2021年6月26日(土)家族研修会


講師:沖縄ダルク 施設長 森 廣樹氏


 今回の研修会は、沖縄ダルクの施設長、森 廣樹氏と、ゲストスピーカーに沖縄ダルクで回復の道をたどったきんたろうさんの体験談を伺いました。
 
 きんたろうさんは、4年目のバースデーを迎えたということでした。回復の道のりはたやすいものではなかったようです。元いたダルクでは、近隣からの反感が強く雨戸も明けられない生活だったと振り返っておられました。布団を干してもたたけないなど、閉塞感が強くそれがつらくて沖縄ダルクに移ったそうです。開放的な環境でエイサーを通じて外部とのつながりも持てたことがうれしかったと話されていました。
 薬物との関わりは、15歳からで、シンナーやガスなど好奇心から使っていたとのこと。覚せい剤には苦しめられ、親兄弟のお金を使いこみ借金はお母さんが払ってくれたといいます。申し訳ない気持ちと、ラッキーと思う気持ちを持っていたそうです。覚せい剤は本当にボロボロになるまで使ったとのこと。
ダルクへの入寮や生活保護を受けることには抵抗があったけれど、仲間がいたことで救われた、優しくしてくれる仲間に出会い、自分も受け入れることができたそうです。依存症という病気を通して見方が変わってきたと話されていました。

 森さんは、薬物使用18年、クリーン15年になったそうです。中学生のときからシンナーやたばこを始め、覚せい剤は17歳の時から使用。はじめは覚せい剤を使っている仲間を馬鹿にしていたそうですが、3回目に誘われたときに使い、その時の感覚はまだ覚えているといいます。幼少期から父のアルコール、両親のけんかなどで心に穴が空いていて痛みを抱えていたということです。父との関係をうまく築けず、父の無関心にますます不良行為がエスカレートしていったそうです。覚せい剤を使うことでヒーローになった感覚、心の空白が埋まったように感じていたと話されました。20歳過ぎに結婚し息子さんが生まれ、父に顔を見せに行ったとき初めて父と晩酌をしてうれしかったこと、その2か月後に飛行機事故で父が亡くなり、また空白を抱えたまま生きていったそうです。アメリカに渡り、語学留学をしながらビジネスを始めたけれど、本来の自分を探したくてまた薬を使う生活になっていったといいます。日本に帰国してもこう見せたいと思う自分と、本来の自分が合わなくて頑張るために薬を使い続け、逮捕されました。母は家族会で勉強しており、生き方を選ぶのはあなただと言われたそうです。茨城ダルクの岩井氏と出会い、光が見えてきたと感じたそうです。沖縄の厳しいダルクでも仲間がいることに安心し、モデルになる人にも出会うことができたと。欲求も減りありのままの自分を受け入れることができるようになってきたそうです。
 沖縄ダルクの紹介も丁寧にされました。沖縄ダルクは7番目にでき、27年経っています。以前は地域の依存症者を入寮させることはなかったそうですが、今は地域で回復することを目指しているそうです。利用者さんも多種多様で、支援の仕方も多岐にわたっています。弁護士も依存症や回復の仕方を勉強しているということです。沖縄ダルクはたった一か所のLGBTQの利用者を受け入れています。LGBTQの人たちは依存症に加えて性的マイノリティであるため2重3重に居場所がないことが多く、居場所を作りたかったとのことです。見捨てないことを信念にして日々活動しています。
ダルクを運営していることは、回復に向かう瞬間、人が変わる瞬間に立ち会えることが醍醐味だそうです。安心できる仲間の中で安全に失敗しても許される場所で「生きる」ことを支援していきたいと話されていました。

沖縄ダルクでは宮古島に学校を作りたいと動いています。日本ダルク代表近藤さんの強い願いを実現すべく精力的に活動を進めています。
力強いお話で聞いていて元気が出ました。

