回復の中で癒されてきたとのことです。横浜ダルクのセナさんと同期で一緒に回復の道を歩んでこられました。コロナ禍でzoomでの研修会も多いそうですが、こうして対面でうなずいてもらえるだけでもうれしいと話されていました。

福島ショーン氏は座間キャンプ内で育ち、15歳でブロンを飲み始めたそうです。ハワイでアメリカの回復プログラムを勉強し、群馬ダルク独自の家族プログラムを実施しています。

 コロナ禍では、家族や本人からの相談が増えているといいます。孤立していたり薬物が手に入りにくかったりと原因はさまざまのようです。電話相談や家族間のネットワークを利用するのも一手です。

ショーン氏が回復プログラムにつながったころはまだ「突き放せ」と言われていた時期で、母親に突き飛ばされた様な感じがするそうです。今は、考え方もずいぶん変化し、いろんなことをやってみようという取り組みになっています。群馬ダルクでは家族にも一緒に考える方法をとり、自分たちに置き換える参加型に取り組んでいます。

 依存症の現場でよく耳にする「共依存」という言葉ですが、説明するのは難しいです。今回、「共依存」を6つのタイプに当てはめて説明をしてくださいました。

まず①コントロール:コントロールにも「支配する」「支配される」の2種類があります。子供のころはある程度保護者が支配することで成長していきますが、依存症になってしまうと反発しコントロールしようとします。

支配関係も入れ替わりがあり、お金を要求して支配しようとしますが、お金を親が渡した瞬間に支配が逆転していきます。お金に支配されていきます。要求に付き合わなければ共依存は成立しなくなります。「期待」と「理想」を手放せば支配からはなられると、私たち家族には大きな決断が必要な言葉を聞いたように感じました。薬の問題が大きい時は「生き延びてさえくれればそれでいい」と思っていても、回復してくると欲が出て、理想が出てきてコントロールしようとしてしまいます。親が思うようにできなくても認めてほしいと話していました。②悲劇のヒロイン:ドラマクイーンは「なんで私だけ?」こんなにつらいのはまわりのせいだとか、自分のせいだとか自己憐憫に陥ること。「私は私」になれないことから起こります。日本人は自分を責める傾向にあるそうです。家族の持つ罪悪感が依存症者にも罪悪感を背負わせてしまったり、家族が持つ罪悪感に依存症者が付け込んだりして、よい結果にはならないので責めたくなるくらいなら離れたほうがよほどいい関係になるとのことです。家族もプログラムを受けて元気になることにより、本人も変化していきます。

③ピープルプリーザーは、なんでもやってあげる人のことを指します。共依存と呼ばれる最たるもので、やってあげて喜ばせることがうれしい・自分は犠牲者で余計なこともしてしまいます。他人が中心にいて「自分が気持ちいい」もしくは「やらないことが罪悪感」になり本人にも自分にも害があります。依存症者本人にとっては最高に都合のよい家族です。

④ドアマットは、本人が起こした問題の後処理を家庭でする。つまり尻ぬぐいとなります。家族は「やらない。あなたのために生きているんじゃない」という気持ちを持つことが大切です。

⑤ウォールフラワーは父親に多いタイプでただ立って観ている。上から目線でみて時々中途半端に関わってくることです。半端なくらいなら、何もしないほうがよいといいます。

⑥エンパスは何でも共感する人。おかしいと思ってもやってしまい疑わない人のことです。危機感がなく騙されやすいので都合がよい人です。共依存の中では大変な部類になります。

 共依存は連鎖します。ふつうは家族のために動くことはいいとされますが、依存症が生まれてしまうと通用しなくなります。共依存はコントロールの病です。変えるチャンスはあります。家族はいろいろ勉強しておくことが必要です。依存症者と距離をとること、分離していく教育をすることを大切にして家族へのプログラムを開催しているとのことです。親の責任は、子供を自立させることです。

軽快な語り口のお二人にたくさんのことを学びました。次回は「機能不全家族」についての研修会となります。お楽しみに。