2021年9月25日(土)「2021秋の市民公開講座<9月講座>」

今回の「秋の市民公開講座」9月講座は、マロニエ医療福祉専門学校医療学部 学科長であられる渡邊厚司先生をお招きしての開催となりました。テーマは「回復と成長につなぐコミュニケーション~その点検道具のガイド~」です。
先生は、刑務所のメンタルヘルスプログラムにも携わっており、受刑者の7~8割は何等からアディクションの傾向があるといいます。先生ご自身はアディクションの本人や、家族と出会ったことでご自身が救われていると感じるそうです。
 人との関係の中で困りごとがあっても、解決するための道具を人はなかなか見出せません。依存症も問題に巻き込まれて、どうにもならなくなった本人との関係をどう整理するのか。交通整理をするためのコミュニケーションの道具を紹介してくださいました。
 「アディクション」とは、近代社会のなかで生まれた病気です。人間が商品化されてきた社会の中で、薬物に手を出した人は、商品としての価値が下がってしまいます。いわゆる「傷物」として生きていくのには近代社会はあまりにも過酷となります。高い商品価値が無くなったとき、「酔い」を求めて薬物を使用し、酔うことで自分を守るしかなくなるのが近代社会です。周囲にとらわれ自分の息を殺して、感情を感じないようにする、そのために酔いが必要になってくるのです。「私としての生き方でいいんじゃない?」そう思えてこそ、「酔い」ではない生き方・自分を守る違う方法を見つけられるといいます。
 本人との関わりの中で、本人を変えようとしてしまうこと。本人を変えることがすべてになり、家族も自分自身を見失い、相手がすべてになっていきます。それは家族として依存症の問題に関わったことがあるならだれもが通った道です。人間関係は変えられないのに、正解があると思い込み呪いにかかっていきます。その思い込みはしみついてとらわれてしまいます。本人も自分を変えようとする人にしか出会ってこなかったという人が多いようです。問題を整理して取り組めることに目を向けていくことがスタートです。
子どもが成長していく中で、おむつが取れた時が「自分」になる第一歩だそうです。おむつをつけていると替えてくれる誰かが必要です。そしてこの時期には他者に通じる言葉を持ち始めます。
イネイブリングは、大人におむつをつけ、世話をしている状態だと言います。
本人との関わりで、うまくいかないパターンを知ることも大切です。悪循環を引き起こすパターンを知れば回避することができるようになります。
 何かを伝えたいときに「アイメッセージ」で伝えるようにすると、対立しないで伝わるようになります。肯定的に伝え、「安全・安心」や「気づきと受容」「自信と自尊心」の流れを意識することが重要になります。伝えるのは「願い」として、しかし「願い」をかなうかかなわないかは自分の問題ではありません。誰にとっても悩みと戦うことは苦しいことです。一歩距離を置いて味わう感覚でいられると少し楽になります。苦しい感情は家族会で聴いてもらい、気持ちを整理することがとても大切になってきます。家族が楽になることは、本人も楽になります。
 「パウンダリー」は心理的境界線といわれます。パウンダリーの側面は①体②考え③気持ちの3つです。考えや気持ちは違っていて当たり前ですが、依存症の問題が起こるとそれが見えなくなりがちです。
家族内の役割は固定されがちですが、それを壊して新しい関係を作っていくことも必要になることがあります。決まった役割から降りて、その関係性を風通しの良いものにしていくことも大切です。
依存症者は、「自分のままを受け入れていく」ことにより、新しい生き方を覚えていけると薬は必要でなくなっていきます。変えられないところを「受け入れて」「責めず」に「恥じない」「自分に対する怒り」を受け入れる
ことができてくると、回復がずいぶん進むようです。
 
毎回、渡邊先生のお話に救われ、教えていただいた道具を実践してきました。状況がぐんとよくなるわけではないですが、自分自身の心を整理し、自分を大切にすることを学ぶことができました。
今回も依存症者本人を「宮様」と思って距離をとるお話をしてくださいました。この考え方は多くの苦しい状況に風穴を開けていきます。今、苦しくて困っている家族はぜひ、実践してみてください。