2021年4月24日(土)家族研修会「家族の回復プログラム」②

講師:群馬ダルク 施設長 福島 ショーン氏・代表 平山 晶一氏

 今回も群馬ダルクより、平山晶一氏と福島ショーン氏を招いて「家族の回復プログラム」②と題しての研修会を行いました。
前回の終わりに機能不全家族の勉強をするとのことでしたが、今回はアリゾナ州の家族会で学んだ脳科学のお話となりました。
 アリゾナの回復施設は家族が家族教室に参加しないと入所を断られるそうです。それくらい家族が依存症の病気を理解することが回復にとって大切だということです。
 病気をしっかり理解していないと偏見(スティグマ)を持ち、回復の邪魔になってしまいます。ディディーズモデル(病気)として理解していくことが重要です。
しかしなぜ依存症は「病気」として受け入れられにくいのでしょうか。それは検査して何かしらの数字で表すことができないからだそうです。病気になる要因としては、遺伝が52%、生活環境が40~48%になるということです。依存症でいえば、環境として使う友だちや家族がいる状況です。
 WHOの病気の3つの基準は、
① 本人がつらいかどうか。
② ②機能不全に陥っているか。
③ ③困っているかで判断するといいます。
慢性疾患としての依存症はこの基準に当てはまります。
 薬を使ったときに、脳内では何かが起こっています。脳内には3種類の物質が必要ですが、ひとつはドーパミン・あとはセロトニンとアドレナリンです。薬物によって影響されるのはドーパミンです。
 薬物をやりたくなるのは、快楽を求める・問題から逃げる・リラックスしたいという理由があるようです。はじめは快楽を求めていた人たちも、すぐにやらないと生きていけない状況になっていくそうです。脳が変わり始めてドーパミンを出すために脳が行動をコントロールするようになります。決して意志の問題ではないということです。脳のあらゆる部分が変容し、セーブすることができなくなり、うつ状態になること、恐れを抱かなくなること、優しさや思いやりが欠落していくなど、人として重大な部分が壊れていきます。そして、考えること、計画を立てること、問題を解決することができなくなります。
 家族がこの病気を理解することは、自分たちを理解することに繋がります。それは問題に巻き込まれているうちに、家族も依存症様の状態になっているからです。私たち家族も同じメカニズムで動いてしまっているのです。
 興味深かったのは、ドーパミンチャートでした。普通の生活で、生きるためにこれ以上のドーパミンは要らないという数字を100として、食べ物やスポーツは80くらいです。アルコールが150、マリファナが180くらいです。そして、家族が共依存になり必死になるとアルコールより高い数値になるそうです。
 では、遺伝と生活習慣ではどちらの依存症が回復しにくいのでしょうか。遺伝の場合ははじめからドーパミンが低い状態に慣れているので、耐える力があり乗り越えやすいのだそうです。

 なんといっても、回復していく責任は本人にあります。病気だから仕方ないと責任を放棄せず、スピリチュアルな方法を実践していけるといいということでした。
家族は本人を回復させる責任はないこと、きっかけを作ることだけが家族にできること、
そして、親がいなくても生きていけるように応援をしていくことが大切だと切に思いました。
 ショーンさんと、プーさんは自分たちの回復をこのように話されました。
「治療を受けるきっかけは、どうにもならなくなったことを認められたから。回復はダルクに入れば回復だと思っていたが、そうではなくて自分の中で変化が起こってきたこと。仲間の中で感じること。感じ方が変化してきた。目指していた回復とは違ったりすることも多い。」

依存症の回復率は4割。その中に入るために私たち家族は何をするか?ともに考えましょう。

2021年3月27日(土)家族研修会「家族の回復プログラム」①

講師:群馬ダルク施設長 福島 ショーン氏 ・ 代表  平山 晶一氏

 今回は群馬ダルクより、平山晶一氏と福島ショーン氏を招いて「家族会のプログラム」の研修会を行いました。

平山氏は横浜出身の方で、高校生の時に薬物を使用し始め、すぐに止まらなくなったといいます。使っていてもすぐにつらくなり、回復の中で癒されてきたとのことです。横浜ダルクのセナさんと同期で一緒に回復の道を歩んでこられました。コロナ禍でzoomでの研修会も多いそうですが、こうして対面でうなずいてもらえるだけでもうれしいと話されていました。

福島ショーン氏は座間キャンプ内で育ち、15歳でブロンを飲み始めたそうです。ハワイでアメリカの回復プログラムを勉強し、群馬ダルク独自の家族プログラムを実施しています。

 コロナ禍では、家族や本人からの相談が増えているといいます。孤立していたり薬物が手に入りにくかったりと原因はさまざまのようです。電話相談や家族間のネットワークを利用するのも一手です。

ショーン氏が回復プログラムにつながったころはまだ「突き放せ」と言われていた時期で、母親に突き飛ばされた様な感じがするそうです。今は、考え方もずいぶん変化し、いろんなことをやってみようという取り組みになっています。群馬ダルクでは家族にも一緒に考える方法をとり、自分たちに置き換える参加型に取り組んでいます。

 依存症の現場でよく耳にする「共依存」という言葉ですが、説明するのは難しいです。今回、「共依存」を6つのタイプに当てはめて説明をしてくださいました。

まず①コントロール:コントロールにも「支配する」「支配される」の2種類があります。子供のころはある程度保護者が支配することで成長していきますが、依存症になってしまうと反発しコントロールしようとします。

支配関係も入れ替わりがあり、お金を要求して支配しようとしますが、お金を親が渡した瞬間に支配が逆転していきます。お金に支配されていきます。要求に付き合わなければ共依存は成立しなくなります。「期待」と「理想」を手放せば支配からはなられると、私たち家族には大きな決断が必要な言葉を聞いたように感じました。薬の問題が大きい時は「生き延びてさえくれればそれでいい」と思っていても、回復してくると欲が出て、理想が出てきてコントロールしようとしてしまいます。親が思うようにできなくても認めてほしいと話していました。②悲劇のヒロイン:ドラマクイーンは「なんで私だけ?」こんなにつらいのはまわりのせいだとか、自分のせいだとか自己憐憫に陥ること。「私は私」になれないことから起こります。日本人は自分を責める傾向にあるそうです。家族の持つ罪悪感が依存症者にも罪悪感を背負わせてしまったり、家族が持つ罪悪感に依存症者が付け込んだりして、よい結果にはならないので責めたくなるくらいなら離れたほうがよほどいい関係になるとのことです。家族もプログラムを受けて元気になることにより、本人も変化していきます。

③ピープルプリーザーは、なんでもやってあげる人のことを指します。共依存と呼ばれる最たるもので、やってあげて喜ばせることがうれしい・自分は犠牲者で余計なこともしてしまいます。他人が中心にいて「自分が気持ちいい」もしくは「やらないことが罪悪感」になり本人にも自分にも害があります。依存症者本人にとっては最高に都合のよい家族です。

④ドアマットは、本人が起こした問題の後処理を家庭でする。つまり尻ぬぐいとなります。家族は「やらない。あなたのために生きているんじゃない」という気持ちを持つことが大切です。

⑤ウォールフラワーは父親に多いタイプでただ立って観ている。上から目線でみて時々中途半端に関わってくることです。半端なくらいなら、何もしないほうがよいといいます。

⑥エンパスは何でも共感する人。おかしいと思ってもやってしまい疑わない人のことです。危機感がなく騙されやすいので都合がよい人です。共依存の中では大変な部類になります。

 共依存は連鎖します。ふつうは家族のために動くことはいいとされますが、依存症が生まれてしまうと通用しなくなります。共依存はコントロールの病です。変えるチャンスはあります。家族はいろいろ勉強しておくことが必要です。依存症者と距離をとること、分離していく教育をすることを大切にして家族へのプログラムを開催しているとのことです。親の責任は、子供を自立させることです。

軽快な語り口のお二人にたくさんのことを学びました。次回は「機能不全家族」についての研修会となります。お楽しみに。

2021年1月23日(土)家族研修会

講師:日本ダルク代表 近藤 恒夫氏

インテグレーションセンター 上野 カハナ所長  高橋 仁氏

弁護士 高橋 洋平氏

今回は、日本ダルク代表の近藤恒夫氏、インテグレーションセンター上野カハナのひとしさん、弁護士でアパリ嘱託研究員の高橋洋平氏がひまわり家族会にきてくださいました。

 近藤氏は昨年、体調を崩され入院をされていたとのことでしたが、元気な顔を見せてくださいました。近藤氏は以前から、ダルクに学校を作りたいと話しておられました。沖縄宮古島の教会を使ってその夢が実現していくようです。

 アルコールや薬物に問題を抱えている人たちは高校中退者が多く、回復の道に入ってもいい仕事に就きにくい現状があります。収入が低かったりやくざの世界に入ってしまったり生活がままならないことが多くなる傾向にあります。少年院に入っている人たちの中には、勉強をもう一度やりたいと思う人が多いようです。

 近藤氏は刑務所を出て8年間、ミーティングに出続けたそうです。「薬物は一人では止められない・仲間が必要。仲間を増やすことを考えダルクを創った。ダルク後はどうするのか、これからの大きな課題。」と話されます。当事者が依存症者の支援をしていくことは合理的で当事者が胸を張って生きていく手助けになります。依存症について次世代の人に早く理解してもらえるようにスタッフには勉強が必要とされます。

 家族は心配しないで子供が旅をして荒波にもまれて、いろいろな人の力を借りることを覚えていく過程を見守ってほしいと話していました。いい友・悪い友関係なくつくればよいとも。そして家族も癒しの場所をもってくださいと!

 インテグレーションセンター上野カハナのひとしさんは、約20年近藤氏のもとで勉強をされていました。今回独立して依存症回復施設を創りました。施設の名前の意味は「差別しない」「ターニングポイント」だそうです。独立することをなかなか近藤氏に言い出せなかったのは自信がなかったことと、親より長く一緒にいたので申し訳ない気持ちがあったとのことです。しかし、「自分がやりたいことをやればいい」と気持ちを決めたといいます。「何ができるわけではないが、仲間に寄り添って孤立させない」という気持ちでやっていきたいと話されていました。近藤氏がよく言う「おっぱいが欲しければ泣きなさい」ですが、ひとしさんは泣き方がわからず困ったそうですが仲間のためと言い聞かせ、資金集めに奔走しているとのことでした。近藤氏との仲がよくわかるハートウォーミングなお話でした。

 弁護士の高橋氏は「新しい弁護のあり方~更生と回復の型」をテーマにお話をしてくださいました。弁護士としての第一歩は、近藤氏に判決を下した奥田弁護士との薬物事犯だそうです。(当時は裁判長)それがきっかけで近藤さんやダルクと関係ができ、藤岡ダルクの琉球太鼓の旗持ちをされているそうで、仲間として受け入れてもらえた感じがしてうれしかったと話していました。事件のこともダルクの人に相談できることもありがたいと。

 リーガルサポートについての話では、裁判官のなかには薬物依存症について理解してくれる人も少しずつ増えてきて判決も様変わりしてきているけれど、理解には個人差がありまだまだ時間がかかりそうです。起訴されなかったけれども治療に必ずつながるわけではなく、また合法ドラッグはそもそも逮捕されないので治療につながりにくい傾向にあります。家族としてはどちらもつらいです。違法でも合法でも、薬物を使わない生き方ができるように支えていく社会になっていけばよいですね。

 高橋弁護士のような方が増えていくことを切に願いました。

令和2年11月28日(土)家族研修会

講師:横浜保護観察所 統括保護観察官 仲野智之氏

 今回は、横浜保護観察所 統括保護観察官の仲野智之氏をお招きして、「保護観察における薬物事犯者の処遇について」をテーマにお話をいただきました。

 まずは「更生保護の役割」とは、犯罪を犯した者及び非行のある少年に対し、社会内において適切な処遇を行うことにより、再び犯罪をすることを防ぎ、またはその非行をなくし、これらの者が善良な社会の一員として自立し、改善更生することを助けるとともに(中略)犯罪予防の活動の促進等を行い、もって、社会を保護し、個人及び公共の福祉を増進することを目的とするものです。保護観察は教育や福祉・保健や医療など多方面の関係者と連携し社会復帰を目指し、再犯防止を目的としています。特に生活環境の調整は、社会にスムーズにつないでいくために必要不可欠となるものです。釈放後の住居や仕事先の調査を行うなどして立ち直りを支える環境を整えていきます。引受人家族会は年に2回開催され、家族がどうしていくべきかを学ぶ機会を設けています。その場に横浜ひまわり家族会からメッセージ活動のために参加しています。引受人会でひまわり家族会のことを知り、家族会につながった方もいらっしゃいます。

 保護観察は、主に保護司によって行われています。近年、対象者の抱える問題が複雑多様化しており、また家族関係の希薄さや住宅環境の変化による生活実態の把握の困難さがあるようです。生活環境の調整や、犯罪予防活動なども保護司によって行われていますが、家族関係の希薄さや地域社会の連帯感の希薄さなどが浮き彫りとなり、犯罪抑制の機能が落ちていることが懸念されています。薬事犯罪は特に再犯率が高く、病気としての治療が不可欠となっています。執行猶予期間に必ず保護観察に付され、再犯防止のプログラムを受けたり、尿検査を受けたりすることが義務となっています。再犯防止プログラムをしっかり受けていると再犯率が低くなる傾向にあると検証結果が出されています。

 保護観察官や保護司による指導には、定期的に面接し悩みや課題を話し合える関係作りを大切にしているということです。薬事犯罪者は自分の悩みを相談する経験がない場合が多く、人との信頼関係を結ぶのが難しい傾向にあります。他者から大切に思われる経験こそが自分を大切にできる気持ちを持てるようになります。必要な支援につながり、生きづらさが和らいでいく可能性が出てきます。私たち家族の安定も、相談できる誰かを作ることですね。本人にも家族にも大切なプロセスです。

 薬物再乱防止のプログラムは依存症専門外来などでも適用されているプログラムです。ダルクのスタッフがファシリテーターやアドバイザーとして参加する場合もあります。保護観察期間が長い人は繰り返しプログラムを受けているそうです。そのプログラムの後に、自助グループにつながることが回復への大きなステップになりますが、実際のところ難しいようです。

 家族ができること、それはどの研修会にも共通することですが、まずは家族が回復することです。家族も自助グループで仲間を見つけ、助けを求められることが大きな安心につながります。そして迷いはあるでしょうが、家族が相談することによって本人の回復のチャンスが生まれます。本人も家族も抱え込まずに相談するスキルを身に着けることが非常に大切なステップです。

講義のあとは、個別相談にものっていただきました。

令和2年1月25日(土) 家族研修会

講師:神奈川県立精神医療センター 福祉医療相談科
精神保健福祉士 井上 恭子 氏 
薬物依存症者への対応 〜CRAFTを取り入れて〜

  今回は、神奈川県立精神医療センターの福祉医療相談科・精神保健福祉士の井上恭子氏をお招きして研修会を開きました。現在の神奈川県立精神医療センターの未受診電話相談件数は1年間に800件を超えているそうです。家族からの相談が350件ほど、本人からは280件ほどです。
 
今回はCRAFTという認知行動療法に基づいた技法をうまく取り入れて薬物依存症者本人を治療につなげていくことに焦点を当てたお話が中心でした。本人の内なる動機をつけるための技法です。

ポイント1として、目標を設定します。
ポイント2は間違い指摘反射を封印すること。間違いを指摘されると怒りや防衛の気持ちが働き心を閉ざしてしまいます。童話の「北風と太陽」に通じる考え方をすると有効です。
ポイント3はアドバイスしたいときは本人の許可を取ってから話すこと。本人が拒否するなら無理して話さないことです。
ポイント4は共感です。ここでいう共感とは、受け入れることです。同じ気持ちになる必要はありません。
ポイント5は褒めること。具体的に・4すぐに・上から目線でなくなど。これからも続けてほしい行動に対して是認の言葉をかけるとよいそうです。
ポイント6は本人の関心がどこに向いているのか時々観察し、本人の気持ちに添うことです。

 家族のなかのコミュニケーションを変えていくことも大きな変化を呼び起こします。「私」を主語にして話す練習をするといいですね。簡潔に肯定的な言い方をすることが大切です。また、あいまいな言い方をせず、具体的な行動に言及すること・感情に名前を付けて自分を分析できること・感情を整理すること・責任の一部を引き受けることなど留意する話し方がたくさんあります。
暴力がある場合は本人だけの問題で、家族に責任はありません。暴力のサインに気づき、静かに立ち去るか話題を切る、警察を呼ぶなどの対応をするようにしましょうということでした。

家族が陥りやすい行動として、小言・説教・懇願などがあります。どれも本人にとっては自分に対する不平不満と取り、また怒っていてもまだ相手にしてくれていると思います。世話を焼くことも誰かが何とかしてくれると思い、責任を自分で取ろうとしなくなります。世話を焼きたくなった時がチャンスです。やめること・・・これが本人の行動に変化をもたらす場合があります。実行しない脅しもやめること。効果がないばかりか、どんどん本人の要求が大きくなります。
依存症に向き合うのは家族も疲弊します。どうにもならない状況を変えようとすればするほど泥沼に入ります。対応を学んで自分の生活を取り戻すこと。これがのちに依存症の問題に上手に対応できるようになる鍵です。

依存症は再発しやすい病気です。本人の様子に一喜一憂せずに、家族は勉強し続けることが重要だということでした。

井上先生には個別の質問にも丁寧に答えていただきました。手を出しすぎず、見守るしかないこともあるけれど、少しずつ何かが変化していくように思います。

まさに「平安の祈り」です。

11月24日(日)家族研修会

 「保護観察における薬物事犯者の処遇について」 横浜保護観察所  統括保護観察官 中野智之氏

 今回は横浜保護観察所の統括保護観察官の仲野氏をお招きして、「保護観察における薬物事犯者の処遇について」というテーマでお話をしていただきました。

 更生保護とは「犯罪をした者及び非行のある少年に対し、社会内において適切な処遇を行うことにより、再び犯罪をすることを防ぎ、またはその非行をなくし、これらの者が善良な社会の一員として自立し、改善更生することを助けるとともに(中略)犯罪予防の活動の促進等を行い、もって、社会を保護し個人及び公共の福祉を増進することを目的とする。(更生保護法第1条)」を基本としています。犯罪をした人や非行のある少年が健全な社会の一員として更生するように、実社会の中で保護観察官と保護司が協働して指導監督・補導援護を行う制度です。保護司はボランティアで、無給ですが、犯罪や非行をした人たちの立ち直りを地域で支える大きな役割を果たしています。法務大臣から委嘱された保護司は保護観察官に協力して保護観察・生活環境の調整・犯罪棒の活動などを行っています。

 保護観察を通じて犯罪をした人たちに得てほしいのは、

・悩みや課題を話し合うことのできる関係作り

・自分が大切に思われる経験

・問題の解決方法に関する知恵の習得などで、生きづらさが和らぐようになる方法を知っていくことだそうです。

地域に密着した人間味のある処遇を目指しているとのことでした。

薬物事犯は再犯率が高く、保護司もどうしたらよいのか難しいようです。

薬物事犯に特化した保護司が存在するわけではないのです。専門的な保護司を養成する制度はない状態です。

 保護司になるための要件や、地域を超えて保護司活動ができるのかなど会場からの質問にも丁寧に答えていただきました。また、保護観察所で薬物事犯者の依存症の認識については、特に判断はしていないそうです。薬物事犯者には回復プログラムを受けてもらい、継続的に支援していきたいとのことでしたが、プログラム終了後はNAなど自助グループにつながるほか、支援がない状況です。

 刑の一部執行猶予制度ができ、刑罰から治療へと制度は少しずつ変わってきましたが、犯罪者ではなく病者としての医療・福祉の支援がつながっておらず、地域の受け皿がもっと充実させ、生きづらさを軽減する切れ目のないサポートを望みます。

7月13日(土)家族研修会

講師:筑波大学大学院 人間総合科学研究科 ヒューマンケア科学専攻 医学医療系 社会精神保健学 准教授 森田 展彰先生

本日の研修会はいつもお世話になっている 筑波大学大学院 准教授 森田 展彰先生をお招きしました。薬物依存症、DVをはじめとして幅広く研究、業績を重ねてきていらっしゃる権威ある大先生です。物静かで謙虚な語り口は“権威”はみじんも感じさせず、むしろ「メッチャ」「ムッチャ」と若者言葉を交え、チャーミングな一面も見せ、難しく深いテーマ「様々な依存症の家族支援  共通するポイントと多様性への対応」(依存症と他と重複した問題を抱えているケースへの対応)を事例を交えて分かりやすく、講義していただきました。

1、共通する支援のポイント 2、依存症という疾患の種類と特徴  3、回復の時期による課題の違い 4、重複障害で起きる依存症等との影響  5、重複障害がある場合の家族の理解と回復支援を考える 6、多様性を尊重した対応とオープンダイアローグについてと講義がありました。

1、 共通する支援のポイント

・道徳的な観点で対応せずに糖尿病等の慢性疾患という観点で対応していく。

・世話焼きから家族は手を引く、本人が自分がやっていることが上手くいかないとしみじみ自分で気づくことが“変わりたい””止めたい“というきっかけになる。

・もたもたしていたり、危なっかしくても本人なりに試行錯誤してやっていくことを見守る。それに対してイライラしたりがっかりしたこと等を家族会で共有すると良い。

2、依存症という疾患の種類と特徴

 ・上記原則をもとに多岐にわたる依存症の種類や関係性、背景にある生活上の問題、重複障害等等、個々にどう線引きしていくかが大切で且つ難しさもある。

・例えばインターネット、ゲーム依存症の場合は未成年者も多いため“世話焼きから手を引く”と生活の面倒まで手を引いてしまうことは出来ないことやこだわりが強い傾向(自閉症スペクトラム等)があると“気付き”も難しい、など。

3、回復の時期による課題の違い 

・依存症からの回復をしていく時期は家族と本人は離れることが必要となるが、一生離れるということではなく新しく家族との関係を構築していけることもある。家族は「止められた。止められたのでこの状態が続くのは当たり前」とは思わないこと、再び過干渉にならないことがそこには必要となる。

・薬物等止め続けていても、ルールが守れない、昼夜逆転等の生活の乱れ等問題が長く続くときは依存症の回復途上の不安定な問題ということだけではなく、薬物使用により後遺症(精神病障害等)が残った、或いは薬物使用以前からもともとあった(発達障害、躁鬱、統合失調症、トラウマ等)ものかを判断し、重複の問題が認められるときは別の支援にもつなぐことが必要である。

4、重複障害で起きる依存症等との影響

・服薬を守れず、他の障害が悪化することがある。

・依存症の回復支援になじめない。(ダルクのミーティングで座ってること、話すことが難しい、一人の方が良い等)

5、重複障害がある場合の家族の理解と回復支援を考える 

・‘依存症’‘精神健康障害’‘発達、人間関係、生活’の3側面から回復支援を考える。

・複雑な面もあるが、当事者。家族・援助者のコミュニケーションをしっかり取り連携を取れれば、やっていけることがある。

・家族は依存症・精神障害・発達障害などの知識を持つことで、線引きすべき点を見つけることが出来てくる。

・数か所、数名と連携を取る中で、異なる意見、指示があっても情報を整理していくことや柔軟にとらえる余裕も必要である。

・依存症のサイクルに巻き込まれない事と重複障害がある依存症者の生きにくさは急には変えられない、時間を要することを家族は受け入れる。

6、多様性を尊重した対応とオープンダイアローグについて

・依存症へは段階的なアプローチを行う。

・依存症と他の重複が明らかな場合、どちらを優先して回復を目指すかは、個々に考える。

・生活・対人関係の場の確保と長期的な取り組みを考える。

・依存症や重複した問題があっても「ダイアローグ」(対話)が気付きや回復に有効な手段となり得ると最近分かってきた。

・オープンダイアローグとは‘開かれた対話’で当事者、家族、医療関係者、ケースワーカー等チームで対話をすることで、特に大事なことは精神医学的診断等の視点は脇に置き(上下関係)、当事者を尊重し、結論を出すことが目的ではなく、様々な人がいくつもの意見をテーブルに出すことを大切にしていく。

「しゃべりが止まらなくなっちゃいました」と準備してくださった資料で飛ばしたページもありましたが、どの内容も新鮮で且つ特に重複問題で悩んでいる家族に勇気を与えていただく補足説明ばかりでした。家族からの質問も止まらず終了時間が押してしまいました。森田先生、お忙しい中、時間オーバーでも質問に答えていただきありがとうございました。また続きは次回お呼びした際に聞かせてください!と楽しみが増えました。

6月22日(土)家族研修会

講師:群馬ダルク 代表 平山晶一氏、施設長 福島ショーン氏

今回の研修会は横浜ひまわり家族会 初の講師です!群馬ダルクの代表 平山晶一氏、施設長 福島ショーン氏をお招きしました。

ショーンさん(下のお名前でお呼びさせていただきます)は日本全国津々浦々?家族会やセミナーなどに行ったが、家族会の歴史が長い横浜ひまわり家族会だけは声を掛かけてくれず、今回やっと念願が叶った、と最初の自己紹介で私たちの笑いを取ったところからのスタートで、期待通り最後まで私たちを巻き込みながら母親やパートナーとの体験談を交えながら軽快なテンポで、本当にあっと言う間でした。

まず、平山さん、ショーンさんの体験談でした。それぞれ依存症に移行していくプロセスと回復のストーリーがありましたが、平山さんの「周りの友人も普通に大麻を吸っていたけれど、年齢が上がるにつれ普通にやめていったが、自分だけはやめることが出来なかった」は、横浜ひまわり家族会に相談にみえる家族の口から質問されることがあります。本人も“どうしてなんだろう”と思っていたのですよね。つい「周りはやめたのにどうしてあなただけやめられないの?」と責めるような言い方になって疑問をぶつけることが、本人を追い込んでいたことに気付かせられました。生きづらさを抱えていた中で、依存する薬物に出会ってしまい、一時生きやすくなったと勘違い?して使用しているうちに、今度はやられなくなってしまう・・という点はショーンさんも同様なことを話してくださいました。また回復していくきっかけは「家族が変わったこと」という話が私たち家族にとって、こころに大きく響きました。

その後、スライドで“本人のためにできること”を一つひとつ解説し、また一つひとつそれぞれ体験談を交えて語っていただきました。

・本人が大きな病気になったときのように接すること(大きな病気だと分かるとその病気のことを勉強したり、病気に良くないことは遠ざけたりする)

・常に本人と自分の依存症に関する病気と回復の勉強をすること

・本人に昔話や説教をしない、他者と比較した話をしない

・安全な環境が必要で、薬物等依存になるきっかけを与えない(本人の前でお酒を飲む等NG)

・本人が家にいるなら、ミーティングに行く時間を与える等、自分の時間は認めてあげる(ルールは必要)

・過去を懐かしむのではなく、これからの人生を作っていくこと

・自分の遊ぶ時間を作る

・本人が負うべき責任を肩代わりしない(イネーブリングしない)

・マイナスの経験をさせることが本人の変わるチャンスになる

・たとえクリーンが続いていても、互いに納得した境界線を作り、それは守る

・経済的なサポートはしない(どうしても必要な時でもお金は渡さない)

・病気の恐ろしさを忘れないこと

などの話はすべて大変に分かりやすく納得できたものばかりでした。平山さんはにこやかに落ち着いた語り口調、ショーンさんからは手ぶり身振りで軽快な語り口調と、コンビネーションも良く、楽しかったです。

それと。ときどき質問も飛んでくるので集中して聞かないと慌ててしまうことにもなり、程よくハラハラする時間でもありました。ちなみにわたしは「依存症は病気だと言われだしているものの、“意思が弱いだけでしょう”などと、どうしても世間に認知されないのはなぜでしょうか」と質問され、ドギマギしてしまいました。「血液検査に出ないから」とある家族の方が発表してくださり、ピンポンと正解でした。レントゲンでも、心電図でも出ないので、病気という認識が持てないというのは、本人も同様なのだろうな、と改めて思いました。

また「昔はかわいかったのよ」など、何気ない親の言葉が傷つくと聞き、世間話のようにしてきたかもしれないと、どっきりしました。

家族が陥りがちなこと、家族としては気付かなかったことを話していただいたので、すべてが家族会の皆さんにとって関心が大変高い内容での研修会でした。家族からの質問も止まらず時間が足りなかったほどでした。終了後私たち世話役に寄せられる家族の皆さんの声は「とっても良かった!!」という声ばかりでした。平山さん、ショーンさん、ありがとうございました。また横浜ひまわり家族会に是非来ていただきたいと思っています!

5月25日(土)家族研修会

講師 日本がルク代表 近藤恒夫氏

アパリ弁護士 高橋洋平氏

今回の研修会は「ダルク」の創始者である近藤恒夫氏をお招きしお話を伺いました。近藤氏は1985年に薬物を断ってから34年に渡りクリーンであられるとのことです。

「ダルク」は組織化することなく必要なところで出来ていった、まるでタンポポの綿毛が飛んで落ちたところに芽が出るように増えていっている・・・そんな表現をされていました。

「ダルク」は増えていってもその活動をサポートする人を増やしていかないといけない。そのためには社会的に信用のある人を巻き込んで支える体制を作って行きたいとのことでした。

昔の薬物依存症者は暴走族など反社会的な人たちが多く、亡くなって行く人も多かったそうです。現在はおとなしいひきこもりタイプが多いとのことです。

「ダルク」は人と群れる練習の場と捉えて、友達が作れる場として機能しています。「ダルク」の人たちは学校にあまり行けなかった人や、辞めてしまった人も多く、学び直しの場をこれから作っていきたいと考えているそうです。「ダルク教育支援財団」を作ってスマホなどで新しい学びの場を提供していき、薬物で崩れた人生を取り戻せるようにしたいと熱く語っておられました。

今回はアパリの弁護士・高橋洋平氏も来てくださいました。弁護士というと硬いイメージがあり、前に立って引っ張って行くという姿勢でいるとうまくいかないことが多かったそうです。少し斜め前をゆっくり歩くイメージでいるように心がけているそうです。治療に繋げていく過程では、本人が何を求めているのかを知ることが大切で、粘り強く関わっていけるように心がけていらっしゃるとのこと。同じ目線で話せるよう努力をされているそうです。

借金問題は多くの人が抱えています。普通は借りたら返すという感覚が身についていて当然なのですが、それができなくなって破たんしていきます。家族も本人もメリットやデメリットをよく知ってから解決に当たれるとよいと思います。自己破産などデメリットも大いにあることを知っておくことも大事です。

「刑の一部執行猶予」が実施されているが再犯率も大きく変わらないとのことです。刑法ではない方法で薬物依存症の問題を考えていかないといけないと話されていました。法務省管轄の自立準備ホームも3~6か月は利用できるがそのあとをどうするのか、全く連携が取れていないといいます。何度も刑務所の入ると社会復帰はどんどん難しくなります。病気という側面をいかに考慮して裁判をしているのか、もっと訴えていかなければいけないと思っているということでした。

研修会の後には、個別相談にも応じていただきました。